座禅草          加米彦

 早春、若葉のひらく前にチョコレート色の包葉のなかから、だえん形の花序を出す。この仏焔苞の中の花の姿が僧の座禅を組む姿に似ているところから名づけられた。凪いで波が静まっている時、湖面は周りの景色をよく映し出している。これと同じように、私たちの心も何のわだかまりもなく、やすらかに落ち着いている時は周囲の状況がよく分かるものだ。これを明鏡止水といい、この境地こそ最高の幸せと思う。いつも禅定な気持ちでいたいので座禅草という花が好きになった。できればこういう心境で俳句を詠みたいものだ。
 
新年

平凡の六十路を生きる去年今年

仰ぎ見る物見櫓や初み空
今年また同じ道順初詣
元旦やブラジルからのEメール
新しき賀状の増えし招き猫
初春を寿ぐ琴の調べかな
福引の祈る思ひの指の先
晴天の湯けむりのぼる初景色
ピアノにも年改まる音のあり
初句会祝ひの酒ではずみけり



啓蟄や里の細径通りゃんせ
紅白の梅に焦点構図とる
侘助や身の丈ほどの幸せを
造成地空地のままに下萌ゆる
雨後の庭おどり出でたる名草の芽
パソコンの世界に遊ぶ春の宵
菜の花の黄色の似合ふローカル線
余生とて何か起きさふ桜草
座禅草世の移ろいを生きてみる
庭ざくらこころ平らに生きてをり



待ちわびしシニアライフの夏は来ぬ
夏はじめホームページを更新す
葉桜のベンチに憩ふにぎりめし
アスファルト駅までつづく街薄暑
七瀬川瀬音やさしく梅雨に入る
紫陽花のほのかに色のつき初めし
ワルツからタンゴに変はる夏の雨
別府湾一望の丘蝉しぐれ
風鈴に心預けしひと日かな
涼風に一息つきて電車待つ



四楽章クライマックス酔芙蓉
旅枕人生有情後の月
松が枝に名月かかる城址かな
新築の二階の窓の星月夜
ぞんぶんに風を使ひて秋桜
旅心誘ふ一湾鰯雲
ご近所と交はす挨拶秋涼し
日だまりで爪切つている小六月
モザイクの銀杏落葉の城下町
人恋の道のほとりの返り花



一湾の雲の去来や冬景色
山茶花のひとひら浮かぶ露天風呂
冬ぬくしタウンシャトルでひと日旅
日向ぼこ縁側にゐし母憶ふ
丹精の大根をひく妻のゐて
街路樹の冬木となりてみぢろがず
煩悩を断ち切つてゐる枯木立
公園は風の遊び場落葉焚く
生涯を蕾のままで冬薔薇
薄日射す堀に番ひの浮寝鳥

    初山河           育枝
 
 老後のたのしみを見つけておきたいと思っていた矢先、ご近所の故亜老子さんのお勧めで西の台句会に入会しました。以来諸先輩に懇切丁寧なご指導をいただき今日に到っています。俳句を始めた頃は何を見ても五・七・五に詠んでみたくてひらめいたことをメモにしていました。個性豊かな句に出会って唸ったり非力を嘆くなど刺激のある生活ができ毎日が早く過ぎてゆきます。マンネリにならないよう佳句ができることを願っております。

新年

三ヶ日テープの源氏物語
空といふ美しきもの初山河
石垣の反り美しき城の春
やはらかに生きたし余生雑煮椀
よき日和続く朝や松納め
春の日をのせて一湾静かなり
一斉に光となりてゆりかもめ
旅人をもてなす寒の湯のけむり



ヴィオロンの余寒の胸に流れくる
水音の流れて春の動きけり
白梅の咲き満ちて空青きかな
春浅き音を聴きをり真夜の雨
ハミングを俎にのせ春たのし
空想の一人歩きや春の昼
風連れてのぼる小径や花辛夷
啓蟄や宅地となりし雑木山
鳥雲に水平線の動かざる
二羽が舞ひ三羽が浮きて春鴎
花冷えや地獄極楽涅槃絵図
振り返るショートカットや風光る

シスターの白き素顔や聖五月
葉桜やふらここ揺れて声ゆれて
眼を閉じて今も日傘の母と居る
かくれんぼ風がみつけし花道草
水甘き山国川の蛍見む
かたつむり夕刻までのフリータイム
雨音の中の水音花菖蒲
六月の森千万のいのち燃ゆ
どの蔓もさまやうてゐる炎暑かな
一幹のふくらみ蝉の大しぐれ

新涼の海のレトロのレストラン
白南風の吹き朝市の始まれり
朝顔の空の青さに溺れをり
秋の潮夕星ひとつずつふゆる       
帰燕して風の団地となりにけり
秋冷や寺に裏門表門
祖母山に紅葉前線到りたる
千枚の棚田重ねて鰯雲
秋の夜のガラス細工のハイヒール
台風の余波がきてゐる独歩の碑

またひとつ山を崩せし神の留守
ほめらるる紅葉となりし唐楓
身ぎれいに生きて二人や万年青の実
長き夜の思ひくるくる振り出しに
一面の明るさ銀杏落葉かな
高千穂の神が造りし谷の秋
冬晴の阿蘇に安らふ寝釈迦かな
紅葉且つ散る千年の磨崖仏
真っ青な空突き抜けて冬木立
空っ風案内板を左折する

             平成16年7月1日

      戻る