紅葉の臼杵・白馬渓〜水ガ城山ランニング登山の巻
                                       栗秋和彦

 この秋、我が大分鉄道事業部主催のウォーキングとしては第2弾にして最後の催しがこの「紅葉の白馬渓ウォーキング」である。もちろん紅葉の時期だからこその開催となった訳だが、今年は寒気の訪れが早く多少の色褪せは致し方なかろう。と憶測で書いたがボクはこの地を知らない(※1)。更には復路で通ることになる二王座歴史の道も(映)なごり雪ですっかり有名になったが、恥ずかしながら未だ歩いたことがない。つまり彼の地を知る上でこの催しは格好の機会という訳である。しかしただ歩くだけでは貴重な休日がもったいないし、エクササイズにならない。ここはトレーニングを兼ねてランニングで巡ろう。

                   

 さて臼杵駅の受付で少しばかり手伝いをした後、スタッフ役のO駅長他の見送りを受けてランニング開始。ディバッグを背負ってパーカー、綿パン、ビブラム靴の出で立ちなので、LSD(ロング・スロー・ディスタンス)の趣であって体感的にはキロ6分半程度ののんびり走だ。それでも走ればすぐに温まる。臼杵城址を回り込んだところで一旦止まってTシャツ(長袖)一枚となり、気合を入れ直して再スタートだ。加えて天気は薄曇りから快方へ。風もなく青空も広がりつつある状況はまさに小春日和を予感させるに充分な空模様であった。であればピッチも上がるが、おっと住吉橋のたもとではニコニコ顔のK女史が案内役で陣取っていた。臼杵高校から1年間、我が職場へ研修中の身でのスタッフゆえ、こんなところでは「お〜い、先生何しょる?」と生徒から訝しげに問われるやもしれず、おもんばかってしまうが、彼女から見ればそんなことより「ウォーキングに来て、物好きに走って廻るなんて、変なおじさん!」と思っているに違いなかろう。まぁ目立つために走っている訳ではないので「気にしない、気にしない」。

 で案内標に従って路地に入り込んだり、日豊線のガードや国道をくぐったりして確実に臼杵川を溯っていく。とは言ってもほぼ平坦な田園地帯ののんびり道だから、気持ちはゆったり、気分は上々。当然のことながら先に出立した中高年ハイカーたちをパラパラと拾うことになるが、もちろん礼儀として挨拶はキッチリと行っての前進だ。しかし背後から声をかけた瞬間、一様に訝しげな視線を送ってくるのにはマイッタね。ウォーキングで走るのがよっぽど変なのかねぇと思いつつも、「やっぱり気にしない、気にしない」と唱えればもう白馬渓入口である。

 ところで白馬渓についての予備知識はゼロであった。想像するに九六位山から派生した長大な尾根へ深く切れ込んだ深山幽谷の景を勝手に思い描いていた。しかし実際は臼杵の町から5k足らず、田園地帯の奥まったところ、馬代集落の背後に控える里山に刻まれた小さな渓谷だった。歩けばものの2、3分で抜けてしまい、水源の溜め池に出てしまう。まるで箱庭のような趣である。但しこの地の名誉のために申し添えれば、コンパクトながら苔むした巨岩と色鮮やかな(とは言っても少し時期が遅かったきらい有り)カエデやモミジの彩が織り成す様はなるほどと唸らせるに充分だ。中に入り込めばまさに深山幽谷を模した小宇宙に身を投じたことになるのだ。むしろこんな里山にかくも荘厳なる景を造りだした自然の力は“あっぱれ”と言うしかなかろう。

 で辿り着いた溜め池から上部は広く明るい普通の里山の風情に戻ってしまうのだが、居合わせたおじさんとの会話で図らずも山頂を目指すことになった。いきさつはこうである。「この上はどうなっていますか?」とボク。「小1時間で山頂まで行けるらしいよ。ワシ今から行こうと思っているがね」とキツパリと宣うおじさん。そこで「フムフム、頂を踏むのも悪くはないぞ」と瞬時に思った次第。平地のランニングだけでは物足りないし、トレーニングの観点からすれば申し分ない。加えて低山ながらも未踏の山を稼ぐ行為そのものに意義があるのだ。ボクはふり向きながらおじさんに仁義を切っていたね。「じゃあ、先に登らせてもらいます。失礼」とかなんとか...。心ここに在らずであった。

 さて溜め池を回り込むように登ると、コンクリート舗装の林道に出た。他に登山道はないし、こやつを詰めるしかなかろう。しかし傾斜はなかなかのもの。ユルユルと歩くようなスピードでも確実に高みへ誘ってくれるので、ここは余裕をもって走りきるだけだ、フーフー。そして幾度かカーブを回り込むとほどなく舗装が切れ、右手上部へ延びる踏み跡を追うと、その先はテレビ塔らしきアンテナ群が垣間見えるのだ。すなわちここが山頂であった。なるほど一帯は疎林に囲まれてはいるが、ピークには間違いないし、辿ってきた臼杵川とその向こうの臼杵の町並み、更には臼杵湾にポッカリ浮かぶ津久見島や旧津の山並みが俯瞰でき、なかなかの眺望であった。もちろん下山途中、くだんのおじさんとすれ違ったが、その際、登路や山頂の様子などをリアルに伝授し、彼の期待を膨らませる手伝いをしたことは言うまでもない。

 さてさて復路は臼杵川右岸を下って町並みに入り、龍原寺の三重塔を皮切りに歴史漫歩(走)だ。案内標に従ってジグザグに入り込むので、どの辺りを巡っているのかさっぱり分からなかったが、それでも二王座の古い町並みはすぐに分かった。なるほど「歴史の道」とは的を得たネーミングじゃあないか、なとど思いながらも歩(走り)は進める。それらしき古刹や武家屋敷など立ち止って覗き込みたい衝動に駆られたりもしたが、行きがかり上、そうもならぬ。歴史漫歩の後半は一気呵成に駆け抜けて、気が付けばゴールの臼杵駅だったという訳である。いやはや自ら望んだこととはいえ、実に慌ただしく風塵のごとき小旅行だったが、少しだけ心痛むのは、コースのそちこちで案内役に嵌まっている我が職場のスタッフ諸兄へ労苦をねぎらいつつ、コミュニケーションを図らなければならない己の役目が果たせなかったこと、ごめん御免。この点に関してはひたすら謝るしかない。

 最後にこのコースの印象はとなると、山有り田園地帯を闊歩したり、路地裏に迷い込んだり、古い町並みを愛でたりと、変化があってなかなか面白く、距離も短すぎず長すぎず適切ではなかったかと思うのだ。その証拠として参加人員の244名は近年になく盛況だったし、けっこう北九州方面からのお客さんも参加しており、レール収入の面からも秀でた企画に違いなかろう。その意味ではこの催しの企画・立案・運営に携わった関係者の皆さんに深く敬意を表する次第である。で、ないものねだりで一つ言いたいのは臼杵駅周辺に温泉がないこと。ウォーキングに温泉は必須項目であって(とボクは固く信じている)、「風が吹けば桶屋が儲かる」式に言えば、小春日和、しっかり歩いて汗をかけば誰しも温泉に浸ってすっきりしたいもの。湯上がりにビールの一本でも仲間とワイワイ言いながら飲もうということになる。となれば車では無粋であろう。かくして「レールで帰ろうよ!」となる訳で、駅長は直ちに後藤市長に直談判すべきではないかと思うのだが、市の財政事情では(温泉掘削は)無理かしらん。「そんなもん、難しいわぇ!」と駅長の息巻く声が聴こえてきそうである。

(※1)臼杵市のホームページによると天保3年(1872)、橋本主馬介真彦という人物が、この渓流の美しさに心をうたれ、数人の仲間とともに道路や石橋を造り、四季の花樹を植えていったと言われています。信仰深かった彼は翌年、この地に伊勢の外宮豊受大神の御分霊を迎え、大神宮を創祀した。以来、この境内は「白馬渓」と言われているそうな。

(コースタイム)

臼杵駅9:00→(臼杵警察署〜臼杵川右岸〜住吉橋〜臼杵川左岸経由)→白馬渓入口9:30→水ガ城山(テレビ塔・標高250m)9:50 51→白馬渓入口10:05→(馬代橋〜臼杵川右岸トリムコース〜龍原寺三重塔〜二王座歴史の道経由)→臼杵駅10:30   全走行キロ 12k                                     (平成14年11月23日)この時期の白馬渓はこちらclick here

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