宮沢賢治の周辺を探る T  
        岩手三山を訪ねて その3 [八幡平]   

                      高瀬正人

 みちのくシリーズの2年目、第一目的の賢治研究の息抜きとして、去年登れなかった八幡平を目指す。盛岡駅より約2時間、多くの観光客で賑わう満員のバスに揺られ、松尾鉱山、スキー場を経由し秋田県境の見返峠に着く。峠よりゆるやかに整備された歩道を20分、鏡沼、めがね沼を見ながら頂上展望台に。

 八幡平には際だった峰がなく、この三角点のある所が最高点である。緩やかな高原状の台地はこれといって特徴もないが、八幡平でおもしろいのはその名前である。茶臼岳(ちゃうすだけ、1,578m)はよく聞く山名だが、安比岳(あっぴだけ、1,458m)、畚岳(もっこだけ、1,578m)、諸桧岳(もろびだけ、1,516m)、嶮岨森(けんそもり)、杣角山(そまづのやま)等、実にユニークな名が多くおもしろい。

 最高点より茶臼岳へ向かう。八幡平といえば必ずこの写真が使われている八幡沼を横に見ながら過ぎる。アオモリトドマツと湿原の中、道は緩やかに下っている。高山植物保護の為に渡り板が設けられている。ニッコウキスゲ、コバイケソウ等が風に揺れる。ほどなく源太森(1,519m)展望台に着く。樹海の中より抜き出たこの頂からは、八幡平の緩やかな台地が十分に見渡せる。『源太森』、一度聞いたら忘れない名だ。

 更に『黒谷地(くろやち)』と呼ばれる湿原を過ぎ、茶臼岳の登りにかかる。アスピーテライン越しに岩手山の稜線が美しい。茶臼岳は1,578mの標高を持つ、アスピトロイデ(楯、釣鐘状火山)である。八幡平最高点より約2時間の高原逍遥であったが、眼下にアスピーテラインを見ながらの逍遥ではやや興覚めであった。アプローチを手軽に楽しんでいながら、自分の身勝手さに苦笑し、このいたって便利なアスピーテラインのバスに飛び乗った。

 八幡平の素晴らしさを語るには、アスピーテラインからいかに離れ、その深さをいかに味わうことができるかにあると思う。八幡平の魅力はアオモリトドマツに代表される原生林とアスピーテやトロイデ火山による湖沼、高層湿原、高山植物等の美しさにある。更に、火山といえば温泉。藤七温泉、蒸(ふけ)ノ湯、草の湯、松川温泉、綱張温泉とくればまさに「おゆぴにすと」推薦の第ー級コースとなる。いつの日かこの裏岩手縦走コースを「おゆぴにすと」諸兄と共に堪能してみたい。 
(コースタイム 盛岡8:42−見返峠10:45−八幡平最高点11:10−茶臼岳12:50−アスピーテラインバス停13:20−盛岡16:20)                (平成3年8月16日)

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