新緑真っ只中、福岡市民の森・油山漫遊記
 
                         栗秋和彦

先日の天拝山〜飯盛城跡ハイクを終えて、カミさんの発した一言、「ねぇ、お父さん、次はあの油山に登れるやろか?」を快晴の下、新緑まばゆい「みどりの日」に実行に移す日が来た。福岡市民にとって(一応、我々も福岡市民一年生である ! ) の憩いの山・油山に登ることはそれなりに意義があるし、ボク自身これを登らずして近在の山は語れないと思っていたので、その意味では念願成就の山なのだ。

          

とまぁ、まったく大仰に構えることではなかった。たかだか600m足らずの山で、しかも登山口である市民の森 (駐車場) の位置から類推すれば、標高差は330mほどであろう。もちろんカミさんには、ここんとこをキッチリと言い含めての出立だったが、なるほど市街地にはめっぽう近く、それでいて鬱蒼とした森の連なりを目の当たりにすると驚嘆の念は禁じ得ない。市民に親しまれている所以であって、さすがに登山口界隈はファミリー、或いは子ども会や職場単位とおぼしきレクレーション風のグループ、そしてハイカー(登山者)など多数の老若男女で賑やかだ。

 もとより我々はハイカーの一員なので、管理事務所でしっかりとパンフを貰い、にわか勉強に勤しむのだ。して案内書によれば、ここから山頂まで最短コースを取ると1.9kしかない。楽々の標高差も考慮すれば幼児を連れてのファミリー登山でも充分な筈だ。このこともカミさんにしっかりと言い含めて、先ずは中央広場から、見当をつけてアスレチックの森を突っ切り、急坂を詰めた。方向としては山頂から妙見岩へ至る北尾根を目がけて直登するような按配であろうが、一度アスファルト道を跨いで、もみじ谷にかかる吊橋へと取る。

    
          もみじ谷にかかる吊橋にて                   春の野草、「おだまき」を撮る

 そしてこのたもとには、山頂への道しるべがしっかりと記してあり、まったく迷うことはなかった。加えてカミさんもそれなりに付いてくるので、歩は緩めずそそくさと行きたいところだが、たまに道端の可憐な草花を目ざとく捉えると立ち止まって、あれこれと質問し (ボクに聞かれても困るよねぇ) 、はたまた講釈も述べる。つまるところ歩行速度はあくまでも低く、ということにになるが、県木の森 (全国各都道府県の木々がそちこちに植えられている) に差し掛かったところで、寝そべって野の花 (カミさんは自信ありげに「おだまき」と申す)を撮っているおじいさんと遭遇。急ぐ山旅でもないので、覗き込み話しかけると、この山へ足繁く通っている常連さんのよう。人懐っこい笑顔に誘われて、ここからは三人行脚となったが、道中、近在の山の話で盛り上がった。暇は余り過ぎるほどあろうし、健康であれば、余生に情熱を傾ける趣味を持つことは、長寿社会の必須条件だと改めて思い知った次第だが、カミさん連れでは、どうもじいさんの方が速そうなので、ボクは両方に気を遣ってしまい、心中ゆるゆるとはいかぬのだ。

           
                    油山山頂にてスホーツ系? 女子学生の向こうに奥方も

           
                        頂から北西側の眺望 (博多湾方面)

さて行き行きて又行き行く。鬱蒼とした森の小径、支稜をからめて登っていくと、やがて道は二手に分かれ、おじいさんの案内で尾根から外れて谷筋へと取った。そしてそのすぐ先の水場へと導かれて、ひんやりとした沢水で喉を潤おしたが、位置的に見てこのルートの方が尾根筋よりも直接山頂へ突き上げる最短ルートになろう。その意味で稜線直下の急坂はなかなかのものだったが、耳元で絶えずあてずっぽながら残距離をインプットしたせいか、幸いにもカミさんの悔やみや悲鳴などは聴かなくて済み、やれやれである。

とほどなくカシやリョウブ、ヤマボウシの茂るおだやかな稜線に達し、合流したスポーツ系女子学生風グループと抜きつ抜かれつを演じながら、ものの2.3分で油山の頂だ。それにしても山頂を含めての稜線一帯のみずみずしい新緑にはほれぼれするぐらいだ。フィトンチッド効果などと生易しいものではなく、全身に緑光線を浴びて身体が染まるような感覚とでも言おうか。これぞ森歩きの醍醐味であろうが、福岡市民135万の森はかくも身近に接し得るところに、魅力の一端がうかがえるのだ。おっと、ただ一つ難点はこの鬱蒼とした森ゆえ、稜線や山頂からの眺望を妨げていることで、うんうんこれだけはまっこと残念。頂からはわずかに北

           
                  山頂にて、山名標をどうしても撮らねばと             


                
                               小笠木峠への分岐点にて

西側が開けて、百道〜姪浜、背後に控える博多湾や能古島、志賀島方面が望まれるだけで、先客の中高年グループ大勢はもっぱら昼食がてらの雑談に専念しており、眺望(を期待すること)は思惑の外とみた。まぁ、くだんの花撮りおじいさんみたいな常連さんたちなら雑談の方に重きを置くわな。

さて一休みした後は南東へ伸びる明瞭な尾根道へ取り、キャンプ場経由で登山口へ戻ろう。そしてのっけから一気の下り。その時々に脊振山や椎原方面が雑木林の切れ間から垣間見ることもできたが、殆どは森の中の縦走路であって、この山は尾根筋からの眺望を楽しむようにはなっていないことを改めて認識した次第。で、尾根道をおよそ15分ほどでキャンプ場への下降点(小笠木峠への分岐点)に到達。後は北東斜面を一気に下り、20分ほどで喧騒のキャンプ場を突っ切ったが、芝生広場のそちこちでは家族連れや職場単位とおぼしき大勢のグループが、いい匂いを漂わせながらバーベキューの最中ではないか。アウトドアでのバーベキュー”命”と、密かに思い抱いている己にとって、この光景はまさに垂涎の的そのものである。その意味ではうるうると横睨みしつつの下山はいささか辛いものがあったが、カミさんの表情はいつものように「ったく !、大人げないわね..」と見た。うんうん、分かっているとも !

           
                 夫婦岩展望台付近より仰ぐ油山の連なり

とまぁ、およそ2時間余りの山歩きを終えて、市民の森近くの夫婦岩展望台では全方位の眺望を楽しんだ後、再び登山口へ舞い戻ったが、カミさんにとって「おっかなびっくり油山漫遊記」の顛末は、総じて満足のいくものだっと思っている。一方、ボクの事情では、とても休日の消費カロリーには達しないので、カミさんを待たせて、縦横に巡るアップタ゜ウンばかりの遊歩道をMTBで都合1時間弱、12..3kmほど喘ぎ喘ぎのエクササイズを敢行。更には帰宅後、ホームコースの春日公園で13kmのランニングに汗を流して帳尻を合わせたが、それほどこのコースのみの運動量は些少と言うべきか。誰もが手軽に楽しめる福岡市民の憩いの森と言われる所以であることを、身をもって分かったような気がするのだ。

 
    夫婦岩展望台から市内と立花、犬鳴、若杉山系を          市民の森駐車場にて可憐なシャガ

(コースタイム)

自宅(南福岡)10:18⇒車⇒市民の森管理事務所11:10 24→吊橋11:35→県木の森経由→水場12:02 07→油山12:17 38→南東稜分岐12:54→キャンプ場経由→夫婦岩展望台13:35 45→管理事務所13:50(油山遊歩道をMTBで1時間ほどエクササイズ) 15:10⇒車⇒自宅15:50 (平成16年4月29日)

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