岩井川岳 静かな山歩き
    
      
            岩井川岳山頂付近 雲間かすかにに阿蘇五岳の日ノ尾峠が
                   「九重の山頂直下にこんな広々とした草原があったのか」と思わず驚嘆する


 若いころから九重には何度となく足を運んだが、還暦を過ぎたこの歳になっても足を踏み入れたことのないコースや、ピーク、山域がまだいくつかある。岩井川岳(1522.0m)もその一つ。‘いわいご’岳と読む。登山道はないものと思いこんでしまっていたが、昨年扇ヶ鼻から赤川温泉へ高瀬、栗秋両会員と下った時、踏み跡らしきものが遠望でき、その後調べてみると、九州横断道路開通前に発行された「九重山」(しんつくし山岳会昭和36年発行)の折り込み地図にもルート図がちゃんと載ってるし、ネット閲覧でも立派な登山道、しかも登山届のボックスまで整備されていることがわかった。いや、知らなかっただけのことだ。不勉強の誹りは免れまい。

 高瀬とは一緒に登ろうと約束していたのだが、どうもこのところの彼との約束は一方的に空証文を突き付けられることが多く、当てにしていては実現はなかなか覚束ない。

 そう、「下ノ廊下は勝手に行かないように」と言ったかと思えば「上ノ廊下をいつかやりましょう、ガイドなしでも‘上’なら遡行可!」、昨年笠ヶ岳から立山への大縦走の計画段階では「長次郎雪渓を含む剣周辺は栗秋を含め11年あるいはそれ以降に」(2010.6.5狭間メモ)、挙句「来年は前穂北尾根に! トップは私が務めます」といった具合だ。優先事項がめまぐるしく変わるのだ。無類の読書家はこれだから困る。直近に読んだ山岳書の強い印象にその都度こころが、目標が揺らぐのではないか、この人の場合は。その都度翻弄される私。

 「先日は扇ヶ鼻の岩井川岳ルートの紹介ありがとうございました。又、白馬の行程了解致しました。ゆったりとした山旅といで湯を味わってください。なかなか行く機会のない山域なので報告を楽しみにしています。帰ったら、岩井川岳をいきましょう。」(2010.9.15付メール)ということだったが、その後立ち消え。

 1年後の今年、九重の秋真っ盛りの先週再度提案したのだが、「体長不良につきご遠慮申し上げたく候。それよりも体長回復の暁、夏木〜犬流越の大のこ、小のこにお付き合いくだされたく候」と。ではでは、大のこ小のこにと変節・約束したものの、「のっぴきならぬ案件のため無期延期にいたしたくご勘弁を」ときた。

 で、やむなく今日のソロ山行となったしだい。このコースは熊本県側からはわりと登られているようで、知れば知るほど静かな山歩きには格好のコースだと解かってきた。前置きが長くなったが、以下はその紀行。

 11月3日(土) 小雨のち曇り 愛車フォレスターで長者原に着いたのが9時37分。小雨ではあったが天気は高曇りで回復に向かう。気ぜわしく身づくろいをして9時47分発熊本方面行きの九州横断バスに乗り込む。25分ほどの所要で筋湯温泉入口バス停で560円払って下車。登山口はバス停を熊本方面に数分歩き小田川に架かる橋を渡って、ものの数分のところ。杉木立の林道には‘瀬の本登山口’と書かれた標識も登山届のボックスもある。「岩井川岳から扇ヶ鼻を経由して牧ノ戸峠登山口へ、さらに九州自然歩道でもある長者原・牧ノ戸コースを下って午後3時に長者原」という本日の登山計画概要をちゃんと真面目に届け出た。

 杉木立の中、林道の緩やかな傾斜は登るほどに増し、道幅も狭くなり、いつの間にか登山道となる。左手小田川の谷を挟んですぐ近くに猟師岳が見えるため、西に寄りすぎではと、ルートミスが少し不安になる。それでもアセビや雑木のトンネルを潜ったりしながら、熊笹の稜線に達すると、「九重の山頂直下にこんな広々とした草原があったのか」と驚嘆するほどの野っ原が現れる。途中で扇ヶ鼻登山道から逸れ、熊笹の草原の中の一すじの小道を5分ほどで三角点に達し‘岩井川岳山頂’の標識がある。

     
          アセビのトンネル(左)と岩井川岳の1522.0mのピーク(右) 下から見上げるとピークに見えるが

 広々とした鈍頂は阿蘇五岳をはじめ遠くは雲仙普賢岳まで見通せる眺めの良い場所だ。振り返ると扇ヶ鼻の意外に大きな山塊が迫る。5分ほど山頂からの展望を楽しんだ後、先程の分岐まで引き返し、20分少々の急登で扇ヶ鼻山頂(1698m)着。ここまでのコース中出会った登山者は数組であったが、扇ヶ鼻山頂には数十名が思い思いに弁当をひろげ、楽しそうに賑やかに語らっている。その傍らで巻きずしとラーメンの昼食をとる。2時間少々の静かな山歩きから急に喧騒の中に入ってしまったという感じだ。

              
                     岩井川岳三角点付近にて筆者

 山は仲間と楽しく登るのが一番だが、独り静かな山歩き、これはこれで大事にしたい。今日はこれまでの静かな山歩きに徹しようとすれば瀬の本登山口から岩井川岳をピストンするという選択肢もあった。車を長者原にデポした今となってはちょっぴり悔いが残る。で、ミヤマキリシマの時期かと見まがうほどの人の群れをかいくぐりつつ牧ノ戸峠まで足早に下山。

 牧ノ戸峠から長者原への登山道は九州自然歩道となってもうかなり以前に整備されている。それこそ何十年振りかでこのコース約3.5kmを下りに採った。牧ノ戸峠付近の大勢の人混みとは打って変わって、再び信じられないほど静かな谷筋の小道を、柄にもなく井上陽水など聴きながら、紅葉をなごり惜しみつつ静かな山歩きの締めくくりとした。

                
                  牧ノ戸・長者原コースの紅葉 冬はもうそこまで

 帰路は下湯ノ平温泉幸せの湯(100円也)で汗を流した。(2011.11.5 狭間 記)

(コースタイム) 瀬の本登山口10:18→岩井川岳分岐11:42→岩井川岳三角点11:47→岩井川岳分岐11:58→扇ヶ鼻山頂12:22→牧ノ戸峠14:08→長者原登山口15:20

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