連休の山といで湯あんぎゃ
        ―― 1984.5.5〜6 ――
  加藤英彦

○5月5日(土)
 昨夜からの小雨がまだ残っている中、8時ちょうど、高瀬の車で出発。一路10号線を北上して宇佐へ。別府を過ぎるころより天気は回復して雨も止んでいる。宇佐着9時30分。ここで同行の挾間を拾う。3人揃ったところで計画書を検討し、明日の天気の具合まで判断して今日中に第一の目的であるシャクナゲの鹿嵐(かならせ)山を片付けようということになる。

 車は10号線を北上し、法鏡寺の交差点より分かれて、院内〜玖珠線(国道387号線)へ入る。この付近は宇佐の挾間の領域だ。道路事情も偵察済みですぐに分かる。しばらく行って安心院へと入る分かれ道の手前、櫛野集落より右折する。そこより車で約10分で道は谷沿いの風景の中、小野川集落の最後の一軒家の前で車を留める。何ひとつ案内板もないがさすが挾間のおかげである。山への準備をして登りにかかる。

 道路を下り小川を渡ってすぐに急登の登りにかかる。暗い杉林を過ぎ、小さな炭焼きの釜のあるところで道を右手へとる。すると今度はまだ植林したばかりの樹林地帯へと入る。このあたりはぐんぐん高度を稼ぐところでもある。見下ろせば出発した道路と車が真下に見える。そしてツバキの花がやたらと目につきはじめる。天気もすっかり快方へ向かい、対岸の山(仏岩山)がすぐ近くに見える。期待したシャクナゲがなかなか顔を出さない。しかし登り始めて30分、やっと登路の真っ正面に初めて見つける。

 それは急な登りの連続で下を見て黙々と登っている我々の目の前に突然に姿を見せたのである。最初のものはやや開いた状態の花が4〜5個あったが、あとはまだみんなつぼみの状態だ。今年の異常気象のせいだろう。花の開花が全体的に遅れているのだ。登るにつれ(シャクナゲの)木の数も増えてくる。さすがに自然の状態であるだけに木自体が高くなっており、登路は木の真下を通っている。登って振り返って初めてシャクナゲの下を通ったのだと気づく。つぼみはまだ固く花びらは真っ赤な色をして鮮やかである。しばし登りの汗をふき眺めるシャクナゲも見事である。登山路はやがて最後への登りへとかかり、雌岳の頂上のやや東側の稜線へと出る。雌岳頂上(740m)着11時15分。石の祠があるだけで他にはなにもない。とにかく登る人が少ないせいだろう。この山には何の指導標もない。雌岳を下りついたコルにやっと一つ道標がある。そこから雄岳山頂(758m)へは10分で、頂上からの眺めは今ひとつ期待したほどでもない。

 下山路はコルより真っすぐに車道へとる。途中、鎖場が一カ所、その鎖も持つ人が少ないせいだろう。錆びてしまっている。中腹より踏跡がやや明確でなくなり、かなり適当に下へ向いて降りているといった塩梅。それでも最後の竹やぶを過ぎ小さな田圃に出て小川を渡り、道へ出る。ここから数分で出発点へ戻る。

 さて一つの目的は達したので次はいで湯だ。早速、車を院内へ戻し役場を過ぎてすぐ右へ、耶馬渓線へと入る。途中、今登ったばかりの鹿嵐山のよく見える所で山の概要をつかむ。さて、目指すは本耶馬渓町の西谷温泉。町がボーリングをして10年前ぐらいにオープンした温泉。道端に小さな建物があり、これが湯小屋。入浴料200円(町民は100円なり)階段を下りたところに3〜4人は入れるだけの浴槽あり。管理人の応対に多少の不満があったので好印象ではなかったが、鹿嵐山に登った汗を洗い流しさっぱりとする。ここより車は一旦、青の洞門へ出て耶馬渓より日田へ向かう。途中、守実温泉がある。入浴料200円、浴槽はかなり広くとっているが、町の銭湯といった感じ。ここも先程の西谷温泉と同様、泉温が低いので沸かし湯である。

 さて日田に着いて会員の栗秋家へ。彼は長男の初節句のため日田の実家へ家族で里帰りしているところを強引に押しかけて次なる温泉へと誘う。事前に連絡済みとはいえ、すぐに乗ってくる。福岡県の宝珠村にある千代丸温泉へ向かう。途中、国道211号線より右折するが一つ早く曲がりすぎたために大行司の駅の前に入ってしまう。見ると駅前に天然温泉「釈迦岳」と看板のかかった旅館の前だ。早速、聞いて見ると天然温泉に間違いなしとのことで飛び込む。入浴料は50円也。九大の温泉分析表を額にいれて掲示していたので間違いあるまい。次は目指す千代丸温泉へ。旅館伊東屋がそれ。入浴料200円也。旅館の案内パンフレットを貰ってみたが、泉質その他は書いていなかったが、偽りではなかろう。さて今宵のねぐらを見つけるべく小石原方面にキャンプ場があったという高瀬の記憶を頼りに分け入るも、小石原は丁度民陶祭の真っ只中で渋滞しきり。やっと訪ねたキャンプ場はまったくの期待外れ。今はやっていないとのことで、今夜は日田へ戻って栗秋家の軒を借りて一泊することにする。

 途中、夜明温泉(入浴料300円)に入ったが、まったくのドライブインの風呂で、ただ浸ったというだけでやや不満足であった。夜は栗秋家にてビールと焼肉で、初対面の親父さんを囲んでカンパイ。話がはずむうちに栗秋家とっておきのオールドパーを空にしてしまった。まったく遠慮抜きに厚かましくも上がりこんだものだ。

○5月6日(日)
 栗秋家の節句の祝の赤飯をの朝食をごちそうになり、すぐに出発。目指すは上津江の酒呑童子山だ。鯛生集落の手前より左山手へ車を走らせキャンプ場入口にて駐車。ここから登りにかかる。キャンプ場は夏場だけ開いているとのことで今は誰もいない。植樹したのであろう、シャクナゲがバンガローのまわりにピンクの花をつけている。しかし昨日見た鹿嵐山の方が自然でいい。

 酒呑童子山への登りはキャンプ場より50分。稜線のコルに出るまでは緩やかな上りが続き、最後にはクマザサが現れるとほどなくコルへ出る。ここより左へ一つのピークを越えて本峰へはちようど祖母・傾の稜線を思わせるスズタケのはっきりした道が続いている。最後のやや急な登りを終えるといきなり山頂へ出る。眺望は北西の釈迦岳、渡神岳、西面は八方ケ岳を経て左手はるかに雲仙が見える。そして東側くじゅう方面は曇っていて前衛の万年山も視界に入らない。下りは往路を走るようにして30分でキャンプ場へ。

 さあ山の目的は達したので今度は山菜狩りだ。早速、キャンプ場のまわりでウドを見つける。ウドは何といっても春の山菜の王様だろう。家への土産にも最適だ。車の駐車地点までルート沿いにウドを探しながらの下山でそれなりの収穫物にありつけた。次は挾間が数年前に大量のウドに出くわしたという話を頼りに万年山へ向かう。小国経由で途中、奴留湯(ぬるゆ)に入る。いつ入ってもヌルイが面白い温泉である。宝泉寺を過ぎたところで左折。黒猪鹿集落を過ぎ、目指す谷へウドを求めて入る。案内した挾間ははじめウドがないので必死で探す。今年は寒さのせいでまだ芽が出ているのが少ないのだ。去年の大木が朽ちて倒れたその根元を探すと、今年の新芽が数センチ程度出ているのにいきあたる。それを手分けして探すのだ。やっと探り当てて匂いを嗅げば何ともいえぬいい薫りが鼻にプンとくる。やはり春の山菜の王様に偽りなしだ。夢中で採りまくって下山。最後は由布院の亀の井別荘の風呂にで連休中の疲れを癒して、大量のウドを土産に帰宅。(おわり)

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