MTB中年機動隊、ミヤマキリシマ満開の九重・立中山を攻める!  
栗秋和彦
    
         坊ケツル盆地から仰ぐ立中山

 それは挾間から発信された一本のメールから始まった。「今度の土曜日、吉部からMTBでミヤマキリシマ咲き誇る立中山を攻める。同行者募る!」と、何とも魅力的な内容ではないか。さすれば今週末、門司への帰省は取りやめ、少々の世俗事は断ち切ってでも優先させねばならぬ事柄であって、即「我、万難を排して参加せり!」のメールを送った。

 まさにこの時期はミヤマキリシマの見頃で、坊ケツル盆地の南端に位置する立中山(たっちゅうさん、標高1464m)は静かなエリアで花の山旅を目論むなら知る人ぞ知る穴場なのだ。しかも天気予報は快晴を約束しているし、久しぶりに大船林道を舞台にMTBエクササイズも楽しめるとは一挙両得。そこで、にわかMTBライダー・高瀬にも声をかけ、急遽中年チャリンコ機動隊を立ち上げたのだ。
     
 MTBで法華院温泉まで乗り込めば、大勢の登山者の注目を集めることとなり、熱い視線に耐え得るためにも一挙手一投足に華麗さを求められることになろう(なる訳ないか)。トーゼン鼻息荒く意識過剰気味な面持ちで九重へ乗り込むことになったが、よ〜く考えてみたら今どきの山の世界、周りは殆ど中高年世代に違いない。妙に張り切る必要もないし、途上で彼等を認めた場合などは、むしろ歩行の邪魔にならないように敬老精神を発露して特段の注意を払いつつ減速、謙虚、敬意の表情で接するべきだとの結論に辿りついたのだ。もっともである。

 で予報どおり快晴の下、吉部集落が途切れる地点で車を捨て、MTBに乗換える。トーゼン颯爽と風を切って乗り出したいところである。しかし我が機材はここ数年雨ざらしの中、強制的にメンテナンスフリーの状態であったため、ブレーキや変速機ワイヤーは錆び付き動作が緩慢、フロントギヤに至っては変速不可。加えてタイヤ空気圧も低くかろうじて乗車可能といった体たらくとあっては、先ずはこわごわと操るしかなかった。まぁ早い話、メンテに関してはオーナーがぐうたらだったということです。

 しかしながら暮雨(くらぞめ)登山道へ分け入る大勢のハイカーを横目に大船林道に踏み込むと、ブロックパターンタイヤのきしみ音と我々の息遣い以外はまったくの静寂世界が広がり、気分は上々であった。初夏の九重の真っ只中で贅沢な時を刻む、このシチュエーションがまっこと尊いし、我がいわくつきのMTB君であっても、確実にペダルを踏み込めば徐々に高みへと導いてくれる。その機動性と素直さに感謝の念を顕さずにはおれないのだ。

             

 そして一旦リズムに乗ってしまえば「人馬」ならぬ「人輪」一体の妙を楽しむ余裕も出てこようというもの。その意味ではこの大船林道攻めにより我が心身は久しぶりにリフレッシュできたものと思っているが、新緑と静寂、そして適度なエクササイズが「癒し」に効果てきめんなのを改めて感じ入ったところである。

 一方、にわかサイクリスト高瀬は愛機が前後ともサスペンション付きの高級車?であっても、にわかに高出力エンジンには成り得ずの登路であったかも知れない。しかし笑顔を絶やすことがなかったのは「昔とった杵柄」に裏打ちされた基礎体力や自然派指向のポテンシャルの高さを証明するものであったろうし、バイクトレーニング過多の挾間に至っては片手でデジカメを操作しつつ、前に後ろにとシャッターチャンスを求めて行ったり来たりと、この隊にあっては最年長のみぎりにもかかわらず運動量は盛んであった。まっことこのおじさんの少年のような好奇心にはマイッタ。そしてご苦労なことである。まぁこうして付かず離れずを繰り返しながら我がチャリンコ隊はミズナラやブナなどのみずみずしく緑々の樹林帯を抜け、一気呵成に鳴子川を渡り、暮雨登山道との合流地点である坊ケツル東端へと駆け上がったが、 
          
先ず視界に飛び込んできた雄姿は、進行方向やや右手前方に聳える三俣山か。つづいて真っ正面に現れる白口岳から中岳への稜線も躍動感溢れている。まさに九州の尾根・九重を代表する峰々の懐に今まさに飛び込もうとするシチュエーシヨンに加えて、予想どおり雨ケ池越登山道との合流点からは大勢の中高年ハイカーで溢れていたもの。ついついペダルを漕ぐのに力が入ってしまうのは己の性癖だと一言では片付けられまい。ありていに云えば苦笑しきりで坊ケツル盆地を漕ぐの図であった。
            
 さて法華院温泉で一本立てた後は、本命立中山登山に移ろう。登路は法華院温泉から鉾立峠を経て頂を目指すことになるが、MTB登山と銘打った手前、距離にして1qほどの鉾立峠まではあわよくばチャリンコを担ぎ上げようと目論む。しかし何とか走行出来たのは法華院キャンプ場の端までのおよそ200m程度であった。

後は潅木帯を突っ切る凸凹狭隘登山道となり、しばらくは押して登ってもみたが、もとよりMTBを如何に高みに上げるかが本題ではなく、道具として登山に効率よく使えるかが命題なので、すぐに途中の潅木林にデポして身軽ないで立ちで峠を目指した。
 それにしても登山道のあちこちに現れるミヤマキリシマは今が旬で登るにつれ、三俣山を借景とするその艶やかさは特筆ものであった。

 時々、ハッとするような色合いの群落に出くわしたりすると、長らくご無沙汰している(何のこっちゃ?)おじさんの心は激しく揺さぶられるのだ。またその傍らでは地味ではあるがマイヅルソウも小さく白い花びらを精一杯ひけらしてその存在を訴えかけているようにもとれるし、よく観察すると同じ土壌にはイワカガミやコケモモも可憐な花を咲かせてけなげに生きている。なるほどこの時期、ミヤマキリシマだけが九重の花ではないことをあらためて思い知らされたが、それもこれも最近、野の花の接写撮影にこだわりフィールドワークの幅が広がった(と思い込んでいるフシ有りの)挾間の行動形態を盗み見ながらの感想である。
              
で峠から左手になだらかな尾根へとり立中山まではわずかであった。この道すがらはくだんの群落よりもっと見ごたえがあり、ある種息を飲むような華麗な群落がそちこちに現れ、我々をしばし桃源郷へと誘うのだ。とまぁ、今まであまり野の花々には興味を示さなかったおじさんが急に講釈を述べても苦笑されるのがおちである。「百聞は一見にしかず」、ここはビジュアルな画像にゲタを預けて次に進みたい。

 さて久しぶりの立中山山頂は、ミヤマキリシマの群落の中にかろうじて山名を記したアルミ板と三等三角点を発見し分かったほどで、昔の記憶を手繰ってもあやふやで、これがなければどこが頂か分からないぐらいの鈍頂であった。周りはまったくもってなだらかで何とものどかだが、東西を大船、白口〜中岳と九州を代表する高峰から見下されているので、久住高原や坊ケツルの眺望を楽しみつつ、一方ではるか高みも仰ぎ見る不思議な山頂なのだ。

           

     
そしていくらこの山が穴場とはいっても年に一度のこの時期だもの、三々五々家族連れや中高年カップルがやってきては談笑したりと、なかなか賑やかな山頂風景であったことは申し添えておこう。
          
                  下山時奇遇なる出会いも(頂上直下にて)

 閑話休題、昼食がてら彼等との語らいや植物観察、虚無瞑想などなど三者三様の頂を楽しんだ後は、一気呵成に駆け下った。もう脳裏は法華院から8qに及ぶダウンヒルのイメージトレーニングに占有されており、既に気持は「花よりだんご」ならぬ「MTB」であった。もちろん、「まったくもってMTBというやつは可愛いのぉ」などと挾間なら漏らしそうなほど、大船林道を疾走するおじさん三人の嬌声と表情は数十年前の青春期のそれに戻り、喜々としていたことは想像に難くなかろう。その意味ではこの企画の首謀者・挾間の奔放な遊び心と、ひととき?少年の心を垣間見せつつも慎み深く我々のはしゃぎ心を見据えて、「修身」的役割を果たした高瀬に感謝の念を申し述べてアグレッシブな山の花旅の実況をお開きとしたい。

                
             法華院キャンプ場癒しの水             吉部目指してダウンヒル開始

 ところで山のいで湯セット行事の片方である、下山後の一点は挾間の提唱により初見参の下湯平温泉・幸せの湯とした。庄内町との境に位置し最近オープンした(らしい)湯布院町営の共同湯で、湯銭は一律100円とリーズナブル。浴室・脱衣場とも広く開放的で休憩室も併せ持つ立派な家屋が真新しい。午後まだ陽の高いこの時刻、湯浴み客は我々のみ。浴室の窓をフルオープンして涼風を取込みながら緑々の山々を眺め入る。まさに至福のひとときであった。ちなみにあえてパスした法華院温泉の共同湯は入湯料500円だもの、いささかグレードは違うにせよ1/5では、昨今のデフレ社会に嵌まってしまった我々には魅力的だし、何よりコストパフォーマンスに優れていなければ、山のいで湯も営々と人を引き付けていくのは難しくなろう。今からの時代そんな予感もあながち誇張ではないと思うのだ。

   

 一方、湯のスペックについて申し述べれば温泉分析表の日付は平成11年8月3日とある。湯小屋の真新しさに比すと意外にも「古い」のだ。源泉46.3℃、単純泉とあるが湯は黄褐色を呈している。う〜ん、この色付きは湯平・由布院地区では珍しく、庄内町柿原温泉や小野屋温泉のコーラ色とも違うし、いわゆる鉄気(かなけ)色でもなくこの地区独特の地下岩層に起因しているのかもしれないが、是非読者諸兄に勧めたい一点である。
(コースタイム)
大分7:16⇒車⇒飯田高原・吉部8:40〜9:00⇒(MTBにて 大船林道経由)⇒法華院温泉10:13〜28⇒(途中までMTB)⇒鉾立峠10:56〜11:03⇒立中山11:18〜48⇒鉾立峠12:03⇒法華院温泉12:20〜25⇒(MTBによる豪快なダウンヒル)⇒大船林道ゲート12:48〜55⇒(栗秋のみMTB)⇒長者原13:26〜35⇒車⇒下湯平温泉(共同浴場・幸せの湯)14:20〜15:10⇒車⇒大分16:00
                    (平成14年6月1日)

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