反省しきりの“初冬の奥秩父 馬蹄形縦走”

期間: 2014121214
メンバー: 挾間、齊藤(通称ひげさん)

ひげさんの綿密な計画書
 東京出張予定の報を待ち構えていたかのように関東周辺の山についていくつかの素案が東京在住のひげさんから示されたので、奥秩父三山のうち甲武信ヶ岳や金峰山を希望する旨返信したところすぐさま、極めて綿密かつ斬新な計画書が提示された。

 
すなわち、
この山域の起点となる毛木場登山口までのアプローチをマイカーにして、登山形式は縦走、下山後出発点までの移動はマウンテンバイク。何が斬新かというと、この寒い時期の2000m級登山にマウンテンバイクを駆使することはちょっと思い付かなかったからである。
 
 で、具体的には、3日目金峰山を終えた後の最終下山予定金峰山荘登山口にマウンテンバイク2台をデポしたのち1日目出発地まで移動しスタートするというもの。

       
             今回の移動手段                  マウンテンバイクも2台用意した

 
ところがである。苦心してひげさんが作った計画書を、筆者はろくに目を通すこともしないで、大分を発った。何しろこの時期は仕事が結構忙しかったこともあるが、それよりも、初冬の2600m級の天幕縦走に臨むに当たっての筆者の緊迫感の欠如故にである。

 早い話が、ろくすっぽ内容を理解もせず地理概念も頭に入れず、すべてをひげさんに委ねよう、というものだ。まったくひどいもんだ。

感覚のずれ、というか想像の世界と雪山実体験との乖離
 今回のパートナーひげさんとは、昨年同期に同山域の雲取山に登った。その時があまりにも好天に恵まれ快調にことが運びすぎたため、しかも積雪は山頂付近にわずかにあった程度であったこともあり、奥秩父のこの時期の2000m級の山とは、それほどハードなものではなかろうと、少々たかをくくっていたことは間違いない。

 とはいえ、それなりの冬山の備えは当然していたため、そのことがかえって油断&楽観を増幅させる結果となってしまった。

12月12日   晴れ 強風   千曲川源流を遡る
 登山口毛木場付近は、島崎藤村で有名な千曲川(信濃川上流)の源流地帯にあたる。数日前に降り積もった雪がいったん融けかけたところに、再びの寒波で凍りつき、その上に新雪が覆い被さるかたちになり、うっかりすってんころりんすれば沢の氷水の洗礼を浴びかねないので、歩行に気を使いながらも、源流の大河のひとしずくを発する源流碑までは快調かつ風情を味わうひとときだった。

       
      ここは信濃川の上流・千曲川の源流域だ            しだいに雪が深くなる

 源流碑から稜線までの九折の急登では、格別危険要素があったわけでもないが、氷結に足をとられパワーロスが目立ってきたのでアイゼンを付ける。出発が正午すぎになったこともあり気が逸ったが、日没近くの少々焦り始めた16時20分、どうにか標高2360mの稜線に達した。

甲武信小屋
 今山行の基本は、テント食料燃料、寝具など一切を担いでの2泊3日天幕縦走である。冬山装備一式担いでとなると結構堪えるが、いつまでこだわり続けられるかわからないけど、まだまだもうしばらくはこだわりたい。
 
 で、一年で一番日が短いこの時期、甲武信ヶ岳への最後の岩稜を、薄暗い中、足下に気を使いながら登高し山頂に辿り着いたのが17時を少し回っていた。疲れた体に刺すような寒気が襲い「早くテントに潜り込みたい」とのはやる気持ちを堪えつつ、甲武信ヶ岳小屋までの下降はヘッドランプの世話になる。

      
                 暗がりの中とりあえず日本百名山登頂 甲武信ヶ岳山頂

 17時22分、雪の中の暗がりにひっそりと佇む、雪をまとった甲武信ヶ岳小屋着。様子見のひげさんが目ざとく常夜灯を見つけ、中に入れそうだと言う。疲れて冷えきった中で「これからテントを張るのもちょっと億劫だな」と思っていた矢先なので、ヤレヤレといった感じだ。天幕縦走にはこだわるが、柔軟なのだ。 テント泊を覚悟してたのに小屋に潜り込むことになってしまって、いっそう緊張感が薄れてしまった。

            

                  甲武信小屋にて 酒もすすむ

12月13日 晴れ  再びの甲武信ヶ岳から大弛峠目指して
 今日一日の行動予定からすれば、ちゃんと早朝からの行動、冬山の大原則に従わねばならないところなのに、昨晩は深酒がたたって結局、出発は9時。夏道ならば6時間ほどの行程、加えて好天、これがまたいけなかった。

 予報ではこの山域の2000mの気象は、晴れしかしながら強風15m/秒、気温マイナス10とあった。昨日に続いて再びの甲武信ヶ岳は朝から寒気が厳しかった。大したことはないと思われた積雪も国師ヶ岳が近づくにつれしだいに多くなり、30cm膝下までのラッセルに大弛峠の到着時刻は下方修正の繰り返しだ。先頭ひげさんはパワフルに雪を蹴りたてて進んで行き、わりと快調なのだが、後続が続けないのだ。何てこった、このふがいなさは。

      
        甲武信ヶ岳山頂から国師ヶ岳、大弛峠、金峰山方面、本日のハイライトコースに気が引き締まる

      
                       2300mの縦走路から甲武信ヶ岳を振り返る

 国師ヶ岳頂上直下、夏道ならば峠まで小一時間というところに来て 16時55分、日没間際、進まない足、疲労困憊、いつになく荒い息づかい
ここはしっかりした決断の時だ。標高2500m森林限界付近の雪稜にて、

「今日はここまで。ここにテントを張るぞ」
「えっ、ここは幕営禁止ですよ」
「そんなことを言ってる状況じゃあないんだよ。これは非常時、ビバークなんだよ」
「でももう少しで山頂
越えたらは近いですよ」
「ヘッドランプの電池も問題だし」

などとやり取りがあったのち、狭い尾根上の雪面を整地し、吹きさらしの中で四分の一ほど尾根からはみ出しながらも、短時間でテントの設営完了
すぐさま潜り込んで取り敢えず暖をとる私。一方の相棒ひげさんは暖よりも温かいスープよりも紫煙をくゆらすことが最優先事項らしい。

12月13日  晴れ  金峰山…次回にリベンジを誓う
 今日は大弛峠を経て金峰山に向かう予定だ。さすがにここに来てこの二日間を大いに反省し、真面目に早起きしたつもりだったが、テントを撤収して出発したのは8時近くであった。国師ヶ岳頂上へのラッセル再開だ。が、 先頭を引っ張るひげさんに相変わらずついていけない。そういえば彼はつい最近もフルマラソンを完走しているから、日々の精進にぬかりないわけだ。

        
         雪斜面にはみ出して張られたテント。外はマイナス10℃の寒風だが寝袋の中は天国

 8時35分、寒風吹きすさぶ国師ヶ岳(2591.9m)頂上だ。今回の山行の最高到達地点でもあり、ひげさんによる恒例行事が始まった。そう、同行した色んな山の頂で戸畑高校の校歌を絶唱し全国に散らばっている同窓生にフェイスブックを通じて発信するのだ。もちろん、筆者がカメラを回す役だ。

          
                       今回の最高到達点・国師ヶ岳山頂にて

 ひとしきりの儀式を終え大弛峠を目指す。この間は無雪期ならばものの30分ほどの行程なのだが、雪をかぶった急な木道階段の連続に1時間半近くを要してしまった。羽田空港大分行き最終便の時間から逆算して、この時点で金峰山までの、当初計画の完遂はなくなった。

     
   
              大弛峠へ                       長い木道階段が続く

 いやはや、周到に準備してくれたひげさんには、まっこと申し訳ない限りだ。2日目、大弛峠まで順調に到着していたとしても、目一杯のタイトな計画だっただけに、筆者のこの3日間の体たらくからすれば、当然の成り行きということだ。

長い下山とひげさんによる後始末
 エスケイプルートに採った林道の長かったこと。上部3分の1は延々と続く膝下までのラッセルで、中3分の1は氷結した路面にすってんころりんし、くたびれ果てたころ、峠から4時間かかって、ようやく人里近くの車道に出た。

                
                     長〜い林道を撤退路に

筆者の到着に先立つこと20分ほど前、先行したひげさんには金峰山の当初下山予定の金峰山荘登山口までマウンテンバイク2台を回収に向かい、その足で初日出発地まで自家用車の回収に、大忙しの大役が最後の仕事として残っていたのだ。いやまったくご苦労さんというほかはない。

しめくくり
 反省だらけの3日間だったが、次回への戒めのためにちゃんとした総括が必要だろう。まずは心構え …「らしくなかった」想像することと現実との乖離があまりにも大きすぎたということだ。これは山のパートナーに対して非礼極まりないことだ。厳につつしまねばなるまい。

 次に体力「こんなはずではなっかった」思いと実態との乖離。2000mを越えると息づかいが荒くなった、心肺機能には自信があったのだが。天気はさほど悪くな、装備も十分だったが、マイナス10の寒風が堪えた。二重三重の手袋の下はいつも痛さを通りすぎて感覚が無くなるほどだった。新陳代謝の衰えを受け入れなければならない、辛い現実だが。

 とまあ、反省しきりの“初冬の奥秩父行”だった。それでも、来年のこの時期には、瑞牆山〜金峰山〜国師ヶ岳〜甲武信ヶ岳…初冬の奥秩父縦走、リベンジの巻」構想はすでに相棒と確認済みだ。

コースタイム: 12/12    登山口(毛木場駐車場、標高1460m)12:15→千曲川源流水源地標(標高2200m)15:19→稜線分岐16:27→甲武信ヶ岳山頂17:02→甲武信小屋17:22  12/13    甲武信小屋9:11→甲武信ヶ岳山頂9:38→稜線分岐10:00→2490mビバーク地点16:58  12/14    ビバーク地点7:49→国師ヶ岳山頂8:25→大弛小屋9:50-10:30→西股沢と東股沢の出合い車道14:21