晩秋の阿蘇外輪・俵山リハビリ登山の巻

                        
栗秋和彦


 出張の帰途、阿蘇は南外輪の雄・俵山(1095m)に登った。本来なら南郷谷の底、久木野から護王峠を経て山頂を踏み、熊本平野側の萌の里登山口へ下りるのが、この山ののびやかで重厚な山容を体感するのにベストな選択であろう。しかし骨折リハビリ中の身では大言壮語は避け、堅実コースの選択も仕方あるまい、と運転手兼介護人の同僚・鶴田兄の了解も取り付け、俵山峠からの往復コースとした。

 なるほど標高760mの峠からは標高差340m足らずで、90分のコースタイムとある。スペックは楽ちんさを物語っていたが、「リハビリ、リハビリ!」と念仏を唱えながらの身である。自制心を忘れちゃならぬのであります。おっとしかし快晴無風の絶好の登山日和を費やすには、いささかもったいない気がしないでもない、とこっそり反芻したのも事実。往生際の悪さは、困ったもんだぃ。

  
  俵山登山地図(俵山峠、久木野、萌の里の3つの登山口がある)    俵山峠の展望台から阿蘇五岳を仰ぐ

 で先ずは峠の展望台からカヤ野に付けられた黒土の一本道を慎重に登った。患部に装具を着け登山靴を履いているので、多少のぎこちなさは仕方ないが、のっけの登路は霜柱に覆われサクサクと小気味いい。順調な滑り出しだが、解けたら難儀に決まっている。下山時も解けていませんように、と願うばかりだ。

さてひと登りで外輪山の稜線に上がると、平坦な草原歩きへ変わり、更にカヤ野や灌木帯の踏跡を徐々に高度を上げるといったあんばい。その道中は木々の間から左手に阿蘇五岳を眺めながらの稜線漫歩だ。そして行く手に俵山の東西に長い山頂を仰ぐようになると最後の急坂が待っている。ここもまた黒土は霜柱に覆われて復路が気になるところだが、背後に広がる南郷谷と阿蘇五岳の大パノラマをちょくちょく振り返りながら一気に詰める。久々に息を荒げた登りであったが、東外輪壁の頂稜に至ると西へわずかで広々とした俵山の頂であった。峠からおよそ70分の歩程。心地よい汗が山頂の冷気に触れて晩秋の外輪山上に居ることを思わせたが、陽も高くなり無風と相俟っては、小春日和の山頂シーンに違いなかろう。

   
   外輪山縦走路から俵山を望む    俵山山頂から阿蘇五岳を眺める   山頂で介護人・鶴田と筆者

 阿蘇五岳の展望はもちろん、その左手奥に九重連山、右手遠方には祖母傾の稜線がくっきりと浮かび、さんさんと降り注ぐ陽光に映える。類いまれなる格好の日和と介護付き?登山の労を取ってくれた鶴田兄に感謝感激雨あられ?である。と山頂でのひととき、雄大なカルデラの縁に立ち瞑想に耽ると、南外輪の山々のたおやかさを絶妙に表した与謝野鉄幹の句「すすき原みな逆立て阿蘇へ向き、風のぼるなり外輪の山」がしみじみと湧きいずり、しばし筆者は仙境の徒となったのだ(なる訳ないか)。

 さて復路は霜柱対策箇所を除けば、いたってスピーディかつスムーズに下り、50分で峠の展望台に辿り着いたが、思ったとおり急坂の霜柱道はじくじくと解けはじめ、部分的には手こずってヒヤリとした場面も。しかしここで滑って転んで捏ねたりすると、痛さ以上に周りからの風評被害が身に沁みるのは想像に難くない。傍から見ればその姿はまさにへっぴり腰そのものであったろうが、カッコウよりも「転ばぬ先の杖」的行動を優先したのだった、フーフー。

   
  おだやかな縦走路から阿蘇山を   栃木温泉・小山旅館の内湯二題(営業休止中なれど特別に浸る)

 と先ずは10月の骨折後、初めての山登りは何とか完遂できたが、これに気をよくして以降はバリバリ登れるものでもない、と思っている。と言うのも帰宅後、患部に体重をかけると微妙な違和感があり、それなりに負担を強いた登山だったことが分かるのだ。ゆえに当分は負担の少ない山、或いはコースを選んで患部と相談しながらリハビリ登山を試みようと思っているが、「一番いいのは治るまで登山やランニングなど厳禁だよ!」と言われるのは分かっていますとも、ごもっともである。それを承知の上で性懲りもなくエクササイズにうつつを抜かす性癖こそ問題であろうが、堂々巡りの様相を呈しそうなのでお開きとしたい。で次は二番煎じ(※1で師走10日に瀬の本〜岩井川岳〜扇ヶ鼻〜牧ノ戸の忘年山行を目論んでいる。介護人(同行者)の協力があってこその計画なのは言わずもがなだが、往生際の悪さは織り込んだ上で粛々と臨むほかあるまいなぁ。

(※1)おゆぴにすとHP お便り欄 「岩井川岳 静かな山歩き」(2011.11.5,狭間会員) 参照

参加者 栗秋、鶴田

(コースタイム)俵山峠(展望台)909→雨量計方向分岐930→東外輪壁頂上(護王峠への分岐)1015→俵山1018 41→俵山峠(展望台)1131  帰途、南郷谷は栃木温泉・小山旅館入湯

(番外編写真)

  
   出張先の内牧温泉の某ホテル屋上露天から日の出  同ホテル屋上から黎明の温泉街と阿蘇山のシルエット 

(平成231126日)

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