宮沢賢治の周辺を探る T  その2 [岩手山]

                                 
高瀬正人
  『ふるさとの山に向かひて言うことなし、ふるさとの山はありがたきかな』(啄木)....。岩手山は岩手県民のシンボルに違いない。深田久弥は「雄偉にして重厚、東北人の土性骨を象徴するような山」と言っている。

 盛岡より秋田街道を抜け小岩井農場を抜けると、綱張温泉である。本来ならば、岩手山は最も古典的な登山路である柳沢より登りたかったのだが、交通の便とアプローチを考え綱張より登ることとした。

 岩手高原ホテルでのリッチな1泊に満足し、早朝、綱張スキー場のリフト乗り場に向かう。ここでもアプローチを節約(本当はいやだが日程上やむを得ない)。振り返れば、小岩井農場の緑が美しい。標高700mの綱張より一気に約1,300m付近まで高度を稼ぐ。少し稜線を行くと裏岩手縦走コースの道と合流し犬倉山(1,408m)。更に姥倉山を巻きながらクマザサの歩きやすい道を登る。

 やがて切通しという眺望の良い鞍部に出た。稜線より、八幡平の高原台地が一望される。山麓の草原は光り輝き、美しいウエーブとなって連なっている。早池峰は遠くに霞んでいる。岩手山はまだ遠くに感ずる。黒倉山を過ぎ、稜線よりはずれ、お花畑コースを目指す。沢伝いに行くと、ほどなくアオモリトドマツの樹林と鬼ケ城の岩壁にかこまれた美しい湿原、八ツ目湿原に出た。文字通りのお花畑である。岩手山の山ふところに抱かれた静寂さと美しさ、更に小鳥のさえずり、ここは桃源郷である。もう一度岩手山を訪れても、ここはぜひ訪れたい。そんな気持ちにさせてくれる所である。

 更にゆるやかな樹林の中を屏風尾根〜岩手山と進む。眺望も行き交う人もなく、あせりと不安を覚える。コルに出るまでが実に長く感じられ厳しい登りであった。このお花畑から屏風屋根の稜線上には平笠不動避難小屋という立派な小屋があり、岩手山(薬師岳)本峰まで指呼の間だ。この一帯はコマクサが自生するという。最後の火山特有のガレ場を登り詰めると、道祖神が迎えてくれた。

 岩手山頂、標高2,041m、別名岩鷲山、薄曇りながら、北に岩木山、東に姫神山、早池峰、北西に八幡平、秋田駒ケ岳、そして眼下に広がる北上川のゆるやかな流れ、盛岡の街、小岩井農場と続く。振り返ると八ツ目湿原の奥に御苗代湖のエメラルドグリーンがひときわ美しい。しばし、みちのくの山々に想いをはせる。下山路は御鉢を廻り柳沢を下る。八合目には立派な非難小屋があり、ここで登頂記念のタオルと登山証明を買う。眼下に賢治の詩にも出てくる鞍掛山を見ながら、山頂で知りあった地元の青年の案内をうけて楽しい下りとなった。

      

(コースタイム 綱張5:30−犬倉山6:30−岩手山頂10:30〜11:00−柳沢、馬返し13:00)              (平成2年8月13日)

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