九重・泉水山〜黒岩山縦走 小雨烈風のち快晴春暖の山旅  

                                                      栗秋和彦

 会社の山仲間と九重の一角をちょっとだけ登り、夜は麓の湯宿で一泊大宴会をやろうということになった。山登りのパートのみ遠慮がちにちょっとだけと銘打ったのは、決してへりくだった謂いではなく、ホントにちょこっと山に登って、エネルギーの大半は湯煙一泊大宴会につぎ込もうと目論む我がメンバー諸兄の思惑による。  まぁそれでも皆のことをおもんばかると、せめて実働4時間ぐらいは山歩きに充てないと、宴席の酒も美味くはなかろうと筆者は考えた訳ですね。そこで長者原を起点&終点に下泉水山〜上泉水山〜黒岩山〜牧ノ戸峠〜沓掛山〜星生山〜星生新道経由で長者原と九重北部半周コースを提案して出方を伺うも、他の三名の結束した意見は「前半部分はなんとか頑張るにしても、たぶん、おそらく牧ノ戸からまっすぐ長者原へ下るよね」で固まっていた模様。

 フムフムなるほどこれはほぼ想定内であったが、出発直前になってにわかに暗雲立ち込め、強風小雨の空模様になると「こんな天気にホントに登るの?止めて温泉につかった方がいいんじゃないの」との懐疑的意見も出てくるんですね。もちろん「天気予報は午後急激に回復するから心配ないって、最初だけだよ!」とやんわり否定することから始めなければならなかったが、これじゃ先が思いやられるわぃ、と一人ごちるんであります。先ずは雨着を着つつ「なだめすかし作戦」を発動して、しぶしぶ登山の始まりとなった。

 もちろんこの天候だもの、長者原キャンプ場を通過し、防火帯に沿って急坂を一歩一歩前進するも、なかなかピッチは上がらない。それでもじわじわと高度を稼ぎ長者原の草原を見下ろす角度が大きくなってくると、着実に高みへ誘われてやる気も湧いてこようというもの。と同時に小雨も気にならない程度に収まったこともあって、皆の表情もこころもち穏やかになっていくのだ(フフフ...そうでなくちゃ)。

    
   長者原にて、しぶしぶ?と登山準備     烈風吹きすさぶ下泉水山の頂にて       上泉水山をバックに黙々と歩く筆者

 ところが防火帯から別れ、樹林の中の急坂を登り稜線に出た途端、そこは小雨烈風の世界と化し、ちょっとびびった。更に稜線の縁にある下泉水山の岩峰へ攀じると、風はますます強まり、のんびり眺望を愉しもうなどは思惑の外。帽子を手で押え恐々と岩肌にしがみついて上目遣いに周りを伺うといったあんばいで、肝心の眺望も真近に仰ぐ上泉水山は上部がガスの中、北西方向の涌蓋山も何とか裾野を見せるだけ。ならば本命、東南方向に見える筈の三俣山〜星生山の連なりはどうかぃ!と目をこらすもやっぱり茫々たるガスの中とあって、等しく頂稜部分は想像するしかなかった。第一級の展望ピークも天気には勝てなかったのだ。

 しかし「天は我々を見捨てず!」と皆の手前主張するしかなかった。慌しく岩峰を降り縦走路へ戻ると、そこはアセビやドウダンツツジの群生地とあって、さしもの烈風も遠慮がち。そして上泉水山への急坂に取り付いたころから天気はだんだんと回復し(ほら見たことか!)、左手の九重連山のガスも少しづつ切れてきて、豪放な山肌を見せはじめるし、眼下に広がる長者原の眺めは、淡い日差しの中でこころもち緑を増すかのように映ったのだ。となるとニンゲン、不思議と性向もポジティブになるのは道理。次第にピッチも上がり何の変哲もない上泉水山はちょっと冷やかして、強風吹く稜線をずんずんと進むのみであったが、後を振り返れば、もっとゆっくり歩こうよ!と皆の表情は訴えていた模様。分かっちゃいるけど止められないのさ、この性分。悪りぃ、悪りぃの思いとは裏腹に歩勢は衰えず、行き行きて又行き行く。

 で一気呵成に黒岩山まで達すると、風雲にわかに消え去り、下泉水山の黒雲烈風がうそのように青空くっきりと晴れ渡ったのだ。当然、周りの山々も明瞭に姿を現すし、すっかりくつろいで乾杯用ビールは喉越しもなめらか。ついでに口数も多く、かつ滑らかになったのは言うまでもない。さぁてしばし山頂小宴会の後、牧の戸峠までは既定の路線である。時刻もまだ早いし、目下の関心事は峠から星生山方面へ、皆の意欲を推し量ることにあったが、皆の眼差しはやっぱりやまなみ道と交差する沓掛山方面にはなく、長者原への自然歩道入口を探っていたのは明らか。もちろん想定内のこととて、後ろ髪を引かれながらも自然歩道へと分け入ったのだが、木漏れ日差す森の小道をゆるゆると下るのも悪くはなかった。新緑真っ盛りの下界とはこうも趣が違うのか、未だセピア色から完全に脱しきれていない森の佇まいは、今まさに卯月の九重に居ることを教えてくれ、芽吹きの季節到来を予感させながらの山歩きもまた愉しである。

 さて長者原までのこの自然歩道、途中で昼食ラーメン会と銘打ち大休止を挟んでもまだ時間は余りある。ならば暇にまかせて歩道のところどころで姿を見せるタラノメを採取しつつ森を抜けると、牧の戸温泉・九重観光ホテルの前で突然やまなみ道と出くわした。と同時に硫黄の匂いに包まれた湯煙が幾筋も眼前に現れてくる訳でこれも何かの縁、この湯に身を預けようではないかとこじつけた。と言うのも硫黄泉たっぷりのこの湯宿、湯舟から視界いっぱいに広がる眺望が84年4月、当時4歳の娘と入湯した、はるかいにしえの記憶を呼び戻したからであって、実に24年ぶり ノスタルジア溢れる再入湯じゃないか、と思わず語気を強め、皆の同意を取り付けたのだった。

    お風呂情報2 
     黒岩山の頂では天候も回復          牧の戸温泉・九重観光ホテルの露天        エンドレスの宴会進行中

 で貸切の湯殿は昔とちっとも変わらず、強いて言えば湯舟と一枚ガラスで隔てた南面屋外に横長の露天風呂が設えてあったこと。しかしこれとて見たところ目新しいものではなく、全体として陳腐な感は否めなかったが、有り体な感想はここまで。やっぱりこれらを補って余りある秀景が、昔と変わらず眼前に待ち受けていたんですね。この湯の真骨頂はまさにこの一点にあった。つまりは指呼の距離、目一杯に広がる三俣山の迫力である。これを快晴春暖の下、湯量たっぷりの硫黄泉にゆるゆると浸かりながら愛でるこのひととき、まぁいわゆる人生の小幸事と言っても過言ではなかろう。その証拠に何と1時間半近くも露天に入り浸り、飽くことなく九重の秀景を眺めつづけていたのだから、ふやけるのもむべなるかなであった。

 さて意気揚々と九重観光ホテルを後にすると、四半時(しはんとき)で長者原着。本命くじゅう倶楽部での一泊大宴会が控えるだけである。となると主役はサメ、フカの呼び声高い同僚三氏に委ねる他なく、泉水山〜黒岩山縦走で心地よい疲労感を演出し、絶景露天で長々と喉の乾きを促進せしめたことで、宴会突入へのお膳立てはあらかた終了したも同然、筆者はお役ご免と相成った。ならば後輩諸兄の酒の肴に甘んじようと殊勝な気持を発露したつもりだったが、何!この先エンドレスだったって? フフフ…想像に難くないのは言わずもがなでしょう。

(コースタイム)
長者原10:38→樹林帯分岐11:10 15→下泉水山11:23 26→上泉水山11:53 57→黒岩山12:35 13:00→牧ノ戸峠13:20→(九州自然歩道経由・途中昼食13:33 14:10)→牧ノ戸温泉入湯(九重観光ホテル)14:25 15:53→長者原16:10  星生温泉・くじゅう倶楽部泊

(参加者) 伊藤、鶴田、竹下、栗秋                          (平成20年4月26日)

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