門司アルプスの難峰?おにぎり山攻略の記           
                                                  栗秋和彦
 我が家の背後に聳える“さんかく山(仮称)”を攻めようと企てた。何せ原生林に覆われた標高385mのこの山、知り得たかぎりでは明瞭な登路がなく、一部始終藪漕ぎが想定され、たおやかな門司アルプスの稜線上(ちょっと外れるが)にあっても難峰に違わぬ存在感を漂わせている。ましてこの盛夏、酷暑、雑草繁茂のこの時期に敢えて決行することの意義は、何だ!と大上段に構えるつもりはさらさらないが、いつも間近に仰ぎ見るこの峰に早晩登らなければとの思いは、一昨年この地に転居して以来、つのるばかりであった。加えて盛夏ゆえ下山後のビールの美味さは如何ほどか、決断を後押しした大きな要素だったが、まぁ我ながら単純人生の処し方に苦笑するのみである。

   
                                縦走路から見たおにぎり山 昼なお暗い照葉樹林を縫って登る

 で同行者は元同僚で門司在住の金子兄。以前、この山への登山を誘われたこともあり、共通の目標を達成すべく立ち上がったという訳である(下山後のビール、一人より二人で飲む方が更に美味いに決まっている)。先ずは戸の上山への登路、桃山登山口から稜線を目指したが、鬱蒼とした森の中、谷筋をしばらく詰めると傾斜が緩くなり森が途切れると、稜線(足立山〜戸の上山縦走路)と合する。とここまでは何の変哲もない一般ルートであって、目指す“さんかく山”はこの谷筋の右手に鎮座しているので、藪漕ぎ覚悟で適当なところから斜面に取り付き、高みへ辿れば到達する筈である。しかしただがむしゃらに急斜面を攀じるのは難儀だし、地図で見るかぎり縦走路から尾根沿いに攻めた方が高低差も少なく可能性も高いのではと、案じた。ところが縦走路からのアプローチは密度の濃いクマザサがバリアとなってまったく付け入る隙間を与えず、あっさりと断念。ならば先ほどの谷筋へ戻り、薄暗く静寂の森の中で目を凝らしながら登路を探ったのだ。

   
      おにぎり山の頂にて三態(中の写真は北西方向の門司市街〜関門海峡を。右手は風師山)

 すると念ずればちゃんとあるものなんですね、登り口が。縦走路からものの3.〜4分ほど下りたところで黄色地に赤の矢印を描いた看板を発見。文字表記はないが、その先の樹木にはテープが巻いてあり、以降も等間隔で巻かれたテープが我々を誘った。うんうん、明らかに三角山方面へ向かっているぞ、と小さくガッツポーズ。さらに少し登るとまたしても赤の矢印の看板がタブの木に括り付けられており、今度は「おにぎり山」とはっきり記されていたのだ。まさに予感が確信に変わった瞬間でもあったが、思い描いた“難峰・さんかく山”は人の手が入った明瞭な登路を持つ“おにぎり山”へとイメージも安直化したのは否めなかった。しかし明瞭な登山道に導かれて登る方が、敢えて藪漕ぎに身を投じるよりいいに決まっているし、我が家からいつも仰ぎ見る念願のピークに立つ喜びに比べれば、ちっぽけな感傷事であろう。

 で山頂直下までタブ、シイなど密生した常緑照葉樹のトンネルを攀じたが、それもものの10分余り。急に明るくなると東西にひょろ長い山頂に踊り出て、戸の上山から風師山への連なりが胸壁のように映り、眼下には門司市街を経て関門海峡、その果てに下関の街並みと、主に北西方面の眺望が目に焼き付いたが、これもこの方面だけ定期的に伐採した(と思われる)結果の眺めだということが分かる。その意味で“おにぎり山”の愛称とともに、よくよく人の手の入った里山だったことを再認識させられたひとときであった。

   
同じく山頂から戸の上山の重厚な山嶺を仰ぐ 桃山から見たおにぎり山  このために山に登る?小宴真っ只中

 さて下山はひょろ長い山頂尾根をなぞって海峡方面へ直進した。またまた明瞭なテープに導かれた訳だが、地図を見るまでもなく、この方角を取れば急降下するしか他に手立てはなかった。案の定、緩やかな尾根の下りは束の間、あとは殆ど滑り落ちるような体。それも桃山登山口の少し上部、最下流の砂防ダム堰堤に出くわすまで、標高差にするとたかだか300m足らず、時間にして25分ほどの急降下だったが、全身を使って急斜面を木々にすがり、時にはロープを頼りに、そして何回もころげ落ちつつ駆け下ったので、全身埃まみれになりながらも、おじさんたちはひととき少年の瞳のように輝きを放ったまま、意気軒昂に下山の途に付いたのだった。

(コースタイム)自宅15:58→(桃山登山口経由)→稜線(縦走路)16:36 42→(稜線からの登路を探すも断念)稜線(縦走路)16:47→おにぎり山登山口16:51→おにぎり山17:01 12→桃山登山口上部の砂防ダム堰堤17:34→自宅18:00

(参加者) 栗秋、金子(会友)
                                  (平成20年8月3日)

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