念願の山  宝満〜三郡を縦走の巻   栗秋和彦
 福岡の山々を巡るについて、貴重なパートナーとなった息子の寿彦と念願の宝満山から三郡山への山行が実現した。大宰府I.Cを降りた途端、渋滞の連なり。九州の交通の要衝であり、名にし負う大渋滞地帯と見た。更に、ナビゲーターが寿彦とあって、ルートファインディングもままならず、二日市の街を行ったり来たり。これならワタル兄の方がまだマシだと思いつつ、やっとの思いで米の山峠への県道に入る。

 そして宝満登山口バス停はすぐ分かったが、飯塚へ抜ける主要道路とあって横をトラック、ダンプの類いがビュンビュン通り抜け、ボクのイメージにある山里の登山口とはいささか異なり風情はない。しかし道路から上がり、高台の閑散とした住宅地の中の小道を登り始めるとすぐ野々山の趣となる。一旦、林道を横切りヒノキ林を突っ切り渓流沿いの猫谷川コースに出る。ようやく登山道らしくなってきて山に分け入った実感が涌いてくる。うぐいすやかっこうのさえずる唄に身をまかせながら、ヤブツバキの群落を愛でつつ、夫婦滝や黎明の滝といった小滝を巡るこのコースはなかなか趣があってよろしい。そして第2土曜日だというのに、ただ一人として登山者に会わない。

 やっと、5合目の箱庭荘(苔むした自然の庭園。庵がある訳ではない)でおじさん一人と会い、宝満山の登山道であることをしっかりと確かめる。ここからおよそ25分で、このコースのハイライト、釣舟岩が目の前に覆いかぶさってくる。まず岩の割れ目に分け入り、大石が積み重なった隙間から這い出すと、上部には押出と呼ばれる巾40cmくらいの岩間の通路があり、ザックを片手にカニのように横這いにしか進めない、迷路のような遊び心溢れるところだ。ここから左へ取り、杉やモミの巨木帯を抜けると、「ワイワイ、ガヤガヤ」のざわめきが聞こえてくる。

 森の中から突然、広場が現れ、『宝満山キャンプセンター』の札がかかった大きなログハウスもその一角を占めている。この広場のどこもかしこも昼飯を食むハイカーでいっぱいなのには驚いた。この人達はおそらく太宰府天満宮方面からの正面コースをとって来たに違いなかろう。山頂はもうすぐなので、「とうちゃん、飯、昼飯!」と環境にすぐ感化される寿彦の言動は無視して先を急ぐ。

 ブナ林の急坂を登りきると大きな岩に出くわし、これをトラバースして回り込み、鎖場を登ると広大な岩場の台地に出る。ここが雑踏の宝満山々頂(830m)であった。子供達の群れ(遠足か?)、家族連れ、職場のグループとおぼしき人達でいっぱいで喧噪の頂といったところ。修験者の行が盛んだった、いにしえの面影を感じとる余裕もなく、いささか当惑気味のまま、最初の行動は昼食の場所確保であった。コンクリート造りの小さなお社・竃門(かまど)神社上宮の軒を借りて、牛肉おかか、豚キムチ、小梅サラダと趣向をこらした7イレブンの特製おむすびをほおばり、やっとひと心地つく。

 さて山頂が突出した露岩なので、本命の眺望はすこぶる良い。太宰府の町並を眼下に見下ろし、その向こうに背振の山なみや大都会福岡の市街地の連なりを望見できる。また南に転ずれば耳納連山のスカイラインとやや東寄りに、直近の大根地山(625m)の奥に控える鈍頂の山並みが、古処、馬見の連山であろうか。といった具合で見ていてキリがない。さぁて、三郡山への縦走を控えているので、あまりのんびりともいかず腰を上げる。

 東へ快適な縦走路を突き進むと、ところどころのブナやモミの巨木に案内板が掛かっている。ムム、何事かと興味津々覗き込むと『4/10に 第○回若杉山〜宝満山クロスカントリー大会が開催されます。当登山道もコースとなりますので、登山者の皆さんのご協力をお願いします』とある。第○回とあるので以前から定着しているのかしらん。それに若杉〜宝満となれば、アップダウンの山岳路を15.6kmはあるので、けっこう厳しいがそれなりに充実感もあるレースとなろう。あわよくば、来年エントリーをと、「ウフフ・」一人思わずふくみ笑いをしてしまった。

 さてほどなく仏頂山(868m)に着くが、ここは石嗣があるだけで眺望はきかない。更に東進すると樹高も低くなり、落葉樹の多い明るい尾根道となる。次第に航空監視用のレーダードームを戴いた三郡山のどっしりとした山容が迫ってくる。カエデ、リョウブ、ドウダンツツジ等銘板付きの木々を確認しながら急坂を下り、左に灘所ガ滝への道を見て登降を繰り返すと、この山群の最高峰である三郡山(936m)が目前に。山頂へのルートは突然、レーダーサイト用の舗装路(米の山峠からの専用道路)に変わり、住宅造成地のような所を歩き、頂上の一部分だけが、人工のおよばないエリアとなっているようで、いささか面食らってしまうのだ。傍らの寿彦もすかさず「今まで山道ばっか歩いて、ツメの部分が舗装路というのも妙なもんじゃネェ」といつものひとくさりを忘れず、最後の急坂を駆け上がる。

        

 レーダードーム裏の山頂では7〜8人の登山者が寝そべったり、飯を食ったり、物思いにふけったり?と喧噪の宝満山に比べると、春の陽をいっぱいに受けて、ゆるやかな時の流れを楽しんでいるようだ。我々もしばし筑豊側の眺めを楽しんだ後、残りものの食糧を片付けながら、午後の陽光にまどろむ。

 とここまでは念願の宝満から三郡山を縦走して意気揚々であったが、縦走路を少し戻り天ノ泉の水場から入った宝満川源流コースを下山ルートに採ったことから、薮コギ・木々すがり・直降下(道に迷ったのか、最初からルートがなかったのか分からないが)を図らずも体験した、大地との格闘シーンに遭遇することになった。危なっかしい息子の一挙手、一投足に気を使いつつ、ほうほうの体で仏頂山からの登山道に出合った時の安堵感は、当の本人の言葉を借りれば「とうちゃん、オラこぇーかったぞ。滝んとこヤバかったし。もう、ここは来たくないわい」に如実に表れていたように思う。低山でかつ登山者の多い宝満、三郡連山のこととてタカをくっていたのかも知れぬが、子連れ登山ではいわゆるルートを外れた強引行動は謹むべしとの反省点も含めて、再びのダンプビュンビュンの県道を登山口バス停へ向けてひた走った。

(コースタイム 門司9:00−登山口10:40〜45→林道出合い11:01→夫婦の滝11:18〜23→庭石荘11:48〜50→釣舟岩12:16〜20→キャンプ場12:36→宝満山12:47〜13:17→仏頂山13:30〜33→三郡山14:13〜27→柚須原公民館15:50→登山口16:22〜25−日田17:40)     (平成6年4月9日)

back