秘密のタカラモノ




「ごめんね、私はあなたにたくさんの嘘をついてる。でもね、たった一つだけ真実があるんだよ。・・・裕紀を愛してるって事。それだけはたくさん嘘をついてきた私の、たった一つの真実。私はね。あなたの為だったら、どんな罪だって犯せるの」

久しぶりに姉弟三人で眠ろうと言う美鈴の言葉に、「なんで今更?」ってちょっと疑問に思いながらも、裕紀を中心にして美鈴と私、三人で川の字になって眠っていた夜。

真夜中にふと目を覚ますと、美鈴の声が聞こえてきた。

その声にギョッとなって目を見開くと、そこには、眠っている裕紀にまるで覆いかぶさるかのようにして、彼の髪をゆっくりと愛しそうに撫でている美鈴の姿。

その姿は同性で、しかも一卵性の双子の片割れで、彼女とまったくと言っていいほど同じ顔を持っている私でも、ついうっかり見惚れてしまう程とても綺麗なものだった。

だから私は『これはまずい』と思いながらも、双子の姉を止める事も、目をそらすことも出来なかったのだ。

そして私が起きている事など気がついていないだろう彼女は、裕紀の唇にそっと自身の唇を重ね合わせ、最後に裕紀の顔を、壊れやすいガラス細工でも扱うかのようにそっと撫でてから、 何か呟いて自分の布団へと戻っていった。

一連の彼女の行動を呆然と眺めていた私の心臓は、うるさいくらいドクドクと脈打っていて。顔も焼けるのではないかと言うほど熱い。多分見るも無残なほど真っ赤になっているのだろう。

はたしてそれが私自身の体の異変なのか、双子にありがちだと言う美鈴の体の異変を私が感じ取っているのか分からなかったけど。ただ一つ思ったことは、今見たものは秘密にしようということだった。

だってそんな事は、特に教えられるまでもなく私だって知っていたから。

・・・それが禁忌とされる物だって事ぐらいは。

それぐらいは子供の私でも知っていたのだ。

 


今思えば、あれはきっと彼女にとって『遺言』のような物だったのだろう。

事実、私が彼女の声を聞いたのはそれが最後だったから。

だから余計に、あの光景が頭にこびりついて離れないのだ。

あの綺麗で、それでいて決して許される事のない彼女の想いと、言葉と、その姿が・・・。

あの夜の事は、親友である沙夜子や当の本人である裕紀にだって秘密にしている、私だけが知っている美鈴の思い出になった。

私はそれを大事に大事に抱えて、一人で墓の中へ持って行こうと思っている。彼女に彼女の宝物を返すまで・・・。

その宝物を誰にも穢されない為に・・・。

一人で、ずっと。

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