安楽死

医師が安楽死で殺人罪に問われる事がある。終末期の患者さんに注射をして、あるいは人工呼吸器を外して積極的に死の時間を早くする事が安楽死と思われている。

 命のあるものは必ず来る死を前提として生きている。若い頃にこんな話をいただいた。人の命は風の吹く中でろうそくが燃えるようなものだ。わずかな風で命の炎は消えることもあり、風に耐えて灯し続ける事もある。医者の仕事はろうそくの周りに手をかざして風から炎を守る事であり、炎の勢いを強くしようとしたり、火を吹き消すような事をしてはならない。

 痛みを止め、その時が来るまで安らかな眠りを与えるのは医師の仕事である。死を迎えようとする人に人工呼吸器をつける事や、注射で息を止める事では無い。安らかな眠りの中で、風に耐えた美しい炎が尽きるのを見守られながら最後を迎えるものではなかろうか。死を早める事が安楽死では無い。