天高く馬肥ゆる秋、宗像四塚連峰縦走の記       栗秋和彦

その1 城山〜金山 極上の照葉樹林を歩く(10/12
 毎日博多への通勤途上、車窓から見つづけてきた山、城山(じょうやま369m)にカミさんと登った。宗像市と遠賀郡岡垣町の境にどっしりと構えるこの山は、JR教育大前駅から4050分、マイカーなら中腹の登山口から30分ほどで登れる手軽な山なので、多くのハイカーで賑わっている。その証拠に道すがら大勢の家族連れや中高年グループと逢い、または前後して登り、人気の高さを実感するとともに、念願の山頂を踏んでようやくの感ひとしおと言ったところ。

    
          宗像四塚連峰概念図              城山登山口の城山水(水場)       城山中腹で一服

 もちろんこの山だけではもったいないので、北へ連なる金山(317m)を踏み、地蔵峠に降り立って、帰路はJR赤間駅まで舗装路のテクテクハイクを敢行したが、縦走路は昼なお暗い照葉樹林の森林浴が楽しめ、その種類の多さ、植生の密度の濃さや豊かさには圧倒されっぱなしだったのが偽らざるところ。ちなみにその種類、銘板を頼りにメモを取っただけでもウラジロガシ、ハゼノキ、タブノキ、コナラ、イチイガシ、ヤブツバキ、カヤ、カゴノキ、バリバリノキ、チシャノキ、イヌシデ、ノグルミ、スダジィ、クスノキ、ヤマナシなどなど、まさに森の見事さは天下一品で、木漏れ日が織り成す森の陰影、葉擦れや小鳥のさえずりと言ったこの森の総合力を体感し、愛でるだけでも来た甲斐があったというものだろう。

   
      城山山頂にて憩う            城山から見た孔大寺山遠望        金山山頂から孔大寺山を仰ぎ見る

 さてこの連山、地蔵峠を挟んで更に北方へは盟主・孔大寺(こだいし)山〜湯川山とつづき鐘崎で果てるが、この山なみを宗像四塚(よつづか)連峰と呼ぶ(今日初めて知ったのだが)のだそうだ。ならば次回は是非、孔大寺山〜湯川山と繋ぎ、全山縦走を果たしたいと思っているが、低山歩きに嵌りつつあるカミさんにとっても、ちょうどいい目標ではないかと勝手に思っている。

 とそれはともかく快晴爽快な秋の一日、念願の山を歩き、フィトンチッドをたくさん浴び、健康増進を図れたことに感謝しなければなるまい。フフフ...しかし本音の部分は下山後のJR赤間駅ホームでの缶ビールののど越しに膝を打ち、電車内でのうたた寝の心地よさに時を駆け、帰着後は門司駅北口の眺望露天の「楽の湯」へ直行して、関門海峡の潮風に身を委ねつつ炭酸水素塩泉の露天風呂に浸ることでようやくの完結を見る。これを抜きには今日の山歩きは語れない、と強く思うんでありますね。

 それにしてもこの季節、空は高く、青く、流れる雲も繊細に美しくなってきて、見上げるだけで爽やかである。また秋の移ろいを愛でるだけではなく、下山後、JR赤間駅までの道すがら、方々の用水路を眺めるとコイやらフナ、ハヤなどの雑魚がのんびりと泳ぎまわっている風景も心和ませるものがあり、車に頼らず歩くことで自然の営みを肌で感じるのも大きな利得だと思わずにいられないのだ。

 (コースタイム)
JR教育大前駅1017→城山水(登山口)1033 36→城山1109 27 →石峠1158 1200→金山・南岳1219 24→金山・北岳1236 55→地蔵峠1330 35→JR赤間駅1442  歩行距離約11


その2 孔大寺山〜湯川山を歩き完全踏破達成!(10/18
 宗像市と岡垣町境界に横たわる宗像山地を地元では「宗像四塚(よつづか)連峰」と呼び、先週その南半分の城山〜金山を縦走して地蔵峠に降り立ったことは既に述べた。ならば性分として残りの宿題を片付けねばどうも落ち着かぬ。つまりは地蔵峠〜孔大寺(こだいし)山〜垂見峠〜湯川山〜承福寺と歩き、宗像四塚連峰完全踏破を達成せねばとの思いである。おっとしかしたかだか縦走距離で16kほど、標高400500mの準里山を2回に分けての行程だもの。「完全踏破達成!」などと大仰な表現は慎みたいが、今まで殆ど登ることのなかったカミさん同伴という意味で、ちょっぴり叫びたい気持ちを察していただけようか。

 で今回のコースを先週と比較すると、同じ四塚連峰でも地域差が読み取れて興味深い。最も大きな相違点はこのコースの静寂さに有り。城山〜金山縦走ではたくさんのハイカーと出会い、特に城山は登路、山頂とも大勢の老若男女で賑わっていて、メジャーさは顕著。地元の人たちに親しまれている様子がよく分かったが、地蔵峠以北はほぼ静寂の世界であった。もちろん先週は三連休中日の日曜日、今回は通常の土曜日だったので、賑わいに若干の違いはあろう。しかしそれを加味しても今回、地蔵峠から湯川山までで出会った人は6名+犬一匹、湯川山山頂で出会った人7名+犬一匹がすべてとあって、随分と静かな山旅が楽しめた反面、少々寂しかった面は否めない(身勝手な言は分かっていますとも)。

   
      孔大寺山への登路              孔大寺山山頂から湯川山を見る           懐かしの垂見峠

 二つ目は城山〜金山に比べて照葉樹林の密度が薄く感じられたこと。裏を返せば植林(杉林)が稜線部まで進んでいることの証かもしれぬが、心なしか照葉樹の種類も少なく、豊穣盛んな城山の比ではなかった。まぁそれでもこのコースは連峰の最高峰・孔大寺山(499m)を踏むという大儀があり、城山と比較すること自体が意味をなさないと言っておこう。

 でその孔大寺山は地蔵峠からちょうど50分の歩程。ゆるゆると登った割りには意外にもあっけなく辿り着いたが、狭い頂は樹木が茂り、湯川山方面を残して展望は得られずちょっと心残りではあった。しかしここから垂見峠までは部分的にけっこうな急降下を伴い、たかだか準里山の類じゃないか、と侮るなかれ。設えられたロープを頼るカミさんの必死の形相と嬌声が森の静寂を破っていたのは間違いのないところか、フーフー。

 そしてほぼ下りきったところには見事なマテバシイの樹海が広がり、それを抜けると突然眼下に垂見峠が横切る。車の走行音がせわしげに下界の営みを知らせてくれるが、この峠はまた遥かいにしえ、おゆぴにすと三銃士(挾間、高瀬、栗秋)の一人として出場した、第二回玄海トライアスロン大会(1986年)バイクコースの最大の難所だったことを思い起こさせるのだ。もちろん当時は峠からの豪快なダウンヒルを拠り処に、苦渋の上りに耐えた記憶ぐらいしか思い浮かばないが、この峠の両側にかくなる峰々が鎮座してトレッキングコースを分け合っているとはツユとも思わなんだ。とそれはともかくあと一山、眺望麗しき湯川山(471m)を踏めば、玄界灘へまっしぐらさ(それで終わりだよ)とカミさんへ言い聞かせながら徐々に高みへと詰める。

   
            湯川山への登路2題                       湯川山山頂から玄界灘を臨む

 さて岡垣町内浦からの登山道と合流したところで緩やかな稜線に出た。次第にカシ、シイ、タブノキ、マテバシイなどの照葉樹に混じって杉林も巾を利かせるようになり、ほどなく無線中継塔、更には車道も現れて、他の山にはなかった人工臭の漂うさまが見てとれるのだ。と言うのもこの日、山上一帯を乱舞するパラグライダーの群れは(※1、車が通うことで頂上近くの発進地からテイクオフを可能せしめたもので、山頂で憩う登山者も華麗な空の舞いを見上げながら共感するに至る。しかし果たしてそれがいいことか否かは分からぬ。垂見峠から1時間ほどかけて辿り着いた山頂付近には車が留まり、パイロット諸兄の発進準備を垣間見ると、どうも場違いな山に登ってしまったのかと逡巡してしまうのも道理だ。

    
 (※1岡垣町でパラグライダー大会開催(西日本新聞10/23記事参照)         湯川山登山口の承福寺にようやく辿り着く

まぁそれでも(乱舞する)天空はそこそこ無視して、眼下に広がる玄界灘の眺望を愉しもう。穏やかな秋の日和、爽快な涼風に吹かれながらの昼食タイムは心躍るひとときだ。JR教育大前駅を起点に、二週連続で繋いだ宗像四塚連峰の縦走はやっと最終ピークに辿り着き、今その頂に居ることのヨロコビを噛み締めながら山上のひとときを過ごす。特に穏やかな海の蒼さに鐘崎の突端部から玄界灘を経て地島、大島とつづく紺色めいた島影が溶け込むさまを俯瞰すれば、秀逸至極と唸るしかあるまい。その意味でたとえ人工臭じみていても、この一点で湯川山の存在意義は高まれこそ忘失することはなかろう。承福寺への下りでそんな思いを反芻しながら、全山縦走の余韻に浸ったが、おっとその前にカミさんの頑張りにも敬意を表しておかなくては、次回以降の山歩きに支障をきたすこと必定なり。これは言わずもがなでしょうよ。

(コースタイム)
 JR赤間駅920⇒(タクシー)⇒地蔵峠931 33→山田地蔵尊への分岐1012→孔大寺神社への分岐1021→孔大寺山1023 28→松尾のピーク1059 1105→垂見峠1125 28→内浦分岐1142→NTT無線中継塔1200 02→九電中継塔1216→湯川山1224 1310→承福寺1348 57→高向バス停1423 27⇒(西鉄バス)⇒JR赤間駅1454 歩行距離約12
                                   (平成201012日、18日)
           

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