はーい、一時間の休憩に入りまーす!
ちょっと、消火器足りないよ! 早く早く!
カチン、と高い音が鳴る。
「お疲れ様でした! 一時間の休憩にはいりまーす!」
「ぶはぁー、やっと休憩かよ!」
「お疲れ。私ちょっと顔洗ってくるわ」
「おいおいおい、ちょっとここら辺効果足んねぇんじゃねぇか? CGで継ぎ足せるかー?」
出演者たちもスタッフたちも、一斉に表情を崩してその場の空気が変わる。アイスバーグの寝室セットにいたメンバーは、次々とそこから飛び出して、自分専用の休憩場所へと移動していく。ルフィは真っ先に食堂へと駆けて行き、スタッフの用意するという言葉さえも聞かずにスタジオすら飛び出して行ってしまった。
ナミはそれ横目で見ながら控え室へと向かい、チョッパーは伸びをして、サンジが用意してあるだろう昼食の元へとゆっくりと向かう。昼食は食堂から出番待ちのサンジが作って持ってきてくれるといっていたので、チョッパーはそれを当てにしているのだが、もしかすると暴飲暴食の船長に全部取られてしまうかもしれない。けれど麦わら海賊団のコックは、この撮影に携わっている女性陣の笑顔を目当てにしているわけだから、まぁ、大丈夫だろうと結論付ける。
ロビンも昼食の話を思い出し、あの場面で誰よりも早くセットを抜け出た特権として、衣装をすでに着替えて食事の準備は万全だった。
「船医さん、こっちよ」
スタジオの一部を麦わらスペースとして陣取り、すでに広い専用のテーブルもセットされていた。優雅に手を振るロビンに、チョッパーは笑って隣のイスに腰掛ける。
ウソップはメリー号でお昼寝中。ゾロは毎度毎度撮影ごとに衣装を破いてくれるので、衣装係のスタッフにお説教され中だ。
「こんな日があっても楽しいな」
「そうね。まだまだ先は長いけれど、ここらでひと段落は着くわね」
「ふふ、どんな風に仕上がるのかな。こんなの初めてで、すっごく楽しみだ!」
「一流の人間が集まってるって話だから、きっと素晴らしいものになるわよ」
チョッパーとロビンの、楽しそうな笑い声がスタッフの耳に届く。頑張らなきゃねと、誰かが勇ましく呟いた。
「で、。いつまでお前はひっくり返ってるつもりなんだ?」
「……カリファがくるまで」
「ンマー! 甘えた姉貴分だな!」
「お互いそれで成り立ってるんで、問題は有りません」
「……あのな、いつまでそんなこと言ってるつもりだよ」
「アイスバーグくんなんて嫌いです。カク呼んでください、カク」
「ンマー! 失礼な女だな、お前本当に!」
窓から飛び出す撮影は、撮影スタッフの作った本物そっくりの一分の一サイズ本社にて、実際にスタントなしの飛び降り撮影を敢行した。最初はなんだかんだと男性陣が無理だやめろ危ないと止めていたのだが、フランキーの一言でのやる気が充電されてしまったのだ。
私、力あるよ。脚力もあるよ、バランス感覚もとってもいいよと軽い動きまでして見せて、トドメには台本どおりの朗らかな笑顔を貼り付けて、みんなの目前で建物から飛び降りても見せる張り切りっぷり。
こっそり弟たちが肝を冷やしたことなど、自身想像すらしなかった。
そのお陰で長い長いワンシーンの後に飛び降りるという、精神的にも肉体的にもきつい演技となったのは自業自得と言えた。が、それをいいことに飛び降りた先のマットの上で、はアイスバーグもパウリーも抱えたままごろ寝を敢行。
アイスバーグとしては、いい歳した自分が女性に抱えられているのをどうにかしたい訳だが、照れて固まったままのパウリーも早く助けてやりたい。演技とはいえプロポーズ紛いのことまでされて、パウリーは憤死寸前といった様子だった。顔がトマトのように真っ赤なまま、マットの上で呆然としている。
「とにかく、せめてパウリーは離してやれ。血圧の急激な上昇で死んじまう」
言われてやっと気がついたかのように、は片腕に抱いたままのパウリーを見る。
ありゃま、と奇妙な声を出すと楽しそうに笑い出してパウリーの頭を撫でる。撫でた手はアイスバーグを抱えていた腕で、そこらでようやくアイスバーグはマットの上に座り込んだ。が、肝心のパウリーに回された腕は離されていない。もう一度、アイスバーグは同じ事を言った。
「んー」
けれどは何が楽しいのか、呆然と視線を向けてくるパウリーの顔を覗き込んで破顔していて、アイスバーグの言葉など耳をつきぬけている様子。そこでようやく覚醒したのか、パウリーは弱々しい声を上げた。
「……さん、あの、腕、離してください」
「え、もうちょっといいでしょ?」
何を思ったのか、はパウリーの声が合図だったと言わんばかりに腕の位置を変え、パウリーを両腕で抱きしめなおす。パウリーの動きがまたもや止まり、顔色は赤と言わず青と言わず紫と言えず、奇怪で複雑な色になっていた。
アイスバーグが深いため息を吐き出す。
「、離してやれ」
「いやよ。だってパウリーさん、可愛らしいんだもの」
「お前な」
成人男性に対して褒め言葉にならない一言に、アイスバーグは呆れてすぐには二の句がつげなかった。まるで大きなくまの人形を与えられた少女、違う。欲しかった恋人を抱きしめてる女性? 違う。
まるで弟の成長を喜ぶ姉の表情で、は嬉しそうにパウリーを抱きしめていた。
パウリーは二度目の覚醒を果たしたのか、自分を胸元に抱きしめているを見てアイスバーグへと視線を向けた。その目は助けを訴えていたが、残念なことにアイスバーグはに手荒なことが出来ない。昔の印象もあるし、女性に手を上げると言う行為がどうも出来ないのだ。
「パウリー、がんばれ」
慰めにも助けにもならない一言に、パウリーは撃沈した。
一方その頃、マット付近で人影が動いた。
「姉さんの胸枕……」
「いや、そこに注目するんかい」
物陰から顔だけ出したルッチに、カクの手刀が炸裂する。