◆久々の坊がつる行(2011.10.10,狭間会員) 10月8日、7月以来久しぶりに坊がつるにテントを張った。金曜日を半ドンにして午後から出かけようとしたものの、予定外の仕事が入ってきて、結局キリがついたのは翌土曜日の昼過ぎとなった。とりあえず買い置きのフリーズドライ、レトルト食品、冷凍庫にあるご飯など、テントほか装備をザックに詰め込み、長者原に着いたのが2時ちょっと前。タデ湿原もススキ野に衣替えしてすっかり秋の装い。3連休初日、好天だけに散策を楽しむ人も登山者も多い。

      
           九重長者原タデ原湿原                    雨ヶ池

 雨ヶ池コースを約2時間ほどかけ心地よい汗をかいて2か月半ぶりに坊がつるのテント場着。道中そこここに深まりゆく秋の気配を感じ取ったが紅葉の盛りは10日ほど先だろう。で、テントの多さにまずびっくり。4時過ぎ時点でざっと数えて70張り、その後もわずかながら増えたので80張りほどか。

このごろ定位置となった‘いつもの場所’に一人用テントを張り日没まで四面の山々、行きかう登山者を眺めながら過ごす。6時頃、スガモリ越付近の稜線に日が落ちると、途端にぐっと気温が下がってきたので、そそくさとテントに潜り込みレトルトのハヤシライス、ふかひれスープの夕食をつくる。昨年来の坊がつるテント行では「高熱隧道」「梅里雪山」「剱岳点の記」「空白の5マイル」などわりと集中して読破してきた。が、今日明日の両日読書三昧のつもりで持参した「ナンガパルバート単独行」は、我がテント周辺の老若男女の喧騒と英文の直訳的な退屈な文章とで、どうも読書に集中できない。自分の定位置にこだわり過ぎたためで、坊がつるにわかテント村の近隣住民の蘊蓄ばかりが耳に入ってくる。


            
                       坊がつるテント場 この日は80張りほど

日本一のテント場

 テント場で意気投合したらしい、件の近隣の中高年の数人が、坊がつる談議に延々と花を咲かしている。グループの話を総合するとこうだ。…坊ヶつるは日本一のテント場だ。四面山々に囲まれた絶好のロケーション、広々としてどこまでも制限がなくテントの設営場所の選択に自由度が高い、全国的にも意外に貴重な草つき、豊富な水と炊事小屋、避難小屋とトイレ、すぐ近くの温泉と食堂、それに山中にもかかわらず酒屋があり格安の酒(ヱビス500缶が400円と北アルプス山小屋の半額)が購入可能、しかもこれだけの条件が揃って無料、それゆえ小うるさい管理人の小屋もなく自由闊達にふるまえる、さらに何かあれば救急車もパトカーもかけつける、などなど…。なるほどなあ、ここじゃあ我々地元登山者には当たり前のことなのに遠来の客人にとっては、このキャンプ地はことのほか有難いということか。

 その坊がつるで今日はアルコールも温泉も抜き…静かな読書三昧のつもりが、そんなこんなでちょっと騒々しく時が経つ。別にそのことが不快なわけでは決してない。我々が若かった頃は相当騒いでいたような気がするから、今では多少のことは鷹揚に構えていられる。むしろ、例えば若者ならもっと放歌喧騒もあってもよいのではとさえ思う。

 それはともかく今夜の坊がつるは寒い。それを見越して今回は少し早いとは思ったが、冬山用羽毛シュラフを持参したにもかかわらず、だ。独りだけに寒さもひとしおだ。それでも、テントを打ち続く雨に36時間釘付け状態となった1週間前・雷鳥沢のテント場に比べれば天国のようなものだが。

            
           坊がツルの朝…隣のテント住人によるとテント内でも今朝は3.7℃だったとか

ハンチング
 先般のくぬぎ山荘での栗秋正寿さんファミリーとの交歓の夕べの際、高瀬からハンチングを貰った。彼の言によると「娘からのプレゼントなので大事にしたいところだが、どうも自分にはハンチングは似合いそうもない。おゆぴにすとでは狭間さんだけが似合いそう。だから狭間さんに是非使ってもらいたい」と。

普段身にまとうものにはまったく無頓着な私だが、こと山ではいつもおしゃれを気取りたいと常々思っている。帽子にしてもそうだ。過去にはとっかえひっかえいろいろ試してはみたが、自分には帽子は似合わないと諦めきっていたから、たとえ半分お世辞と分っていてもハンチングが似合うと言われるとその気にもなる。まんざらでもない気持ちで、貰ったハンチングをかぶったまま家の玄関をくぐると家内曰く「良く似合うよ」と。“豚もおだてりゃ木に登る”だ。すっかりその気になってしまったのは言うまでもない。

 ところでハンチングってどんな人が似合うのだろうか。高瀬や家内によると痩身、長顔に合うらしい。そこで今になってあらためて気付かされたことなのだが、おゆぴにすとでは唯一、私は長顔だということ、高瀬の言葉に得心。痩身、長顔でどこか思慮深げな憂いを帯びた風貌…たとえて言えば‘痩せたソクラテス’のような、単独登山ではいつも密かにそうありたい、そう思われたいと思ってはいるのだが…。

 なお、件のハンチングはウール100パーセントとの表示があり、であれば洗濯は不可に近く、汗をかかなくて済む街かぶり用であって、せっかく山仲間に頂戴したものだが山ではもったいない。そこで今回この坊がつる山行には、別のハンチングをかぶってきた。

というのも、ハンチングを意識するようになって以後、登山用帽子として専用のハンチングがないかと気にかかり出した。そんな矢先、宝塚出張の途次、ICI石井スポーツに立ち寄ったところ、TARAS BOULBA(アシックスのブランド)のハンチングが目に止まり即購入となった。件のハンチングとほぼ同系色の色合いだが、ウール地にアクリル、ポリウレタン、ポリエステルを配合したアウトドア用だ。今後冬枯れの時期の登山にはこれを愛用することにしよう。また、高瀬に貰ったものは、一人静かに飲む秋〜春までの居酒屋用としよう。

            
  こんなハンチングが似合う‘渋い’男になりたい(左:独り静かに飲む居酒屋用、右:冬枯れの時期思慮深い孤高の山旅用)

というわけで、今回はハンチングをかぶっての初めての記念すべき山行なのだ。

‘孤高の山旅人(やまたびと)’目指して
 ハンチングが似合うかどうかよりもハンチングが似合うような人になりたい、そういう山の歩き方をしたい。それはこれからの山に対する姿勢の在り様、言動の在り様にかかるだろう。

山は、本心としては気心の知れた古くからの山仲間と気ままに登りたいところだが、山を想う心に変わりはなくても、山に行けるかどうかの環境には仲間により千差万別、様々な事情がある。共に楽しみたいという気持ちはあってもそれを強いる気持ちは近頃薄くなってきている。一方、我々に残された可動時間は有限だ。‘一シーズン一シーズンを大切にしたい’…これは大分登高会の基本姿勢だ。このことにこだわり、これをいつまでも踏襲していきたい。だから孤高にならざるを得ない。そしてハンチングが似合う、それがトレードマークと言われるような、思索深い、渋みのある‘山の旅人’になりたい。

坊がつるを独り静かに歩きながらそんなことを今回考えた。

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