Congratulations
パン・パパパパパン 『祝・宮野クン。2年連続女コン1位オメデトウ』 私達が教室の扉を開けた途端、出迎えてくれたのは数発のクラッカーの破裂音と、なぜか天井から吊り下げられたクス玉と、そこからぶら下がっている垂れ幕に書かれたそんな文字。そしてクス玉からヒラヒラと舞い落ちる大量の紙吹雪。 あー・・・もうすぐSHR始まるのに、誰が掃除するんだろう。っていうか、いつの間にこんなもの作ったんだろう。 人間、あまりに突拍子もない事が起こると、かえって冷静になるものらしい。頭の片隅でそんな事を考えながら隣の当事者を見れば、もうこれ以上はないってくらい渋い顔を浮かべていた。 「裕紀、今年も女コン1位だったんだ」 「言うな、沙夜子」 彼が眉間にシワを寄せてるのはいつもの事だけど、私の問いにそれがますます深くなる。不機嫌オーラを隠そうともしてないし。 『warning・warning』 ここ最近、朋子ちゃんと高志君が嵌ってるって言う戦闘機のTVゲーム。そこから時折聞こえる女性の声の合成音。その声が発する警告が、今私の頭の中にもガンガンと鳴り響いていた。
「女コン二年連続って言うのは初めてなんだって。しかも断トツでしょ」 「宮野のせいで賭けが成立しないって、今年の胴元嘆いてたよな」 「今年の胴元、誰だったっけ?」 「ホラ、三年の・・・」 「これで宮野も殿堂入りにリーチか」 周りからチラホラそんな声が聞こえてきて、私は思わずため息を付いた。 嗚呼、御免なさい冬子さん。これはもうサボり確定かもしれません。 幸い出席日数はまだかなり余裕があるけど、定期試験直前のこの時期、流石にあまりサボりたくないのに。 昨年は丸二日。女コンの結果発表後、二人して屋上で本を読んでいたはずだ。(去年は二日目の午後になって、流石に担任の北島先生が泣きついてきたけど) 今年は二日か、それとも三日か、裕紀に付き合わなくてはいけないかもしれない。 そんな事を考えて、不機嫌オーラを惜しげもなく周囲に垂れ流す隣に、一度外した視線を恐る恐る戻すと、裕紀がニッコリ微笑んだ。 ・・・有り得ない、絶対に有り得ない。裕紀が微笑むなんて絶対にありえない。 私の背筋に冷たいものが流れると同時だった。それまで私達を十重二十重に取り囲んでいたクラスメイト達が、一斉に窓際に退いていく。 ニコニコと微笑みながら教室内を睥睨している裕紀に、千夏ちゃんや二葉ちゃんなんて大人しい子達は今にも泣き出しそうな反応だし。小雪ちゃんなんて、真っ青な顔でガタガタ震えてる。 他の皆はそこまで酷くはないけど、それでも似たり寄ったりの反応で。 私は比較的マシな反応をしている立佳ちゃんに手を合わせ『お願い』をし、彼女の了解を得るや否や裕紀の手を取って教室を出る。 それでも裕紀はまだニコニコと微笑んでいた。
「ハァー」 サボリ常習犯の私達の隠れ家である屋上に着くと同時の、裕紀の大きなため息。 裕紀の気持ちはわかるけど、私だってため息を付きたい。 なぜなら廊下でも酷い有様だったのだ。 顰め面が標準になっている裕紀が微笑んでいるだけでも、天変地異の前触れか何かのようにとられるだろうけど、それに加え目が笑っていないにもかかわらず満面の笑みを浮かべているのだから。裕紀の顔が綺麗な分、それは壮絶な雰囲気を醸し出していて。 廊下ですれ違う人・人・人。皆顔を蒼白にして私達を避けていた。 それはもう、モーセの海割りの如く。 「そんなに怒るほど、女コン優勝がイヤだった?」 確かに裕紀は母親譲りの美人顔にコンプレックスを持ってる。いや、正確には母親である冬子さんそっくりの自分の顔を嫌っている。 だからと言うわけではないのだろうけど、私の言葉を無視してゴロンと横になった裕紀の頭を、私はため息を付きつつ膝を崩してそっとその上に抱えた。 何分位そうしていただろうか。 とっくに一時限開始のチャイムも鳴った。 それでも私達は無言のまま、空の雲の流れ行くさまをぼんやりと眺める。 ・・・なんというか、さっきまでとうって変わってのんびりとした時間。 私は彼と共に過ごす、こういうのんびりとした時間をとても愛しく思う。 「とりあえず、裕紀」 「ん?」 「女コン優勝おめでとう」 そう祝辞を述べると、裕紀に軽く頭を叩かれた |
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