詩79
  線路の脇の可憐な野の花に
              2011.9.16
線路の脇に
ひともとの野の花が咲いている
何故か、神の悪戯か
こんな所に──
(可憐に咲いた
名も知らぬ花)

ところで、列車がやってきて
無数の車輪が通過する
線路の上を轟きながら
その度に──
野の花は
しきりに頭を振って見送っている

もとより車輪は
気づくこともなく通過する
それでも 花は懸命に
くる日もくる日も
頭を振って見送っている

花の命は短くて
いつしか花は散ってゆき
今日も
線路を
無数の車輪が通過する
もとより車輪は無情であれば──
そんな花のことなど誰が知ろう! 


   ジーパン
                2011.10.7
箪笥の奥からとり出した
一着のジーパン
学生時代にはいていたが
腰回りが太くなって
仕舞い込んでしまっていたジーパンを
はいてみると
不思議にフィトする
少し気恥ずかしい感じもするが
捨てるに忍びず
日々 はいている

着用していると
仕舞い込んでいた間の
年月を思い出す
まめにネクタイを締め
スーツをキッチリ着込み
がむしゃらに歩き続けた
年月
ほとんどジーパンをはくことなどなかった
ひたすら奉仕に励んだ
四十年の歳月
この人生で得たものは何か?

すでに定年退職をはたして
また 取り戻した自由
むしろ学生時代より以上の
自由──と
青春の懊悩も今はなく
熟れた果実のような充実
しかして
私はこのジーパンをはいて
再び人生を楽しもうと思う
そう
第二の青春を謳歌したいと思う

だが
このジーパンに縫いこまれた
一つの思い出を
───今ではほろ苦い思い出
あの熱情、
あの日々の充実を
私は
はくたびに思い出すが
もう再び
取り戻すことはない

      散歩しながら作る

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