「6BM8」ステレオアンプキット製作記・その1


これが初めての「キット」製作


 私はこれまで、真空管アンプはいろいろ作ったり壊したりしているんですが、このたび真空管アンプの「キット」製作を行いました。実はこれが初めての「完全キット」の製作なんです。
 
 感想としては、「キット」というのはなんて楽なんだろうと・・・・しかし、部品集めとか回路設計とか、真空管アンプ造りの一番困難であるとともに一番楽しい部分がすっかりないのです。

 まあ、購入価格18800円には文句いえないなあ。自分で買い集めたらとてもこんな金額には収まらない。
これが「6BM8シングル・ステレオアンプ・キット」の中身です。

内容的には、部品がそれぞれの単位でまとめられて、とても丁寧に梱包されていて、傷つかないように配慮されている印象です。シャーシなども決して安物ではなくC/Pは高いと思いました。

これだけのものを、一品づつ集めるとなると、東京に住んでいてもなかなか難しいでしょう。特に特注のシャーシとかトランスとか、キットとして大量に発注するからできる価格だとつくづく思いました。
3極・5極複合真空管である6BM8と、出力トランスです。

真空管の大きさに比べてトランスが何か小さい印象ですが、なにぶん定格出力は「2ワット」ということもあり、実はこれで十分な大きさということです。

たった2本の真空管の6BM8は「ユーゴスラビア」製でしたが、ガラスも中の電極もなかなかきれいでした。キットのメーカー側でチェックし選別して出荷しているということです。私も手持ちはあるのですが、今回はキットについてきたものをそのまま使いました。
電源トランスです。リングコアのなかなか本格的な物です。

このままではちょっと見てくれは悪いが、もちろん実力本位という印象です。当然実際にはシャーシの上でケースをかぶせるので、見かけの問題はありません。

実は、「6BM8」を使うのに一番苦労するのは、この電源トランスなのです。ふつうの出力真空管用の物では、たいてい電源電圧が高すぎるのです。
丁寧に袋詰めされたパーツ類。

ひとつひとつ確認してみましたが、特に高級品ではないものの実用上十分なレベルの物と感じました。

私は、作りながらどんどん出していったのですが、本来は事前に組立説明書のチェックリストと照合しておくべきです。ビスなどは2本余りましたので、無くなりやすいものは少し多めに入っているようです。

「6BM8」とは・・・・・


実は、この「6BM8」という真空管はもともとオーディオ用のものではなく、かつての白黒テレビ時代のセットの中で、垂直発振と垂直出力用の複合管として設計されたタマが、音声出力用として使われるようになったものです。

もともとは、電灯線電圧が220ボルトぐらいのヨーロッパの、トランスレスのテレビ球として誕生した「16A8」の6.3ボルト球ということもあり、定格上プレート・スクリーン電圧は200ボルト以下で使うようになっていますし、プレート損失も大きくないため無理な使い方ができないタマということで、本格的なオーディオアンプに使われることはまずありません。

しかし、高増幅率の3極管と大きさの割に大きな出力の取れる5極管の複合管という組み合わせのため、なかなか便利な真空管として初級クラスのオーディオアンプにもよく使われました。
ヒーター電圧が50ボルトの「50MB8」というタマもあり、これを2本使ってレコードプレーヤーに内蔵させてなかなか立派なステレオ音響を聴かせてくれるものもありました。

それは、この5極管部の内部抵抗がけっこう低くて、小出力でもなかなかダンピングのきいたきれいな音がするからでもあります。

しかし、いずれにせよ規格いっぱいに使ったとしても、シングルではせいぜい3ワット。歪み率を考慮すればそれ以下で使うことがのぞましいという、ミニクラスであることにかわりはありません。
マニュアルは実に丁寧かつ詳細で、「はんだ付けの仕方」の手引き書が別冊でついているなど、とにかく「親切」というほかありません。まず一読してみましたが、まったくの初心者でも、この組立説明の通りに作れば間違いなくできあがることでしょう。

まあ、そのぶん経験者から見ると余計なお世話的な面もありますが、こんな安価なキットに、ここまで丁寧なマニュアルがついていることにはほんとうに感心しました。
マニュアルには、基板への部品取り付けからシャーシへの取り付けなど、常識的な手順が記載されています。左の写真ではトランスをどのように取り付けるか、またどの穴にどのコードを通すか、またその配線の長さまで記載してあります。この図を見ながら順番にチェックして組み上げていけば、回路図が読めなくても困ることはありません。

逆に、回路図が読めるとか、真空管の経験が無くとも基板キットの経験がある人は、あるていど手順を省略してもいいと思います。そのくらい、マニュアルは懇切丁寧です。

シャーシとプリント基板


真空管アンプの場合、一般に「シャーシ」と呼ばれる金属製の箱形の台の上に組み上げますが、このシャーシの選定がとても難しいのです。専門店に行けば、ソケットやトランスの穴があらかじめあけてある「穴あきシャーシ」もありますが、オリジナリティを追求すると穴のないシャーシを買って自分で穴を開けて行くわけですが、この作業が全体の半分を占めるほどで、しかも計算を間違って開け損なったら一巻の終わりです。

今回は、実際の配線のかなりの部分は「プリント」基板になっていました。この基板の上に部品を取り付けはんだ付けしていくと、真空管回りの面倒な配線は終わってしまうのです。この基板をシャーシの中に固定して、入・出力関係の配線をしてしまえば、できあがりなのです。
さて、このキットの製作に必要なものは、もちろん「半田ごて」、それに「ニッパー」「ラジオペンチ」「ドライバー」「六角レンチ」などですが、あと「ピンセット」とかふつうの「ペンチ」などがあるといいなと思いました。

また、「テスター」はどんなものでもあった方がいいです。
特に私の場合は、抵抗のカラーコードの読みに自信が無かったため、途中からひとつづつ抵抗値を測定しながらはんだ付けしたのですが、これも、やはり事前に確認して作業の順番に並べておくべきです。

実は、この抵抗を1本間違えたリカバリーが一番時間をとりました。
こんなふうに、基板に取り付けてはんだ付けして行きます。

お奨めでは、半田ごては30ワット以下なのですが、20ワットクラスと40ワットクラスを使い分けた方がいいです。

ピンのはんだ付けには40ワットは大きすぎ、比較的広い面積のはんだ付けでは20ワット以下では小さすぎることがあります。

久しぶりの半田ごて作業でしたが、我ながらヘタになってました。

製作記その2へ


最初のページに戻る