秘島の無料温泉   坂井久光
 九州本島の一等三角点(500m以上)を全部終了したので、離島の三角点〈対馬、天草は終わった)に目を向けて、孫が半月の問に二人産まれて転手児舞の家内の負担を減らす目的もあり、2月1日出発。

 最初甑島の尾の岳を目指し、大阪港からフェリーで鹿児島へ行き、湯の元温泉で一泊。最初の温泉に入った。翌日除福の伝説で有名な冠岳〈二等三角点〉へ午前中に登って串木野港へ行き、フェリーで甑島へ。

 長浜港で丁泊、翌日未明にタクシーで登山口ヘ行き懐中電灯で登頂。すぐ下山してフェリー(1日1便)で本島へ渡り鹿児島へ。

 2月4日 名山桟橋から十島村汽船の第三十島丸へ乗船して中の島の御岳〈979m)を目指した。トカラ列島は十島村に属し、口之島、臥蛇島、中の島、平島、諏訪之瀬島、悪石島、小宝島、宝島、横当島、上根島と屋久島、南西と奄美大島、間に散在している火山列島で、活火山もあり温泉も各島に所々湧出している。

 村営汽船が各離島の足となっており、同船にNHKの取材班がおり、口の島ヘロケに行くとのことで、一行中のディレクターの一員と知り合い口の島の一等へも出来たら登りに来いと言われたが、便が悪く今度の機会を待つしか無かった〈5日に1便〉。

 中の島は列島中最大で最高峰の御岳も列島の最高峰であろう。噴煙を上げており、山麓に無名ながら温泉が3ケ所湧出しており村人の想いの場所となっている。
 中の島へ上陸して御岳へ林道をたどって終点から薮中の踏み跡程度の道をたどって登頂。下山は無線塔の方から正規の登山道を見付けて女竹の茂る急坂を下って林道終点の300m程手前へ出て下山した。下山後民宿を尋ねて族装をとき、宿主(97)から出で湯を教わり早速入湯のためタオルと浴用具を持って出掛けた。

 島は火山島ながら、南に位置しており雪は降らず、常春の郷でヤシやバナナが実りブーゲンビリアやハイビスカスが咲き、野菊やカンナも道端に咲き、ガジュマルやスダジイ、ロウソクノキや楠科の常緑樹が生えており、禾本科の菅や蒲等の枯れ葉を見ないと冬と思えぬ景観が見られ、何処からか腰蓑をまとった土人が出てきたり、川辺に鰐でも居そうな気がした。

 温泉は海岸通りに面してあり、1ケ所は土建会社の殆ど専用であり、他の2ケ所が村人や我々渡来者が自由に入湯ができる。質素な建物で湯の香がしており男女別の囲いや脱衣所があり、朝から誰も入っていないと上面が熱して入れないほどである。脱衣して手を入れて見るとかなり熱くて水を入れ掻き回してやっと入れたが、底は割合ぬるく丁度良い加減の泉温であり、浴槽へ乳白色の薄い湯が注がれている。余り大きくないが4。5人は入れる程の湯槽で、ゆっくり登山の汗を流していたが、足の不自由な老人が入ってきて一緒に入湯して話をしたりして、湯上がりして海岸を散歩して浜風に涼を求めた。

 泉屋は寄付金で賄っており千円単位の寄付者や金額が張り付けてあった。それを見ると京都府大ワンゲルとかの名があり懐かしく思った。島には飲食店や喫茶店は一軒も無く湯上がりの渇きは売店で缶コーヒーかジュース、ビール等を買い求める他はない。次いで先の方の第二の温泉へ向かったがここも同様で塩類泉で、硫黄分も含んでいるのかほのかに湯の香が漂っていた。

 翌日も船便が無く民宿の主人の弟が村の事務所長で、車で巡回の際同乗してトカラ馬牧場や底無し池〈旧噴火口)を見回って、また温泉に入り御岳の噴煙を眺めて海岸を散歩していると浮世離れの気がして、何で人はあくせく働かねばならぬのか不思議に感じたりした。山が飽いたらこんな所で愚妻と暮らすのも悪くないと思ったりして歩いていると山羊が人懐っこくメエーと近付いて来たりした。この島にも野生の山羊がいるそうだ。翌日汽船で鹿児島へ戻り一泊して船で徳の島へ渡り井ノ川岳を登り、船で奄美大島へ渡って一泊、翌日湯湾岳を登り船で鹿児島経由帰京した。

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