快晴のGW 大崩山〜比叡山、花に酔い青春に還った山旅の巻     

                                         栗秋和彦

                
            youtube動画 左:2016.4.29大崩山 右:2016.4.30比叡山


東北は仙台からの賓客、鈴木君を挟間、栗秋で迎え、3人で大崩山に登ろうということになった。筆者にとっても23年ぶりの懐かしい山だが、登路は長く険しい。花崗岩の岩峰が幾重にも重なり、谷は深く峰は孤高を保ち厳しくも景観は秀逸だ。

加えて祝子川をベースにすれば往復7〜8時間程度はかかり、手足をフルに使って登るワイルドさはこの上もなし。その意味では懐かしさよりも、秀景見たさよりも、登るにあたっては“ふんどしを締めて”かからなければならない、という身構えにも似た思いが真っ先によぎったのだ。

 一方でスケジュール上、登山口には早くても10時半〜11時ぐらいにしか着かず、この時刻では山頂往復は非常にタイトになることを挟間隊長が一番分かっている筈。更には前日までの雨で祝子川の徒渉も危なっかしく、渡れなければ万事休すだ。しかしそんな思いはどこ吹く風、彼からの案内によるとしっかりと山頂を往復して麓でキャンプとあり、登山口は聞き慣れない宇土内谷からとあった。

 「Where UDOUCHIDANI?」である。そこで国土地理院の地図で探すと、比叡山の北方(奥)10`に位置し、この谷から北東へ延びる尾根へ上がり、これを詰める楽ちんコースということが分かった。何せ登山口の標高が1010bもあり、標高差にして630b足らず、しかも地図で見るかぎり、だらだら尾根の平易なコースとみた。

余談ながらここはダブルストックも使えそうだし、コースタイムは2時間余りと、祝子川側からとは大違い。そして思ってもみなかったアケボノツツジの群落が尾根上にあり、まさにこの時期、花の山旅への期待が大きく膨らんだのだ。(とは言っても今回は時間がなかったからで、本来、祝子川からの“ふんどしを締めて”かかるコースを疎んじた訳ではないからね)。

 でこの宇土内谷、大分からのアプローチはけっこう長く途中、道を間違ったこともあり、4時間10分も要してやっとの到着。国道218号を槇峰で降り、狭隘道を比叡山を過ぎるまでは順調だったが、手前の谷に入ってしまい、30分のロス。慌てて元に戻り、鹿川渓谷に入ったまでは良かったが、今度は(ちょっとした広場に車数台駐車中の) 登山口を通り過ぎて、鹿納谷を遡ること15分。「どうもおかしい、さっきの広場が登山口やったかいな?」とは隊長の弁。

鈴木君はもちろん筆者も初見参ゆえ返事のしようがなかったが、隊長は宇土内谷アイスクライミングで過去2回ほど登山口まで来ていて、全幅の信頼を寄せていたのに・・・である。

 と彼をあげつらうつもりはなく、最初のミス(手前の谷進入)はナビゲーターたる筆者の地図読み間違いだし、2回目の登山口見過ごし事件は「いゃあ、冬枯れ時期とは風景が違うからねぇ」とご愛嬌。

そのおかげで鹿納谷最奥部は北面の祝子川渓谷とはまったく趣が異なっていることを知った。樹木は絶え、露岩むき出しの荒涼とした景色が広がり、そのワイルドさが強く印象に残ったのだったね。

 さぁ気を取り直して(そこまではないか)登山開始だ。林道を詰めること12.3分で尾根への取付き、杉林へと分け入る。ジグザグの急登が、一週間前からの風邪がようやく癒えつつある、病み上がりの身にはけっこう堪えた。ったく!楽ちん登山の筈だったのに、と苦笑い。

それでも尾根に上がるとポツンポツンとアケボノツツジの群落が現れはじめ、登るにつれ群落は密度を増し、ボリュームある花びらは艶やかさを上げた。うんうん、ゴホン、ゴホン、これでこそアケボノツツジじゃな、と頬は緩むし、瞳は潤む。来た甲斐があったと言うものである。

    
 ようやくの宇土内谷登山口にて    スズタケの立ち枯れが目立つ     息をのむ艶やかさに酔う     ブナの森も今は疎林の趣

しかし一方で下地を覆っているスズタケ群は立ち枯れが目立ち、岩交じりの登路はむき出しのまま。まっこと趣に欠けるし、そんな緑薄い稜線にアケボノツツジの花弁だけが映え、彩を添えているのも何か変じゃな、と思ったのは筆者一人か。

 さてこの立ち枯れスズタケの小道は大崩山の頂稜まで続いたが、見上げるといつの間にか一帯は葉を落としたブナの林へと変わっていった。しかしこれも例のスズタケと相俟って侘しげな景観に映った。

葉音のそよぎこそブナ林の命だし、新緑いっぱいなのがいいに決まっている。そんな思いを巡らしつつも白黒モノトーンの世界にヒメシャラの美林帯が現れ、赤褐色のスベスベ幹は森の中でひときわ目立った。その意味ではヒメシャラ君と共生することで、この時期の地味なブナの森は救われている、と言いたかったが、「あんなぁ、鈴木君!これヒメシャラち、言うんよ」「東北の山にはないんで分からんやろ?」などと隊長のレクチャーが始まれば、水は注さずに二人の会話に耳を澄まそう。

    
頂は真近、上祝子登山口との分岐   石塚から祖母・傾の遠景を         同じく石塚山頂にて            大崩山の頂にて小憩

 閑話休題、鹿納山への分岐を過ぎるとグッと傾斜も落ち、イケイケドンドンの体。ゲンキンさは際立った。更に上祝子登山口への分岐を過ぎると、ほぼ平坦な踏跡となり、わずかで展望の利く石塚へ。更に3分ほどで大崩山の山頂へあっけなくも到達だ。

 特に石塚の岩棚に立てば、鹿納や五葉、夏木などの向こうに出べそにも似た傾山のにょっきり鈍頂が意外にも近く感じられ、その左手稜線の延長上、彼方にはどっしりと構えた祖母山、そしてその右手にうっすらと九重の山塊も拝めるに至り、嗚呼、我が人生に悔いはなしと叫んだのだったね(てな訳ないか)。

 で山頂では遅い昼食を取ったが、コーフン冷めやらむも頂稜一帯は北からの乾いた風が吹き、陽はまだ高いのにけっこう冷えた。長居は無用、ここはガンガン下って温まるしかなかろう。と意気軒昂に下るも、要所要所の(アケボノツツジの)ビューポイントでは今シーズンこれが見納めと、未練がましく見入ったのは言うまでもない。

結果、上りは1時間50分で山頂へ、下りは1時間10分ちょうどで登山口に降り立ったが、なるほどこのコース、登山口までのアプローチは長いけれど、実働時間は宝満山にも満たないお手軽登山だったことが分かった。

 さて今宵の宿は登山口から車で10分余り下った林道脇の広場とした。山腹を削って造った森の中のうねうね林道は崖と谷のはざまを縫うように設えられていて、そこだけがポッカリと開け、明るく陽が降り注ぐ広場は「キャンプにどうぞ!」と言わんばかりだ。

東方2`、森の上方にはヨセミテのハーフドームを思わせる岩峰(たぶん鉾岳1277b)が聳えていて、あたり一帯は爽やかな陽春の風が吹く。おっとここはヨセミテかぃ?と野暮はよそう。まさにプライベートキャンプの趣に浸れること請け合いで、旧交を温めるに充分。夜は長くなりそうな気配アリアリであったか。

    
  陽だまりの下山途上を行く     マクロで撮ったアケボノツツジ   夕宴はアウトドアで盛り上がり、2次会はテントで行く末を論じる

 二日目は比叡山散歩と称し、いにしえの登攀(※)を回想しつつ青春に還る山旅とした。曲がりなりにも本命・大崩山を登った後で、てっぺんまではせいぜい1時間ほどの、いわゆる立ち寄り登山の趣である。それゆえ“散歩”と気取ってみたが、山容からしてめっぽう急峻で、標高差400b余りのアルバイトはけっこう手強かったのが偽らざるところ。

加えて期待していた山頂からの眺めは、北側中心に開けただけで物足りない気持ちを引きずったまま下降にかかった。しかし下りに千畳敷コースを取ったことで、状況は一変。にわかに比叡山らしさを堪能し、挟間隊長の出番到来を告げたのだ。

 と言うのもこの下降ルートの南面(南壁)一帯は41年前、彼とはザイルこそ組まなかったが、声掛け合って隣接するルートを攀じっており、彼は3年ほど前にも大分のクライミング仲間と久方ぶりに南壁を登っている由。よって地勢にも明るくルート解説が饒舌になってしまうのは致し方なかった。

  http://8922.teacup.com/wataru/img/bbs/0000860_2.jpg  
比叡山T峰南壁と左は正面壁   比叡山U峰の頂に立つ     T峰展望所からU峰南壁方面を    正面壁ニードルの登攀を観る

 つまり下山途中のT峰展望所(石柱有り)では「ここは南壁登攀後の立ち寄りポイントなんだぜ!」と、(こっちは全く思い出せないことを)いにしえの記憶を総動員して解説してくれたり、更に急降下のコース途中から、たまたま垣間見た、正面壁はニードルを登攀中のパーティについてコメント数多に瞳は光り輝いた。

まさに彼らの動きやルートの取り方など、講釈かまびすしく、聞こえもしないパーティに向かって注文をつける場面もあってまるで当事者の如く。しかしそれはそれで同じ目線、至近の位置から見遣るので、その解説にはリアリティがあって、傍から見てもかなりエキサイティグなひとときだったことを記しておきたい。嗚呼、我が青春は蘇えり、美しであったか。

 とそんなこんなの山歩きも快晴に恵まれ、花に恵まれ、青春をプレイバックさせたステージにも立ち、アッと言う間の、そして濃厚な二日間が過ぎ去った。持つべきものは友、或いは岳友にして、有為なひとときをヨセミテ?キャンプで人生の来し方、行き方をてらいなく語り論じた。

難しいことは問わない。酔いにまかせた主張だと軽んじるなかれ。しかしそんな中で夢は現実へと近づく。その意味でまさか(案内人役の)ご両人は聞き流してはいまいが、「忘れないよ!飯豊連峰縦走大作戦」をだ。瓢箪から駒となるか、来夏が愉しみである。

(※)‘74〜‘77年 我が青春の登攀 参照
 (参加者) 挟間、鈴木、栗秋
(コースタイム)
4/29  JR大分駅8:14 20⇒(車・三重町〜北川〜槇峰経由 2度、道に迷う)⇒宇土内谷登山口12:31 46→尾根取付12:59 13:00→稜線上13:20 22→鹿納山への分岐14:10 11→上祝子登山口分岐14:23→石塚14:27 34→大崩山14:37(昼食) 53→(往路を引き返す)→上祝子登山口分岐15:00→稜線末端15:39→林道出合15:51→登山口16:03 20⇒(車)⇒林道脇の広場(キャンプサイト)16:32

4/30  キャンプサイト8:31⇒(車)⇒比叡山登山口9:10 23→千畳敷への分岐10:02 03→比叡山(760mピーク)10:18 34→千畳敷への分岐10:43→T峰展望所10:55 58→千畳敷11:20 25→登山口11:30(昼食)12:11⇒(車・槇峰〜北川経由)⇒宇目町木浦の唄げんかの湯13:30 14:21⇒(車・三重町経由⇒大分市松ヶ丘16:00       車総走行`305`  天候:二日間とも快晴

                  
 (平成28年4月29〜30日)