notストーカー
何をするでもなくホームの真ん中でぼーっとしているコルトピの隣で、も何をするでもなくぼーっと座ってコルトピの顔を見るともなしに眺めていた。コルトピがそんなの熱視線についと目を合わせると、彼女は口を開いた。
「こるとぴ」
「なに?」
コルトピが返事を返すと、なぜかにっこりと晴れやかな笑みを浮かべて、は躊躇うそぶりすら見せずに言った。
「わたし、あなた、好き」
あまりにも脈絡の無い言葉に、言われたほうは小首を傾げてしまう。自然に言われすぎて、何か自分がしてしまったかとさえ考えてしまう。
辺りを見回してもホームにはそんなに人もいなくて、たまたま居てたまたまこの会話を聞いてしまった仕事中らしい、ノートパソコンとにらめっこ中のシャルナークくらいしか部屋には人もいなくなっていて。
「、なに?」
「んーん。言う、なった、だけ」
「言うなったの?」
不思議そうにこちらをぱっちりとチャーミングな片目で見つめてくるコルトピに、は立ち上がると手を振って離れた。
「言うなったって、なに?」
静かに不思議そうにまだ問われるけれど、は笑って部屋の外へと足を進める。
「言った、そのまま」
笑って返すはそのまま通り過ぎ様に、シャルナークの後頭部の髪をかき混ぜて部屋の外へといってしまう。
「もー、邪魔するなっての」
満更でもない風にシャルナークは文句を言うが、それには笑って逃げるだけ。コルトピは言われた言葉を反芻して、また首をかしげる。
なにかしたかな。
どういう意味だろ。
考えてもいわれた言葉以上のことが分かるわけでもなくて、記憶の中で彼女に何かしたこともされたこともなくて、コルトピは言葉を受け止めるしか出来ない。
けれど、言葉を受け止めるにも躊躇してしまう。だって意味が分からない。
「コルトピ」
けれど考えるのを放棄した直後に、シャルナークが人のよさそうないつもの笑みでコルトピを見て声をかけた。
「なに」
「今、のど渇いてるだろ」
なんでわかったんだろう。
コルトピが疑問を口にする前に、シャルナークは「やっぱりね」と一人で満足げにつぶやく。
「はきっと、コルトピに飲むもの取ってくるんじゃないかなって思ってさ」
「でも、ぼく言ってないよ」
「馬鹿だな、聞こえない?」
「なに」
シャルナークはその問いに返答せずに、耳に手を当てて聞き耳を立てる真似事をする。そしてそのまま動かない。コルトピも不思議がりながら同じように聞き耳を立ててみる。
「どう、聞こえた?」
「うん。冷蔵庫から何か出してるね」
「今日はそこそこ暑いからね、冷たいジュースか何かじゃない」
「でもぼく、自分のほしいの入れてない」
「が入れてるよ」
「最近盗ってきてないんだ」
「それでもが準備してるさ」
「なんでさ」
コルトピの一言に、笑って会話をしていたシャルナークの動きが止まる。
怪訝そうに口を開く。
「ねぇ、コルトピ。本気で言ってる?」
「だって、好かれる理由が無いよ」
その一言でシャルナークが吹き出す。今度はコルトピが怪訝そうにシャルナークを見た。
「コルトピ、にそのまま聞いてごらんよ」
きっと、彼女なりの答えを教えてくれるから。
楽しそうにシャルナークが囁くと同時に、が部屋に戻ってくる。
「こるとぴ、しゃる、飲む、する?」
お盆に載せたグラスには、それごと冷やしていたのだろう冷ややかな飲み物が三つ注がれていた。コルトピの好きなものと、シャルナークの好きなものと、の好きなものがそろっていた。
「ね、そうだろ」
「シャルのもそうじゃない」
楽しそうに言うシャルナークとは対照的に、意外にもちょっぴり拗ねたような口調のコルトピは、シャルナークの驚いた視線に気づかずにの持つグラスを見つめていた。
「こるとぴ、これ、好き?」
不安そうにこちらに近づいてくるの顔を、コルトピは見れずに視線をもぎ離した。
「こるとぴ?」
隠そうともしないの不安げな声に、シャルナークもコルトピの名前を呼ぶ。
「コルトピ」
けれどコルトピはどちらにも返事をせずに、一言呟いた。
「ぼくの分だけじゃないじゃない」
まるで小さな子供が拗ねるような口調で呟いたコルトピは、爆笑するシャルナークを無視して、言葉を理解できないのか不思議そうに見つめてくるを睨みつけた。
「シャルの分もある」
シャルナークの笑い声が、一層大きくなった。