福岡市の展望台、立花山登山と千早温泉・極楽湯入湯     栗秋和彦

  長月も下旬、秋分の日を迎えても残暑はしぶとく残る。あぁ、秋の爽やかな風を受けて軽やかにエクササイズとはいかないものか。で唐突に思い付いたのが往復電車を使ってのエコトレッキング。下山後に温泉でも浸ってビールなんぞ飲めれば、軽やかとはいかずともエコロジーを味方に付けただけ、多少の享楽些事は許されよう。ならばと物色したのが、かねてより気になっていた福岡市街を展望する立花山だ。福岡市東区新宮町、久山町の境界に位置するこの山は、古くから海路、陸路の目印とされ、万葉集にも登場?する由緒正しき名山だし、鎌倉時代末期の1330年には豊後国守護の大友貞載(さだとし)頂に山城を築いたとされ、当時の石垣や古井戸が残っていて、山麓にはその後の城主・立花氏を祀る神社や寺院がある。

 つまりはいにしえの時代から戦国末期の廃城まで、博多の町や筑前国の変遷を見つづけてきたこの山の歴史の一端を肌で感じたいとの思いが募った。フフフ...大義名分は強固かつゆるぎなかったが、たかだか標高367mの低山ながら2002年の改定(※1で九州100名山の一つに選定されたことも脳裏に残った。その意味で一回は登ってみたいとのミーハー的理由の方が優っていたのかもしれないが、低山ゆえにカミさんも誘って、ますます大義名分はゆるぎないものになってきたのだった。

    
                        登山口付近は整然とした杉林の登路  立花山大クスは「森の巨人100選」の一つ

 で1時間ほどの列車の旅を経てJR福工大前駅で下車。100円バスで麓の立花小学校前まで行き、登山開始としたが、おっと登山と言うには大仰か。まぁハイキングの趣に近く、標高367mは丘みたいとの思いは偽らざるところなり。しかしカミさん同行のハイクゆえ、ゆっくりあせらず時間をかけての登りが肝要であって、途中修験者の滝コースへ取り、大クスの見物に費やしたのも含めて山頂までおよそ1時間もかかってしまったが、(ペースを合わせるのに)いちずに我慢することの大切さを学び取ったつもり。しかし今日は蒸し暑く汗びっしょりで、たかが400m足らずの低山と侮ってはいかんぜよ、の教訓も得たのだった。

 ところで天然記念物に指定されているこの大クスは、幹周り7m余り、樹高30m、樹齢は300年を越えているといわれ、他にも立花山南面一帯に600本ほど自生しているという。ここのクスノキの特徴は自生の北限にあって、神社の境内などで見かける、こんもりと横に広がる木ではなく、少しでも太陽の光を取り込もうと一様に背が高く、この規模のクスの自然林は他に例がないとのこと。実際、圧倒的な巨木が立ち並ぶこの森を歩くと、フィトンチッドいっぱいで自然の真っ只中を泳がされているような感覚に陥るから不思議だ。大都会、福岡の近郊だからこそこの価値は尊いと思うのだ。

 一方で山頂からの展望は広く大きく、特に博多湾に浮かぶ人工島や海の中道、志賀島、能古島などは手に取るように分かり、なるほど古くは海路、陸路からの目印にされただけあって、以前海の中道や能古島から仰いだ立花山の雄姿を思い起こすと、そのまったくの裏返しを今見遣っているだなぁと思うんであります。願わくばもう少し視界良好なら、もっとその眺めを堪能できたのに、とないものねだりをしたくなるほどのひとときであった。

      
          立花山山頂二題(中:博多湾と海の中道方面を臨む)                山頂を後に照葉樹林帯の急降下コース

 でゆっくりと眺望を楽しんだ後は次なる三日月山(272m)への縦走にかかった。山頂の奥から南へ、コナラ、シイ、タブノキの自然林の踏跡を急降下すると、西に下原への下降ルートと合するが、南へ延びる主尾根を忠実に進み、次第に東面が杉林へと変わると三日月山は近い。この間、多少のアップダウンはあるものの、なだらかで木漏れ日の差す気持ちのいい尾根歩きを満喫して気分は上々。カミさんも先ほどの急降下から逃れて周りを愛でる余裕ができたのか、足取り軽やか口数も多めに、照葉樹林の観察に余念がない。未知なる山への不安はすでに払拭され、彼女も心地いい稜線漫歩を楽しんでいるに違いなかろう、ホッ。

 とほどなくの頂は草原状で遮るものはなし。高さこそ立花山に劣るものの360度の展望が開け、足元には九州一の大都会、福岡市街の広がる景色を欲しいままにできるのは、この頂が随一というのも十分うなづけるのだ。そしてたくさんのハイカーがそれぞれの流儀でこのひとときを楽しんでいるかのよう。山上を吹き渡るおだやかな初秋の風が、居心地を増長させる要素のひとつになっているのは間違いのないところか。

 さて下山ルートはわずかに戻り、西麓の東区下原地区へ降り立ってハイク終了。そのままタクシーで千早の極楽湯(れっきとした温泉なのだ!)へ直行して、小ぶりながらも山といで湯を堪能したのだった。もちろん湯上りの生ビールの美味しかったこと筆舌尽くし難し。

     
      三日月山山頂二題(左:頂上台地から立花山を望む 中:福岡市街遠望)              千早温泉・極楽湯でゆったり

(※1九州100名山は、1992年、山と渓谷社によって選定された九州の山100選だが、2002年に改訂版が発表され、27座が入れ替わって、以降 新・九州100名山と呼ばれている。

(コースタイム)
JR福工大前駅10:32⇒(バス)⇒立花小学校前10:47 48→(修験者の滝経由)→クスノキ原生林11:22 32→屏風岩11:35 37→立花山11:46 12:17→下原分岐12:30→三日月山12:45 13:00→下原2丁目(下山口)13:23→香椎への本道13:35 39⇒(タクシー)⇒千早・極楽湯14:00
                        (平成20923日)

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