北アルプス早駆け登山の試みについて  吉野真治
 また、最後の目的地まで辿りつけなかった。数年前、剣岳から西穂高岳までワンビバークでめざしたが、北穂キレット手前の南岳から下った敗退の記がある。今回は、白馬岳から前穂高岳をめざした早駆けの山行であっが、実行勤1日半で、わずか半分の船窪岳までしか行き着けなかった。
 ・・・結婚し、家庭を持ち、子守に追われ、30歳を過ぎると、独り身のように自由にいかず、ときたまイライラがつもってしまう。

 そんな時には、山に逃げ込んで動物に帰りワオーっと身体で叫ぶのがよい。数年に一度、北アルプスの3,000mの山に出かけ、駆けずり回るだけで随分と精神によい。

 さて、今回の試みだが、計画は次の通り。
8月10日:大分別府(フェリー)神戸(船中泊)
8月11日:神戸(新幹線)名古屋(中央本線、大糸線)白馬駅(バス)猿倉1250m→白馬尻1,600m→白馬岳2,933m(村営宿舎泊)白馬大池往復
8月12日:白馬岳→鎧岳2,903m→天狗の頭2,812m→唐松岳2,696m→五龍岳2,814m→鹿島槍ケ岳2,890m一爺ケ岳2,670m→岩小屋沢岳2,630m→鳴沢岳2,641m→赤沢岳2,677m→針ノ木岳22,820m→蓮華岳2,799m→北葛岳2,551m→船窪小屋2,509m(泊)
8月13日:船窪小屋→不動岳2,595m→烏帽子岳2,676m→三ツ岳2,845m→野口五郎 岳2,924m→真砂岳2,862m→鷲羽岳2,924m→三俣蓮華岳2,841m→双六岳2,860m→槍ヶ岳3,179m→中岳3,087m→南岳3,032m→北穂高岳3,100m→奥穂高岳3,190m→前穂高岳3,090m→岳沢2,200m→上高地1,500m

 水平距離、約100kmを2日で目指し、1日日は不動の間が、ザレと崩壊が進み、この山行中一番の危険箇所で、そこを夕方疲れた体で通過するのはヤパイと考えたからである。そして、北アルプスの中で最も静かで落ち着いた小屋というのもその理由の一つに加えてよい。

 さて、実行動だが次の通り。
 8月11日:猿倉のパス終点より、デイパックを肩に走り始める。午後1時過ぎ、大雪渓末端の白馬尻には10数分で到着。そのまま大雪渓に向かう。下から見上げると、延々と長く白い急坂が続いているようにみえる。雪渓を吹き下ろしてくる風は冷たい。急歩で登って行く。下から見上げたよりもグングンと葱平が近付き、村営の白馬岳頂上宿舎には猿倉より90分で着く。泊の手続きと一杯の熱い紅茶を沸かして飲み、白馬大池までピストンをすることにする。ガスが出てきた。大池まで行きは下りが多いが、帰路は少しバテ気味。120分で往復。今日はまあまあのピッチと自己満足して早々に寝る。

 8月12日:4時起床、4時半に小屋を後にする。星が輝き、今日も上天気のようだ。1ピッチ目はヘッドランプを点け、ジョッグで花崗岩のザレた登山道を南へと向かう。この辺りは走りよい。天狗山荘で朝食、カロリーメイトをかじる。休むと寒い。ヒンヤリとした空気を震わせて夏の太陽がのぼっていく。

 天狗から大下りを一気に駆け下り不帰の険はすぐに通過し、唐松岳をすぎ、五龍岳へと休まずに行く。五龍岳を望むコルの五龍山荘で大好物のモモの缶詰を買い小休止。缶詰はジュースとほぼ同じ値投で買えるので山ではお買得といえる。ここまで白馬岳より240分。問題はこれから先に生じた。疲れてきてピッチが落ちてきたのである。八峰キレットのアップダウンの激しい岩峰をあえぎながら、登り下りしていく。バテ気味なので水をよけいにほしがる。これが疲れに拍車をかけていく。

 鹿島槍ヶ岳には、それでも昼につくが、爺ヶ岳、岩小屋沢岳と速度が落ちて行く。この付近は、普通の登山者よりやや早い程度のピッチ。黒部の湖と五色ケ原へと続く景色が美しい途中の新越山荘でキャンプの人からメロンをいただく。午後よりガスが湧き上がってくる。ガスに見えかくれするピークを、今度は針の木岳だろうと願いながら、いくつも小ピークを越えては行く。全くバテてしまった。針の木小屋には18:00に着く。ここで缶ビールを2本手にいれ、蓮華の途中の這い松の中でビバークすることにする。

 太陽が落ち、風が吹き出すと疲れた身体ま急速に冷えていく。「太平洋ひとりぼっち」の堀江氏の気分で水を惜しみビールでジフイーズを炊くが食えたものではない。星を眺めて横になるが、寒いのと斜面でズリ落ちていくのとでうまく眠れない。ヤワな身体になったことだ。月は三日月。明け方1時間毎に5分くらい、ガスに火をつけ暖をとり曙を待つ。「おゆぴにすと」の諸兄よりも温泉が恋しい。体感。

 夜明けと同時に行動に移る。足腰がいたい。これでは今日一日ネバッても三俣か双六岳くらいまでしかつけそうもないので迷わず下山を決める。船窪小屋で熱いラーメンを喰い、越えてきた山々と目指した山々とを遠望する。白馬岳が北に小さくうかび、南に目をやれば、行き着けなかった槍ヶ岳がこれまた小さく見える。まあいいさ、またくるさと、ギクンャクした足で七倉へと下っていった。七倉に温泉あり。湯舟にゆっくりとつかりて後、バスに乗る。こんな風に敗退したわけであるが、いくつかの早駆けでのテクニックを得たので記す。

 当り前だが荷物は出来うる限り軽くする。
(今回もデイパック満杯となり重すぎた)
 今回の携行品リスト
デイパック(ウオークアバウト).ヘッドランプ(ナショナル).コッヘル(エバニュー).水筒(シグ600cc).ナイフ(スイスアイシー).コンパス(オリエンテーリング用).筆記具、マッチ、コアテックス雨具(ハシングバード)上下.オーロンTシャツ2枚.モンベルジョギングパンツ2枚(フランクショーター).トレーニングパンツ(アシックス).毛混タイツ(不明).オーロン長袖肌着、オーロン靴下2足(モンベル).ビニール大2枚.カロリーメイト4箱.ジフィーズ2袋(日本ジフィーズ).キャンデー1袋.現金.シューズ(アシックス).

 今後軽量化を図るために次のリストで十分足りると考える。
デイパック.水筒(500cc).筆記具.雨具(ランニング用).ジョギングパンツ.Tシャツ.長袖肌着.毛混タイツ.靴下.食料品少々.現金.シューズ


そして必ず小屋泊まりすることである。ビバークだと疲れが取れず、翌日の行動に大きな支障をきたしてしまうし、荷物の軽量化もできる。装備が少ないと天気の悪化が心配であるがこれは行動の速さでカバーしてしまえば良い。いずれにしても水平距離100km余りを2日で早駆けするのだから、日々のトレーニニグが大切で、長い距離を走って練習するのが一番よいし、トライアスロンなども格好の練習となろう。                
 北アルプス全山の2日間縦走は僕の数年来の目標であるので、再度トライし、なんとか夢をかなえたいものである。そうすれは、10代後半から始めた登山と20代半ばで始めた陸上競技とが有機的にうまくつながるような気がする。

 3,000mの、地上と空とのスカイラインを駆けていくなんていうのは、実に爽快である。(筆者:山のいで湯愛好会会友、竹田山岳会・大分マラソンクラブ・大分CTC所属)

                        back