大分発九重行温泉ロードは夢ごこち        田野村日出雄
 朝モヤの中をヘッドライトをともして医大道路を走り、210号線にはいる。湯の平バイパスを通って湯の平温泉へ、ここは昔から温泉宿のならぶところ、真ん中を通っている石畳が昔をしのばせる。耳をすますと、三味線の音が聞こえそうな気がする。ちょっとした旅館には岩風呂や洞窟温泉がついているし、混浴も多い。ストレスの溜まった人にはこの湯は特効薬だ。お湯から散歩、散歩からお湯、ヤングには無縁かと思ったら、ごく最近ラグビー場なるものが出来て、青春の汗と泥にまみれた高校生諸君によく出合う。何やら日本の未来を背負って立ちそうな顔つきに体つき、一言で言えば、中年のおばさま族がほれそうなたくましさがにじみでている。

 そんな湯の平を過ぎると、霧が深く、雪が解けない道路に出る。下に降りれば山下湖、上に登れば山なみハイウエー、なんと杉林の美しいこと、杉の妖精様のすみ家に違いない。ここで願をかけるとよく効く。嘘と思ってもやってみないとわからない、だって、買わないとあたらない宝くじの原理と同じ。でも、他力本願の人には少々の無理がある。そんな人は、霧や雪で交通事故を起こさないように安全運転に傾注するのが賢明である。

 やがて山なみ、カーブを曲がると九重連山がよく見える。北方の近くにくると残雪をいだいた湧蓋山が美しい。別名、玖珠富士と呼ばれ、標高1500メートル、湯坪から登ると車の通れるダラダラ坂が1時間半、そこから1時間半で頂上だ。頂上には男神、女神がまつっているし、九重連山の写真がとれる。帰りは、筋湯のうたせ湯で疲れをとる。いや、筌の口がよいかな、鉄分の多い温泉で、タオルを赤く染めてくれる実に気分がいい。

 ついつい想像が先に走ったが、やがて、泉水山、硫黄山、三俣山の美しさ、いや、すばらしき景観が目にはいる。春は黒、夏は青、秋は赤、冬は白、それは九重の四季の色と言ってしまえば終わりだが、山の色は日々、刻々と変化する。そして、貴女の心も。その美しさが夢の世界、いや、ロマンの世界からの使者だ。文豪川端康成は小説「波千鳥」の中で、「そこは紫の色の雲がただよっているような夢の世界の高原かと思われるのです。」と言っている。文才がなくても、画家の天分がなくても、九重の美しさは、そこにたっているだけでよくわかる。そして表現できる。そして春なら馬酔木の美しい泉水山、特に、下泉水山を登るとき、心は一歩一歩ロマンの世界のとりこになっていくでしょう。疲れた体を星生の星空を見ての露天風呂でいやし、翌日、三俣山、特に硫黄山の硫黄片をひろってみるのも思い出になるし、かわったことがしたい人は、途中すがもり小屋苦心の作の露天風呂につかるのもよい。そして、すがもり峠で鐘をならし、登山者の安全を祈る。それから歩くこと、いや、登ること1時間、三俣山頂、ここでの昼寝はすばらしい。どんな別荘のお座敷よりすぐれている。日当たりよし、風通しよし、部屋代ただ。名づけて夢想殿。

 そこでクイズを一つ。三俣山の峰はいくつある。また、これから先は久住分かれから久住山、法華院温泉、牧の戸温泉、いろいろのコースがありますが、お好みの温泉を選んで下さい。

 でも、この文につられていく方は、一度でやめられない覚悟が必要です。金のない人には山小屋風の九重ヒュッテ、山男風や文人画家風の人にも九重ヒュッテ、根性のある人は寒さに耐えるつもりで野宿がよいでしょう。 まあ、山とお湯を楽しみたい方におすすめするコースです。また、ストレス解消にもよいところです。一度、綿のような雲と紫が流れたような青空の九重へおいで下さい。

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