天山スキーと北麓の湯・古湯に浸るの巻

 先週からの寒波で九州のスキー場も今シーズン初めての冠雪となり、新聞のスキー場情報欄を賑わすようになった。こうなれば居ても立ってもおれないのが、現役スキーボーイの性なのである。九州のスキー場でめぼしいところはないか、交通の便も良くて短時間で行けるところは.......でありました。佐賀の天山スキー場!積雪60cmが目にとまった(本当は選択肢として背振の雷山と二つにひとつだったのだが)。高速を佐賀大和で降りて22kmの近さ。麓には名湯、古湯温泉が控えている。迷わずここに決める。パートナーに伊藤君を久方ぶりに指名し(聞くところによると、彼は重度の金欠病に喘いでいたそうな。スキー当日が1/23だもの、いずこも同じか......とはいえ雪はいつ解けるやもしれず、行動あるのみなのだ)、AM8:00薄日さす門司を出発した。

 途中、八幡から古賀付近にかけて小雨もちらつき気をもんだが、以降はまずまずの日和に恵まれ10:20天山ハイランドスキー場に到着。もちろん初めての地でもあり車から降りて、ワクワク、キョロキョロ眺めまわすことを行動開始の第一歩とする。ここは天山山塊の広大な北側斜面と、これにつづく高原台地の出合いにあり、標高が高いゆえに寒風吹きすさぶものの、雪はといえばまわりはパラパラ。山かげに少しあるかなしかの状態で本当に60cm?と疑問符がついたが、へんてこなモニュメント風のゲートとそれにつづく直線形のレストハウスの奥に控えるU字谷が真っ白の一角であった。「なるほど、あそこがスキー場であるぞな」 北斜面からU字谷にかけてなかなかの高度差もあり、もうすでにあふれかえるスキーヤーで埋まっているのだ。そして、ゲート近くの番小屋(もっとしゃれたスポットではあるが....)には厚化粧したおねえさんが陣取り、入場券とリフト券をさばいている。真っ白の一角の謎?、そぅここは人工スキー場なのであった。もちろん寒波襲来のおりには、自然雪で間に合わすのであろうが、今日は造雪に負うところ大であろう。

 さて、1500円の場所代と一回400円×5回=2000円のリフト券(一日券5000円を求めるにはこの混雑では無駄というもの)を求めて関門をパス。レストハウスの中は若々男女の人息れでいっぱい。進化した?スキーウェアに身を包み、甘ったるい口調で語りあう若者たちを眺めると少々気後れしてくるのは我々の服装(いずれもGパンに羽毛服のいでたちだもの)のせいだけでは無さそぅ、久しくこういう場面に出くわしていないのだ。そぅ、今日は思いきって正しい中年のミーハーになりすますのだ! とはいいつつも、館の中はあまり居心地の良いところではなく、一刻も早くゲレンデに飛び出したい一念なのだ。そしてレンタルコーナーで靴を借りる伊藤君をせきたてつつ待ち、「さぁいよいよ久し振り、待望のスキーだぞぅ!」と張り切ってゲレンデに出たまでは良かったのだが.....。

 以前からボクのスキー靴のバックルは固めで小さめ。締めるのに苦労していた。そして今回もなかなか『カチッ』ときまらず焦っていた。尚も挑み続けているうちに、突然靴本体のプラスチックがパラパラと欠けてしまい、インナーシューズは出てくるわ、バックルはちぎれてしまうわで原型をとどめなくなってしまったのだ。18年間使い慣れ親しんだ割りには、あまりにもあっけない靴の最期になす術もなく、半ばボーゼンとして立ちすくんだままであった。

 そしてようやく見かねた、というか待ちくたびれた伊藤君の提言により、レンタルした靴に替え、到着して1時間も経てやっとスキーを履いたという、お粗末なおまけ話はこの辺でおしまい(教訓・・・・・いくら手軽な日帰りスキーとはいえ、用具の点検もせずにおいしいところだけ得ようとしても、キッチリおつりがくるものだ。スキー板もエッヂは錆だらけ、ワックスもかけず反省点多し)。 

 さぁて本題に戻って、スキーは?となると、これがなかなか手強く奥が深いスポーツであることを思い起こさせてくれました。リフトを最上の尾根で降りると下から約600〜700mはある、そしてこの尾根から中段までは割と急な斜面でおまけにコブあり。久し振りの滑走がのっけからこの斜面では、少々気後れするのが本音であり、恐る恐る第一歩を踏み出す。そして案の定、転倒こそしなかったが、完全にコブに呑まれてしまい後傾姿勢のままヨロヨロと滑り下るおじさんがいた、とは伊藤君の弁。それでも中段以降の人口密集緩斜面はスキースクール風の集団やら、若葉マークのボーゲン諸兄(姉)をかいくぐって、まずはそれなりの滑りを楽しめたのです。(そして上部のコブも二回目以降は少しづつ慣れてきたのか、割と突っ込んで滑れるようにはなってきた。進歩が形になってきたぞ......フフフ)

 一方、彼はといえば、「東京生活で得たものは?」との問いに「嫁とスキー(技術)をものにしたのが大きい!」と答えるだけあって、さすがに全コースにわたり滑らかなお手前で人懐っこい笑みが『スキー、俺大好きだもんネ!』を物語っていたのだ。が時間と共に混雑度は増すばかり、九州のスキーヤーが一同に会したのではと思うがごとく、リフト待ちに長蛇の列とあってはヨロコビが少しばかり萎むのも仕方のないことかな、と5回のリフト券を使い果たしての偽らざる感想。

           

 「スキーは楽しけれど、待ち時間を割り引けば、残るは疲ればかりなり」とは食堂での隣のおっさんたちのポツリと宣った一言であるが、多少誇張が見えるものの言い得ていたのだなぁ、これが。ともあれ、久し振りの雪の感触を楽しみ、心地よい疲労感を土産に15時に山を下る。もう一つの愉しみの佐賀の名湯・古湯に浸る時間も確保しておかなくてはとの目論みからであるが、ところどころ雪を被った、たおやかな尾根を麓の集落から振り返り仰ぎ見ると、巨大でなかなかのもの。いつかはあの尾根を、頂を踏みしめなければの思いを強くしたのです。

 さて、次はいで湯編。ボクは古湯という名の響きから、しっとりとした共同湯をあてにしていた。そしてたどり着いた唯一の共同湯は『古湯温泉館』の看板が屋上に立つ立派なビルの温泉センターでありました。マァいいか、歴史あるいで湯だもの、まろやかな湯を期待しようではないか。しかし、土曜の午後とあって入湯客の多いこと。そぅ広くもない浴槽に“イモの子を洗うがごとき”じっちゃんたちが入り浸ってなかなか上がろうともしない。温くて長く浸っていないと暖まらないことが、自分が入ってみて分かったのだが、まろやかさとは風情がもたらすものであり、この混雑では相容れないであろう。源泉35〜40℃との鑑定書(看板)を湯上がりに見た伊藤君は“おゆぴにすと”の肩書を意識してか、しばらく考えこんでいたようであったが「う〜ん、なるほどねぇ」と言ったきり湯の印象については寡黙の人となった模様。『大分の山のいで湯の味を覚えてしまうと、なかなか感想を聞かれてもネェ』との表情を読み取ったボクは話題を土産に買った『小城の羊羹』の歴史に替え、高速道を家路へひた走った。         (平成5年1月23日)

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