受講生サジャナ

ネパール歯科医療協力会11次隊隊員 麻生 弘

ネパールでのNGO活動、ネパール歯科医療協力会11次隊に参加した。

5回目の参加だが今回はことのほか思い出多くまた色々と教えられる事の多いボランティア活動だった。

発展途上国の人達への奉仕活動は住民主体でなければならない。つまり診療活動のみではダメで、彼らの自立を促すような活動を展開しなければならない。そういう意味あいもあって、今回私はヘルストレーニング(現地口腔専門家の養成)の担当責任者という役を受け活動した。

 ヘルストレーニングの受講生、サジャナは17歳の少女、現地ネパールでの協力機関NATA(ネパール結核予防協会)の職員である。いつもにこにこと笑顔を浮かべ、熱心に受講するその姿は可愛らしい。ひかえめだが、頭のよさそうな少女である。この少女との出会いは意外なところで私に深い思い出を作ってくれた。

活動期間も終わり、ネパールを去る前の日にフリータイムをもらい、隊員4人で古都パタンを散策していた時の事である。路地裏の道へ入ろうとした時、向こうから見覚えのある顔の少女が歩いてくる。笑顔で立ち止まり我々に微笑みかけてくる。

「あ。サジャナ!」

パタンに住んでいるとは聞いていたが、まさかここで会えるとは・・・・。

聞けば、友人の家へ行って、これから自宅へ帰る所だと言う。

「遊びに行ってもいい?」

どうぞというそぶりで、先に歩き出すサジャナ。その後を我々はぞろぞろと付いていった。細い路地を何本か抜けると、4階建ての集合住宅のような古びた建物の前に出た。この建物に親戚一族何十人かで住んでいるという。暗く狭い入り口をくぐり、足下も見えない真っ暗な階段を登った2階にサジャナの部屋があった。広さは四畳半ぐらいだろうか、ベッドとソファーに本棚、それに古びた衣装だな。窓辺にはミシンが置いてある。家具はそれだけである。壁にはただ一枚だけ前日プレゼントした日本のカレンダーが大事そうに貼ってある。家具も何年も使ってきたような古びた物ばかり。日本の17歳の少女とは、あまりにもかけ離れたその部屋。

「ここが私の部屋です、ここで暮らしてるの。日本の先生たち見て下さい。」

そう言っているような気がした。

「姉さんいるのよ。」

そう言ったのだろう。ドアを出て、昨年の受講生の姉のサリタを呼んできた。

2カ月半になる赤ん坊をつれて、サリタが部屋に入ってきた。

「何か飲みますか?コーラ?ジュース?」

とんでもない、コーラなんて。彼女達にとっては高級品である。

「さっき、チャイを飲んできたから。」

そういって断った。

上手く言葉も通じないが、姉妹と我々の間に垣根はなかった。

赤ん坊をあやし、写真を撮り、住所を教え、お互いに言葉を習い、時間は過ぎていった。

帰り道、サジャナは途中まで送ってくれた。

「ペリ、ベトゥンラ!(また会いましょう)」

習ったばかりのネパール語で別れの挨拶をして、別れた。

サリタとサジャナ。ネパールの姉妹。それでもこの人達はネパールではまだ恵まれた暮らしをしている。電灯もあり、ガラス窓のある部屋に住み、パタンという都会に住んでいる。仕事もある。でも、あまりにも日本の我々とはかけ離れた生活環境。何か大事な物を教えてもらったような、そんな気がした私であった。

古都パタンのあの家で、サリタとサジャナは今日も元気に暮らしているだろうか。


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