雨の貫山彷徨の記             栗秋和彦 
 先月、皿倉〜福智山縦走に味をしめた(?)会社の同僚・K氏は次の山行をおねだりして小うるさい。が北九州での貴重なパートナーを放っておく訳にもいかず、平尾台の北外れにどっしりと聳える貫(ぬき)山をやることにした。北九州のめぼしい山々で唯一未踏の山でもあり、いずれ登らなければと思っていたからである。そして1/25000の地図を見入ると、貫山々麓には林道が幾重にも張りめぐらされているではないか。K氏は自転車も好きな性なのでアプローチはMTBで攻め、峠(かどうかは分からないが...)から登山スタイルでやろうというエキサイティングなプランで話はまとまり、Xデーを『みどりの日』とした。

 がしかし、楽しみは無情の雨に流されてしまう。(個人的には、よんどころない飲み事にはまり込み未明までの深酒におかされてしまい、とてもMTB+登山の肉体労働はもたないので、恵みの雨とも思えたのだが.....) どうしたものか、と思案の間もなく約束の時刻9時キッカリにK氏は几帳面に現れる。我が社の列車ダイヤよりも正確無比なところが、いかにも彼らしい。とりあえず車で林道をつめて貫山の麓で雨に打たれるのも一興であろうぞ、との彼の主張に従い体調は最悪なれど、とにかく門司を後にする。目指すはJR志井駅から県道沿いに少し南下した母原(もはら)集落。ここはうねうねと高度を稼ぎながら、貫山の北麓をかすめ、水晶山のへりを朽網へと下るMTBにとっては第一級の母原林道の起点なのだ。(但し、天気が良くて体調万全ならばとの注釈がつく)

              

 一段と雨脚が強くなる中、母原集落の家並みが途切れたところから、意外にも舗装された立派な林道に分け入った。しかし高度は稼ぎつつも、2〜3k行ったところで頼みの舗装も切れ、迷わずここに車を置き支度を整える。とは言っても、自分自身はここらあたりを少し歩き、お茶を濁そうとの目論みであったが、K氏はと言えばしっとりと濡れた山の緑もいいものだと、この空を見てノーテンキにはしゃぎまわる様には何を言えようぞ。半ば諦めつつ、気持ちを切り替え歩き始めたが、だんだんまつわりつく執拗な雨はやっぱり風情どころではない。そして未だに胸ムカムカ、頭ユーウツの状態では貫山の頂を踏もうなんぞは、考えもしていなかったが、K氏の足取りはズンズンと着実に貫山を目指しているのだ。もちろんこの雨では登山者や山菜取りのハイカーすら人っ子ひとり会わずじまい。

 これは言わずもがな。更にズンズン林道を突き進む。くねくねと曲がり曲がって峠を越え、下りになってもズンズン進む。そしてようやくの登山口からは、しばらく鬱蒼とした杉の植林帯を進み、やがて地図どおりの急傾斜に差し掛かったが、ズルズルと滑り四つん這いの両手ドロンコ。傘がわずらわしいのだ。ほどなく、不規則な石段が現れ、こじんまりとした貫権現上宮に辿つく。ここから山頂まではわずかだが、茶褐色の滑りやすい土道には往生したねぇ。ほうほうの体で極めた山頂は、ガスと雨で眺望は全くきかず、ただ頂を踏んだだけという事実が残った。下りは平尾台方面(南面)へ取ったが、こちらは傾斜も緩やか。15分ほどで立派に舗装された井手浦林道の支線に出て、びっくり。MTBで山頂を攻めるには、この井手浦林道からのアプローチがいいに決まっているぞ。お互いにうなづきながら、ザァザァ降りの林道を黙々と歩いた。みどりの日、緑々の青葉が目にしみた一日であったが、雨粒が目にしみたことも付け加えなければなるまい。

(コースタイム)
門司(自宅)9:40・・・母原林道中段(舗装切れ地点)10:30 35・貫山登山口11:21・貫山12:05 15・井手浦林道出合い12:30・(井手浦林道〜母原林道経由)・母原林道中段(舗装切れ地点)13:25 35・・(小倉南区北方の『福来の湯』経由)・門司15:10
                            (平成7年4月29日)

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