玉石混交隊、盛夏涼風の涌蓋山に登るの巻         
                                    
                                               栗秋和彦


 かっての会社の同期で岳友、今はさいたま市在住の医師、長谷島君と九重は涌蓋山を登ろうということになった。5日九州入りし、早々と背振山に登った後は佐賀での同窓会に出席して、翌6日(本日)からが本命、本番。つまり8日まで休みを確保して九州の山々を積極的に登ろうという算段である。そしてその初日を筆者の案内で涌蓋山に充てたということだが、20数年前、涌蓋越付近まで到達しながら風雨で登頂を断念して以来、思いを寄せていた山とのこと。う〜ん、そんなことなら一肌も二肌も脱がねばならぬが、どうせなら会社の同僚・T君やM君も引き連れてワイワイガヤガヤ登山も面白かろうと踏んだ。

 しかしアプローチは奇っ怪。地元の我々は別府(※1)と博多から久大線で豊後森駅へ。それを遠来の長谷島君が車(レンタカー)で待ち受けるといった、何かあべこべの合流再会風景だったが、これはこれで理に適っていたのだ。なぜなら彼は明日、明後日と脊梁山地のど真ん中、国見岳や市房山を狙っていた(※2)からで、車なしではアプローチに支障をきたす山域ゆえのレンタカー行脚初日であったし、T&M両君に至っては山頂のみならず、下山後の列車内で大宴会をも目論もうと画策したに違いなかろう。ならば地元組も遠慮せず車上の人になり得たという訳である。

 で登山口はいつものひぜん湯だが、そうは言っても3年前、梅雨末期の鉄砲水でひぜん湯の龍泉荘キャンプ場全体が主人とともに流され、今は跡形もなく、更地のそちこちにむき出した赤土が残影を留め、往時を偲ばせるだけである。そしてこんな思いも次第に風化して、いずれは忘れ去られるのかもしれぬが、以前 “おゆぴにすと”のファミリーキャンプなどで少なからずお世話になった、今は亡き主人に対し黙礼をして登山開始だ。

  
   まもなく牧草台地へ上がる地点。背景は九重連山            女岳から涌蓋山の頂を仰ぐ

 さて案内板に沿って杉林を抜けると畑地となって雑草の勢いを分けながら登ると、荒れたガレ道に出て振り返ると筋湯や八丁原の湯煙が早、眼下に臨めるようになる。それなりに高度を稼いだことが分かるのだ。そしてほどなくの牧草台地からはそのスカイランイ上にお椀をかぶせたような涌蓋山頂が見え出して、開放感溢れるところ。一気に涼風吹き渡り、踏跡はよりどりみどり、高原漫歩が楽しめるこのコースのハイライトシーンだ。やがて左手にはみそこぶし山、その奥に一目山と九重きっての草原縦走コースが視界くっきりと見えだし我々を誘う。

 さらに涌蓋越(林道)で小憩の後は雑木林の中、えぐられた黒土道を辿り、ドウダンツツジやミヤマキリシマなどの低潅木を縫いつつ、ちょっとした登りが続いた。意外に苦労を強いられるところだが、それもちょっとの我慢で女岳、そしてひと登りで、いつもながらの広々とした山頂に躍り出た。

 でこの山の秀逸点は独立峰ゆえ九重連山をはじめ九州一円の山々を視界いっぱい欲しいままにできる眺望にある。しかも昨日未明の雨で九重や阿蘇、津江、英彦山などの山嶺が予想以上にくっきりと映り、最高の稜線漫歩が実現できたのだ。加えて本日は九州北部の梅雨明け宣言の日だもの、下界は猛暑だったのに、さすがに標高1500m、山上に吹き渡る涼風は九重連山の一角にいることを実感させ、夏山の醍醐味ここに有り!と居心地のよさを満喫したのだった。あぁ、めくるめく青春の日が甦らんことを!なんて昔話にも花が咲き、気分は際限なく高揚する訳です。ならばたとえ真っ赤に日焼けしても、(山上の小宴で) 気勢はめっぽう上がっても、いっこうに厭わないのは言わずもがなでありまするな。まぁひとつ難を言えばこんな非日常の世界に嵌まりこむほどに、明日からの現実が堪えるということを念頭に置いておかねばならぬが、それほどに盛夏涼風に満ちた山行だったのは言を待たない。

 おっと最後にタイトルに掲げた玉石混交とは誰と誰を指すのかなどと野暮な話はなしにしたいが、強いて言うならば、我々のアッシー君 (帰路は高速道・鳥栖ジャンクションまで送ってくれたのだから) を務めてくれた遠来の客人、長谷島君に敬意と感謝を込めて“玉”と崇めつつ稿を終えたい。余談だが、“石”組の二人は鳥栖駅からの列車内でこそおとなしかったが、博多駅近郊の某駅で示し合わせて下車以降、足取りは掴めず、深夜帰宅を果たしたという。げにこの両名の意思(石) の硬さは筋金入りで恐れ入るばかりである。

   
    伸びやかで広々とした涌蓋山頂にて、背景は九重連山        天衣無縫な牧草台地に身を委ねるの図

(1) たまたま筆者も前日5日、別府で級友20名が集った同総会に出席。7/5は全国的に同窓会の特異日だったのかもしれぬぞ。
(※2) 2008/07/08 23:53〜帰宅直後の報告〜
 30分前に無事、帰ってきました。今日、市房山に登ってきました。昨日は計画どおり五家荘から国見岳登頂。移動で疲れました。2泊とも麓に着くのが22時頃で、寝る時間もあまりなく、天幕張る時間や片付ける時間を考えると車のなかで寝るのが簡単で2泊とも麓で車の中です。人吉温泉、花山温泉にも入り、3日間の総走行距離は735kmでした。疲れました。〜後略〜 長谷島
(コースタイム)ひぜん湯登山口10:43→涌蓋越(林道出合)11:39 48→女岳12:10 15→涌蓋山12:25 13:22→(往路を戻る)→涌蓋越13:50→登山口14:36 下山後は川底温泉せせらぎの湯入湯
(参加者) 栗秋、長谷島(会友)、他2
                                    (平成20年7月6日)

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