<佐藤義美生誕100年記念>

童謡童話劇『王さまの子どもになってあげる』

脚本・演出  安東 達夫(竹田よしみ会企画部長)

 戦争ばかりしていた王さまが年をとり、一人だけではさみしくなり自分の子どもが欲しくなりました。ある日、庭の散歩中にバラの木の前で、自分と姿形がそっくりな神さまに出会い、自分に子どもを授けてもらいたいと頼みました。すると神さまは王さまの昼寝の時間に迎えにきて「今から生まれる子ども」たちに、そのことを話して相談してみようということになりました。そして、王さまは、その子どもたちの会議の様子を見学しました。そこで、子どもたちの中の一人が、王さまが今後二度と戦争しないことを条件に、王さまの子どもになって生まれてあげると言いました。それを聞いた王さまは大喜び。これから、どんなに敵が攻めてきても、たとえ、一方的に相手が攻めてきても攻めさせて、こちらが負けることになろうとも戦争は絶対にしないと誓うのです。すると、そのとき庭のバラの木からとげがなくなっていた、というお話です。

 

 この童話を初めて読んだとき、ある種の衝撃を受けました。それは私の中で簡単には受け入れ難いテーマを扱っていたからです。現代の世界は攻められたら攻め返す、あるいは、攻められる前に攻めるという考え方が主流になりつつあります。この戦争への流れの中で、真にこれは究極の非暴力の反戦思想がテーマだと感じたからです。今や有名無実化された日本国憲法で称えられた非武装中立思想に通じる考え方だと思いました。刃には刃を、力には力を、の考えとは真っ向する、ガンディーが唱えた非暴力思想と共通する哲学がこの童話にあると直感しました。童話の中で王さまは最後に「…人を殺すよりも自分が殺される方が正しいのだ…絶対に戦争はしないぞ。もし、相手が攻めてきたら、戦争しないで、負けよう。どんな、ひどい目に合っても、戦争するよりもいいことだ…」と独白します。さらに「…戦争をして、敵味方両方の人間が死ぬよりも、敵の人間だけでも、生きていた方がいいですからね。そうでしょう、神さま。」と、まで言っています。

 童話というと一般には子ども対象の本のことを指しますが、佐藤義美は戦後、原爆など戦争をテーマにした作品を数多く書いています。その中でもこの「王さまの子どもになってあげる」は、真に子どもの視点で人と人とが仲良くするには、そして、戦争のない世界をつくるにはどうするべきかを追求した秀逸の作品だと思いました。そして、王さまと神さま、そして、家来や「今から生まれる子ども」たちの登場人物が織りなす楽しくもユーモラスな世界を見事に描いています。もちろん、童話作品として、多くの人に読んでもらいたい作品ではありますが、これをドラマ化し、楽しい演劇にできたらどんなにいいだろうと思いました。

 そして、もう一つ、佐藤義美の童謡をこの機会に多く紹介したいと考えました。芥川也寸志、団伊久磨、中田喜直、服部公一、富田勲、そして、大中恩など錚々たる日本を代表する作曲家たちが義美の詩に曲をつけています。そして、そのどの童謡もさすがと思う名曲ばかりです。全部は無理としても、この劇中に何曲か入れられたら、さらに面白いものが創れるかもと大胆にも私は思いました。

 こうして、佐藤義美の童話「王さまの子どもになってあげる」を脚本化し、ドラマの展開に合わせて劇中に義美の代表的な童謡を14曲を歌う“佐藤義美童謡童話劇”『王さまの子どもになってあげる』が企画されたのでありました。おそらく、老若男女誰が観ても、思いっきり楽しい劇になると思います。

 佐藤義美には、まだ知られていないすばらしい詩、童謡、童話が数多くあります。生誕百年の様々な記念行事を通して少しでも多くの人たちが義美作品に接し、興味を持ってくださることを期待します。そして、“さとうよしみ竹田童謡祭”がますます盛り上がっていき、佐藤義美のこころが、地域に文化として、しっかりと根付いていくようにしたいと願っています。

           

@  佐藤義美童謡童話劇「王さまの子どもになってあげる」

  佐藤義美の心や思いをテーマにした童謡・童話劇。

作:さとうよしみ  挿入歌:佐藤義美の童謡

脚本・演出:安東 達夫(竹田南高校教諭・竹田よしみ会企画部長)


  --------------------------キャスト----------------------------

『王さま』工藤隆浩 

『神さま』黒阪 義 北海道生まれ・竹田南高校勤務。朗読劇“くろあん”所属のパント名人

『家来』 首藤健二郎 竹田市出身。TVラジオで活躍中の豊後のスーパースター“健ちゃん”

『天使』 このこのおうちで活動している童謡、絵本の会のメンバーの子どもたち

 挿入歌(義美の童謡)合唱   市内の幼稚園児や小学生

 ピアノ演奏  安東久美子 竹田市植木在住、昨年、佐藤義美の詩「すいか」を作曲

 

挿入歌プログラム    作詩/さとうよしみ

1.いぬのおまわりさん     作曲/大中 恩

2.みんなのはる        作曲/中田喜直

3.おふろジャブジャブ     作曲/服部公一

4.青い空の歌         作曲/服部公一

5.おにのギター        作曲/服部公一

6.おちばのうた        作曲/團伊玖磨

7.あるきなさいよ 雪だるま  作曲/佐藤 眞

8.おすもうくまちゃん     作曲/磯部 俶

9.子どものはた        作曲/大中 恩

10.アイスクリームのうた      作曲/服部公一

11.  てたたきのうた       作曲/溝上日出夫

12.  ことりやの とりさん    作曲/服部公一

13.  ハダカのうた        作曲/服部公一

14.  グッバイ          作曲/河村光陽


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