厳冬、涌蓋山紀行                             
栗秋和彦

  「ひょんなことからまだ見ぬメル友、I 女史と新雪の涌蓋山を歩くことになった。しかもそのまま雪で火照った身体を鎮めるべく、九重は星生倶楽部に投宿して湯三昧の果ての雪見酒を楽しもうという算段であった。ところがこの山行を聞きつけた挟間兄は『オレを忘れてはいけないよ!』と宣いつつ非難轟々の体だ。もちろん『主役でオレも同行する』と言い張る。『仕方ないか、来るものは拒まずだ!』という経緯はあったが、この山行は実現の運びとなったのだ!」などと書いたらおじさん怒るやろなぁ。 

ごめんごめん、真実を話します。実は I 女史、いにしえの我が山の会“大分高登会”に一時期籍を置いた岳友でありまして、偶然、“おゆぴにすと”のホームページを覗き込み、大分という地に惹かれて訪問するうちに、お互い(この場合はホームページ管理者の挟間と I 女史)の氏素性が分かって仰天?したという次第。これに筆者も加わりメールをやり取りするうちに、涌蓋山行が実現した訳だが、前述のように同じ山の会に所属していたとはいえ、短期間の在籍ゆえ山行を共にしたことはなく、ショージキなところ殆ど記憶になかった。 

 そこで当時、夏の北アルプス合宿で槍から立山まで一緒に縦走した現高瀬夫人の洋子ママや耶馬溪に嫁いだ守谷美代子嬢(当時)へ声をかけて、久方ぶりに同窓会的山行をしようと目論んだのだ。しかし直前の親族の不幸事(高瀬夫妻)など各々世俗事に遮られて参加することは適わなかった。折しも週の半ばに寒波襲来で、新雪の山を楽しむ絶好の機会でもある。ならば少数精鋭?で決行するしかない。まぁ、初対面みたいなものだが、“案ずるより生むがやすし”であろうとの思惑を秘めて、JRは豊後中村駅で迎えた。そしてなるほど最初は初対面の体であったが、登高会時代の話題が断片的にどちらからともなく出はじめると、少なからず共通項も確認できて、あぁ27,8年の時空を超えたセピア色の思い出がポツリポツリと甦ってくるのだ。そぅ、あくまでも断片的ではあるけどね....。

         
                
雪の中、ひっそりとした佇まいのひぜん湯 

  閑話休題、先ずは雪の涌蓋山である。四季彩ロード〜九重少年自然の家経由で筋湯までは殆ど雪もなく、いたってスムーズ。ところが筋湯駐車場に車を置き一歩旧道に入ると、カチンカチンに凍った雪道であった。恐る恐る登山口のひぜん湯へ下りつつ、なるほどと思ったのは、メインルートはスキー客のためにきれいに除雪していたという事実だったのだ。となれば涌蓋の頂まで雪中登山は約束されたようなものであって、これはかなり期待してもよさそうである。実際、ひぜん湯からジグザグ道を一気に高原台地まで上がると、クラストした雪原と刺すような寒風に身をさらす様は、我が身に凍てついた冬の九重を忠実に投射してくれる。冬のシーズンと言えどもこう条件が揃う日は、そぅ何日もあるまい。さすれば純粋無垢にこのひとときをたっぷりと楽しまなくてはなるまいし、しぜんとピッチも上がった。 


    

しかしそれも涌蓋越へ至る樹林帯に入ると、めっぽう雪深くボソボソと喋る我々の会話も、綿帽子を被った木々に吸い取られたように、しんしんと時は流れた。多少の風音は認めても概ね静かな山歩きも存分に楽しむことができたのだ。まさに冬の九重にふさわしいシチュエーションのなか頂を目指した訳だが、さすがに頂稜に達すると北西面からの強風が吹きすさび、草原独立峰の面目躍如だ。ハイキングシーズンなら九重の峰々を仰ぎ、豊後、肥後の山々を眺め、眼下の草原を愛でながらのんびりと昼食を楽しめるところだが、身の置き所のない寒風雪稜ではそれも適わぬ。星生、久住、中岳、三俣、大船と連なる峰々の豊富な雪量を推し量り、滅多にないチャンスをものにした幸運を自らに刻み込んでしまえば、そそくさと退散だ。そぅ下りは速く、涌蓋越からひぜん湯へ至る雪原は薄日を浴びつつ、正面に九重の連山を見据えながらの行進なので、くじゅうを独り占めにして闊歩するが如く、気分爽快であったぞな。

           



  
      
中腹から泉水山〜黒岩山方面を望む            みそこぶし山
 

  さて久々の雪の涌蓋に接し、喜色満面の山行であったが、微弱硫黄泉でゆっくり温まった後のもっぱらの関心事は雪深き湯宿での小宴会?になろう。挾間の目利きで厳選した食材の数々、先ずはしゃぶしゃぶ用としてジューシーな超高級豊後牛に目を細め、釧路産の肉厚タラバガニに頬ずりしたい欲望を抑えつつ、大柄のカキが韓国産というだけで脈絡もなくキムチパワーに想いを馳せたり、或いは輸入海産物の是非を巡って口角泡を飛ばしたりと、かまびすしい。そしてそれを助長するかのごとく、正統派エビスビールで喉を潤した後は、挾間差し入れの銘酒「義侠」で宴は大いに盛り上がったと思っていたが、よくよく考えてみるとこの宿でのいつものパターンであって、居心地のよさは云わずもがなか。同窓会的酒宴は深夜まで及んだが、この時期さすがに九州第一級の高冷地は夜半に戸外で−9℃を差し、ほろ酔い加減の身に改めて厳冬の九重を思い知った。う〜んブルブル、そしてゆるゆると時は流れゆく。山のいで湯の真骨頂ここに有り!であって、力強く頷くしかなかろう。(もちろんこの時刻挾間は夢の中であったろうぞ)

              

             
宿の支配人も加わって楽しい長者原の一夜

(コースタイム)

2/1 大分8:15⇒(車・松ケ丘発 東大道〜豊後中村駅経由)⇒筋湯温泉駐車場10:20 31→ひぜん湯10:39 42→涌蓋越11:53 12:01→涌蓋山12:47 13:02→涌蓋越13:30→ひぜん湯14:21→筋湯温泉駐車場14:30 45⇒(車)⇒星生倶楽部15:00(泊・大宴会)

2/2 星生倶楽部11:00⇒(車・吉部〜由布院経由)⇒大分12:45

参加者 挾間、栗秋、I 女史(会友)(平成15年2月1〜2日)

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