雲上の散歩、16年ぶりの北アルプス 表 銀 座 縦 走 記   加藤英彦
  平成6年8月8〜14日
  メンバー:加藤英彦、太田哲典、松本房明、深見敏正

 8日の7時大分港発のダイヤモンドフェリー、JR在来線のひだ15号大阪〜松本間を乗って途中博多からの深見氏と名古屋にて合流し、4人揃ったところであらためて乾杯。松本駅であわただしくそばを一杯喰って大糸線へ、穂高駅下車。すぐにタクシーにて本日の宿泊地中房温泉へと向かう。中房温泉着15時、やっと部屋にて旅装をとく。一息いれて入浴(大湯)。夕食までの時間、付近を散策する。周りにいろんな温泉がある。特に白龍の湯へはタオルも持たないのに飛び込む。やや温い温泉だったが周りの雰囲気が最高であった。明日からの天気が気になる。予報ではあまりよくない。夕食を早々にとり、明日の朝食の弁当ができた8時半、もらって勘定をすませる。明日からの準備をし、寝る前にもう一度湯につかり9時すぎに寝る。

 10日 4時30分起床。太田氏と2人で最後のフロへ入る(不老の湯)。部屋でコーヒーをわかし菓子パンとで軽い朝食をとり5時25分宿を出る。

 天気は心配したほど悪くない。高曇りとなる。登山口に着くとそこには大勢の登山客でもうごった返している。夜行組とか今タクシーにて着いた連中だろう。さていよいよ出発。きつい登りが待っている。まず慎重に歩きだす。荷物約15kg。ペース快調にすべり出す。追い越された組、追い越した組それぞれのパーティのペースで歩き出す。約30分で1本とる。第1ベンチがすぐ近いとみたが、休憩したそのすぐ先に第1ベンチがあった。先行した深見君に第2ベンチで追いつく。皆、足もとがよく整備されているので祖母の登りより楽だなんて強がりも言っている。 樹林帯に囲まれているので、見通しは悪いが、登るにつれて稜線が雲にかくれている。

 やがて荷揚げ用のケーブルの下をくぐり第3ベンチ。昨夜燕山荘にて宿泊していたのか東京の中学生一行の下山組が大勢下っている。皆元気に「おはよう」だの、「こんにちは」だの、にぎやかいことしきりだ。3時間の登りでやっと合戦小屋到着。ここのベンチも又人でいっぱいだ。まず名物のすいかにかぶりつき、朝食としての弁当をたべるべくサラダ、みそ汁を作る。中房温泉の弁当はおそまつ。量も少ないしおかずも悪い。サラダとみそ汁がなければ喰えない。ただ、弁当の包み紙は高山植物を配したしゃれたものである。

 一息ついて又登りにかかる。合戦の頭でやっと樹林帯と分かれ、山荘と燕山頂がみえる。ここからややペースがダウンか。お花畑が右手谷沿いにあらわれる。やっと山荘着。槍方面の大パノラマを期待したんだが遠く雲の中にあり槍はみえない。残念だ。山荘の前の広場も人でいっぱいだ。荷を置いて燕山をめざす。山荘で乾杯用のビール(500円)を仕入れる。あの燕山独特のざらざらとした登山道、花崗岩の特異な岩の中を進む。あった、あのかれんな女王“こまくさ”が、あのピンクが咲いている。少し花の時季としては遅いようだがなんとかみれる状態である。ほんとうにアルプスに来たんだなとの実感である。山頂にて乾杯の後山荘へ引き返す。ここで時間はまだ12時前だ。今日はこの燕山荘泊の予定だったがね明日のことを考えて少しでも足をのばそう。次の大天井ヒュッテまで行こう。ごったがえす受付にて燕山荘にかけあったら、どうぞとの二つ返事。何のことはない。大天井ヒュッテも同じ経営であり又山荘もこれだけ大勢の泊まり客であれば4人でも減った方がよいのだろう。そうときまればすぐに先を急ごう。

 快適な稜線歩きとなる。ゲエロ岩はいつすぎたかわからず、為右衛門吊り岩はくさりあり。慎重に下る。さすがアルプスのの稜線歩きはきつい。簡単に考えてはいたが距離といい、アップダウンといい、かなりのものだ。やっとの思いで切通岩をすぎ、喜作レリーフの前を通過。喜作新道へと右へ道をとる。ここで一組の親子連れにあう。みるとトキハの包み紙をもっている。聞くと大分から来たという。さらに問いつめると県病の先生だそうで、予定を聞くとずっと同じ行動だということで、大分からの登山客に会うなんぞあまりないことだと・・・。

 さて、この大天井岳をまくこのルートが又長く感じた。1日の疲れた体に、行けども行けども小屋はみえず、何べんも尾根を越えてやっと右手下に赤い屋根のヒュッテがみえた時はほっとした気持ちであった。長い行程で皆も疲れ気味。ほっと大天井ヒュッテに一夜を乞う気分となる。先ほどの親子連れも到着。同じ部屋での宿泊となる。1日の行動で体が水分を欲しがっているのがよくわかる。夕食の前小屋のベンチで紅茶をわかして飲む。一時のやすらぎである。明日の好天を祈りつつ夕食を早めにとり寝床。小屋が○○・・であまりに暑苦しく寝苦しい。熟睡がとれず何度か目がさめる。

 11日 4時30分起床。窓の外をガスが走っている。すぐに小屋の前のベンチで朝の雰囲気を味わう。早発ち組は食事抜きで出発する組もある。大天井の小屋を早く発った組の中には槍へ向かう組もいる。天気はなんとかもちそうだ。5時30分、食事をとり、6時出発。2日めの歩きは体がなれてきたのだ。快適な稜線歩きとなる。天気も昨日とほぼ同じ。槍のみえる稜線に出てもあいかわらず雲のなか。ほっと一息ついた時、先行のパーティが何かさわいでいる。あっ、雷鳥だ。親鳥が一羽そして見守られて子供の雷鳥が岩の間を遊んでいる。幸運だ。すぐにカメラにおさめる。今日は快調だ。ほぼコースタイムどおりの行動だ。赤岩の山頂もすぎ、西岳を左へまいて西岳ヒュッテ着8時26分。

 しばしの休息ののち、右へ大きくまがり下りにかかる。昨日の親子連れとも抜きつ抜かれつの行動となる。小4の子供の方が頑張っている。下りにかかりハシゴが2ヶ所、くさり場が1ヶ所、いやらしい下りとなり慎重に・・・。にせの乗越へとガクンとおりる。そしてやや登りにかかったところで、小休止「コーヒータイム」をとる。コーヒーを終わってしまい紅茶だけ、砂糖もなし。トマトの配給があり元気づく。槍の東鎌尾根のいやらしい登りが続く。ハシゴがあるところを慎重に乗越す。えんえんと続く登り。100mおきに岩に距離がでてくる。ヒュッテ大槍まで300mとの標がある。そこからが又長く感じた。ガスの中、霧雨が降りかかる天気となる。やっと大槍着。昼食をとるがめし類を喰う気がしない。小屋で売ってるフルーツ缶詰で昼食とする。M氏は小屋での200円のみそ汁とともに昼食を取る。

 さて、最後の登りとなる。本来ならば槍の穂先がみえるのだが、今日はガスの中、最後のトラバースも上がみえないのでかえって恐怖感もなく、やっと槍岳山荘へ到着12時45分。宿泊手続き、案内された4人分のスペースのなんとせまいことか。やっと一息いれて昼食をとる。頂上へ行こうと様子をみるもガスの中、霧雨の中。天候の回復も時間待ち、と本日の寝床の上で乾杯となる。

 ほどなく天気がおさまったようにみえたので頂上へと出発。最後のハシゴも慎重に山頂へ。感激の登頂となる。ガスの中、記念撮影。この槍へ登るために昨年より計画をたてトレーニングをして訓練の山行も3回も重ねた。今この山頂に立っているのだ。県病の親子も登ってきた。スコットランドからの外人も数人、頂上は意外とせまく以前の時と異なって感じた。時々ガスが晴れて下の西鎌尾根や山荘がちょっと見えるが又あっと言う間にガスで包まれてしまう。名残惜しいのか、かなりの時間いたのだろう。下りにかかると雷雨となる。すべらないよう慎重に下ってすこし濡れた状態で山荘へ帰る。人が多い。食事も順番待ちの状態だ。夕食後昨夜寝れなかったので今夜はアルコールを飲んでということで一杯飲んで寝る。松本氏は反対になって寝たが寝つけないということで暖房室で寝る(これが明日からの不調の原因となった)。

 12日 4時起床。窓からみると星がみえる。よし、天気はいいぞとの声。他の皆も起き出す。小屋の前で東の空のあけかかるのがみえる。よし、日の出がみれるぞ。みれば槍の山頂へ登る組のヘッドランプがつながっている。がしかしやがてガスがかかってしまう。すぐに一ぺんガスがきれたのだが、だめだ。さっきまでみえていた山頂も常念の山なみもみえなくなる。待ってはみたがガスは晴れぬ。残念だ。朝食を済ませて下りにかかる。天狗ヶ原への分岐でしばしまようが思い切って天狗ヶ原へ登る。M氏体調すぐれず待機。天狗ヶ原はやっぱりよかった。雪渓の上で遊び久しぶりのグリセード。時々顔を出す槍の穂先を写真におさめる。名残惜しい槍とわかれて槍沢を下る。途中槍沢雪渓にて持参のゆであずきとで作った金時のうまいこと。雪渓での水割りも又おいしかったの一声である。槍沢は一気に下っていく。ロッジもすぎ横尾までとばす。ここで昼食。ラーメンサラダほか持参の食糧を全部喰ってしまう。日陰のベンチは快適だ。水もここまでおりれば豊富にある。あとは徳沢〜明神と飛ばして、午後4時30分上高地河童橋着。山研へころがり込む。やっと一フロあびて3日間のあかを落とす。ビールで乾杯がバタンキューで熟睡となる。

 13日 あわただしく上高地を発つ。朝もやの中の梓川流域の散歩も印象的であった。乗鞍へタクシーにて。剣ヶ峰山頂へ登り平湯経由高山へ。

【反省点】
 一、コースとしては通常の表銀座コースであり北アルプスが初めてのメンバーが2人いることから考えても妥当なコースであったと思う。1日目に燕山荘泊予定を大天井ヒュッテまでのばしたのも正解であった。翌日燕からであれば槍まで行けたかどうか疑問である。

 一、メンバーシップもよくいったと思う。3人は3回訓練山行をしたのでよかったが、深見氏が急に加わってどうかと思ったが、よく頑張ったしよかったと思う。別に違和感はなかった。

 一、装備:可、不可もなくほとんど予定した通りの装備であったと思う。シュラフカバーが最後槍山荘にて必要であったのが松本氏であったが、持参してなかった点、反省だ。

 一、食糧は小屋泊りだし食事付きということで、あまり気にしてなかったが、やはり重要な点だ。不足したもの:砂糖、特に紅茶はあったが砂糖がなかった。ビタミン剤としたようなものが欲しかった。逆にしょうゆは不要だった。サラダは好評だったし、ゆであずきの氷は好評だった。

 一、最後の日、乗鞍登山は予定外だったのだが、カゼ気味の松本氏と、もたついた太田氏が登らなかったのは残念。下りのバスを確保のため急いだが、あれで正解。あすこでもたもたしていたら12時5分発のバスに乗れなかったかもしれない。そうするとその日のうちに帰れなかったかもしれない。

 一、日程の設定が8月の丁度一番多い時と重なった。特に槍の小屋は多かった。1週間あとの方にずらすとよいと思う。

 一、天気は仕方がない。ひどい雨に降られなかっただけでもよしとしなければ。特に例年とちがって上高地も雨が多かったと聞いたし、異常気象の為か16日の槍がテレビででていたが快晴であった。稜線上からみる槍を一見でよいから見たかったが。

 総括して今度の山行は90点といったところか。

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