私の温泉入湯とのめぐりあい   伊藤道春
 最近は、山のいで湯愛好会のメンバーとつれだって温泉めぐりをすることがなくて、新しい温泉へも、行っていない。近頃は、実家(庄内)に帰った時に、湯平温泉に行く程度になっている。山登りへ行って、温泉めぐりをしたいものだと思っている近頃です。

 湯平温泉は、私が最初に入った温泉であるし、落ち着ける我家のような温泉です。
 今は、車で15分足らずで行けるが、子供の頃は、庄内〜湯ノ平を汽車にのって、それから温泉場行きのバスに乗り換えて行っていたので、2時間くらいかけていました。相当に遠いところまで行っていたような気がしていたし、温泉につかったという、ありがたさがあったような気がします。

 私が、湯平温泉に行く楽しみに、入浴後に立ち寄る川魚料理店での鯉料理の食事があります。 「うれし乃」という川魚料理を専門にしている店で、鯉料理がとても美味しくて、しかも値段も安いのです。鯉こく、鯉のあらい、鯉のからあげ等どれも大変美味しいのですが、私が一番気に入っているのが、鯉こいというもので、鯉の内蔵を「かぼす」と「とうがらし」で味付けしたもので、酸っぱさと辛さが、丁度いいくらいになり、口の中で冷たくとろけるようになって、最高の味です。値段も200円ですので、湯平温泉へ行ったときは、是非立ち寄って食べてみることを勧めます。 

 一方、私が、山のいで湯愛好会がモットーとしている「山に登り」その帰りに「温泉に入る」という「こだわり」に共感を覚えるのは、私が、若く純情であった16歳の学生の頃(そんな時期があった?)、クラブのレクレーションで由布岳登山を経験した時からです。下山中に雨にみまわれて、全員びしょ濡れになり、冷たい思いをしている時、ある先輩が、この下に混浴の露天風呂があるから入って帰ろう、混浴だから運が良ければ、女の人も入っているかもしれないという意見をだしたので、全員が反対なくしたがいました。岳本露天であったのだが、そこへ行ってみると、二組の夫婦が子供(2歳位)を一人づつつれて、入浴しょうとしていた。私たちうす汚れた男ども10数人がぞろぞろやって来たものだから、奥さん達二人はいやだという顔をして止めようとしていたが、だんな二人が、せっかく来たのだから入ろうじゃないかと説得していました。

 私達は「入れ」「入れ」と願う気持ちでいっぱいでしたが、顔をすまして、服を脱ぎ温泉に入った。奥さん二人はようやく意を決したようで、服を脱ぎ始めた。我々クラブ員は目のやり場に注意しながら、ゆっくりと温泉につかり、山登りの疲れをいやした。山登りの疲れも体の冷込みもいっぺんに吹っ飛んでしまった。これ以来、山登りした後は、付近の温泉(できれば混浴)に入って、疲れをいやすのが一番というのが持論となり、以後実行するようになった。今も思うのだが、あの時の二組の夫婦はどういう人たちだったのだろうかと。

 奥さん二人は、恥じらいを忘れたおばさんたちではなく、まだ恥じらいを残した30歳前の女の人だった。今の温泉ブームが訪れる前の時代なのに、温泉の良さを知りつくし、若くして温泉道を極めた夫婦達だったのだろうか。(終わり)

back