皇居周回ランニングコース見聞記
栗秋和彦
水無月最初の週に東京へ旅した。宿が西銀座(JR線を挟んで日比谷公園近く)だったので夕刻、初見参の皇居周回のランコースへ繰り出したが、市民ランナー対象のランコースとしてはとびっきりメジャーなので、その臨場感に触れてみたかったのだ。つまりは走り心地やたくさんのランナー、ジョガーの年齢層や風采、それにファッションなどを点検せんがためだが、加えて大東京のど真ん中、広大な皇居の森やお濠の水辺空間などの眺めも見逃せないし、丸の内の大規模再開発ビル群や官僚王国霞ヶ関、政争真っ只中の国会議事堂など政治経済の中枢建物群も視野に入れて、旺盛なミーハー根性を満たすことも要諦である。
で金曜日の夕刻だったので、さぞや大勢のランナーでごったがえしているのかな、と見構えたが、思ったほどではなかった。むしろ二重橋や和田倉門界隈の観光客や自転車乗りの多さが目に付いた。もっとも観光客のたむろする皇居外苑付近は広いので、走りに支障することはないが、自転車の方は周回コース全域をテリトリーとしているので、歩道の狭い箇所がけっこうあって、お互いに譲り合いの精神を発露しなければ競合は避けられない。もう少し時刻が下がって仕事帰りのジョガー、ランナーが多くなれば確実に支障するに違いなかろう。

皇居周回ランコースMAP 桜田門前広場で丸の内大規模再開発ビル群をバックにウォームアップの図と外苑通り
先ずは皇居桜田門前広場を反時計回りにゆるゆるとスタートした。和田倉門までは歩道も広く、ウォームアップランでも気兼ねなく走れたが(どうぞどんどん追い越して行ってね)、大手門付近から急に狭くなり、右手に東京消防庁とその先の気象庁を見て左折するまではせいぜい二列併走がやっと。もちろん時計回りの走者もいるし、自転車も頻繁に通るので現実場面で併走はマナー違反とまでは言わないにしても人間性を疑うなぁ(と思った輩もいたよ)。
そして竹橋からは緩い上りが千鳥ケ淵交差点直前まで続いて、このコース最大の難所だが、ここは腹をくくってしっかりと上りたいところ。右手の道路を挟んで重厚な東京国立近代美術館はすぐ分かったが、そのちょっと先、緑陰のカーブの皇居側は乾門で鬱蒼とした森が広がる。一方、道路を挟んで反対側は北の丸公園の森に連なり、科学技術館や日本武道館が佇んでいる筈だ。しかしランコース(歩道)から見える位置ではなく、上り坂に精一杯で風景を愛でる余裕もなしといったところか。
さて緑陰の狭い歩道を無心で上り、ようやくの峠を越すとほどなく千鳥ケ淵交差点。ここを左折し再び緩い上りとなるが、コース上最高点の半蔵門までは一直線。皇居側(千鳥ケ淵公園側)は木立で視界が利かないが、右手は道路を挟んで白壁と緑の屋根の英国大使館が威風堂々と迎えてくれるし、ちょっとの辛抱で半蔵門に達する。とここからがこの周回コースのハイライトである。急に視界が開け、お濠から霞ヶ関の官公庁街を見下ろす絶景ポイントが広がっており、今までの上りの辛さを吹き飛ばしてくれるのだ。もちろんお濠ばかりに目を取られずに、しっかりと右手を見遣ると国立劇場、最高裁判所とつづき、ビルの合間から瞬間的に国会議事堂のトンガリ屋根も望見されるので、タイミングを外さないようキョロキョロ走は必須。お上りさんは(下りとあっても)スピードオーバーに注意をしたい。
で後はお濠に沿って桜田門を目指すが、まさに政治経済の中枢地帯を右手に睨みながらの走りとあって、日常的に警察官は道々に立っているし、白バイは辺りをウーウーとかまびすしい。更には大型の黒塗りハイヤーがやたらと目に付き、のんびり走っている場合じゃないぞと思えるほどなのだ。
それでも半蔵門から桜田門までは視界が開けて緩い下りの快適ランが楽しめるので、その勢いで二周目に入りやすく、桜田門前広場をスタート&ゴールとするメリットはこんなところに有ったのだ。とまれかように皇居周回ランコースは、千代田区の主な観光スポットを網羅しているが、もちろん走りに余裕があって、事前学習を済ませていないとこの恩恵には預かれないことは自明なんですね。

霞ヶ関ビル群を視野に半蔵門からの下り 桜田門前広場がゴール(2周目)
一方で肝心のコース自体の印象はとなると、評価は厳しいと言わざるを得まい。何故なら常に(反時計回りなら)左側の車道を切れ目なく走る車からの排気ガス攻勢に耐えなければならないし、皇居外苑周辺を除き、コースの殆どは狭く段差もけっこうあって、シリアスランナーにはけっこうストレスが溜まるに違いない。もちろん筆者を含めたファンラン志向者でも、常に順方向や逆廻りのジョガー、ランナーに加えやっかいな自転車乗りにまで気を遣わなければならず、快適とはとても言い難い。その意味で九州のセントラルパークたる大濠公園のコースを思い浮かべると足元にも及ばず、東京の趣味人は気の毒だなぁ、とおもんばかってしまうのだ。もっとも人間ウォッチングの観点で申せば、数多の老若男女がいろんな表情や、多種多様なファッションで装い走る姿は大東京ならではの風景であって、エキサイティングである。殆ど巡り会わない我がホームコースの門司駅北口周回コースにも、少しはこんな華があればなぁと思い起こさせたことを吐露して皇居ランコース見聞記はおしまいとしたい。
(平成23年6月3日)
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