聖なる夜のベルが鳴る



 チリリンとサテラの店ではなく、家用のベルが鳴る。はその音にパソコンから顔を上げ、もう一度鳴ったベルの音に部屋から居間へと移動した。
「さてら?」
 声を上げても返事はなく、ベルの音はうるさくも煩わしくもない感覚で、静かにまた同じ音を奏でる。
「いない?」
 辺りを見回すと、テーブルの上に一枚の紙。ああ、そう言えばとは思い出した。雪の降るホワイトクリスマス、そのイヴの日にサテラがいるはずがないのだ。
 チリリンと、またベルが鳴った。
 は窓から降り続く雪を眺め、そして玄関へと視線を向ける。街の喧騒は良く聞こえ、恋人達の語らいの断片すら今日は多く飛び込んでくる。イルミネーションは七色に瞬き、雪を街をクリスマスの高揚感を彩り、暖かい室内にいるの一人きりでいるという感覚を、より一層鋭敏にさせた。
 チリリン。チリリン。
 玄関へと視線を向けたまま、は音を立てないように注意しながら、そっとインターホンのボタンを押す。玄関先に立っている人物に気づかれずに、その顔を確認するためだ。
 インターホンのカメラに顔が映し出されると同時、声がマイクから響いてきた。
【もしもーし、あれ、いないの?】
 シャルナークの声だ、顔だとが認識して目を丸くした瞬間、カメラからシャルナークの姿が消え、代わりにウボォーギンのドアップが映し出され、の度肝を抜いた。
ー! いないのかー!】
 ウボォーにとっては押さえているだろう音量だと思うが、身構えていなかったにとっては鼓膜が痺れる大音量。反射的にマイクの音声を切ってしまったのだが、カメラの映像を見る限り、未だに叫んでいるようだ。
ー! いるかー!」
『……直接聞こえるし』
 思わずはぼやいてしまい、玄関へと視線を向けなおした。マイクを通さなければ聞こえないはずの音声は、あまりの大きさに直接の鼓膜を震わした。続いて、かすかだがシャルナークらしき人の苛立つ叫び声も聞こえた気がした。玄関から剣呑な雰囲気が流れ込んできて、はため息をつくと同時に苦笑する。困った友人を出迎えるような、思わぬサンタクロースが来てしまったような、嬉しくも複雑な表情だった。
 気を取り直してインターホンの音声ボタンを押すと、やはり言い合う二人の会話。は自分の声が聞こえるように、もう一つのボタンも押した。
「……しゃる、うぼー?」
【ほらいるじゃねぇか!】
【ウボォーが叫んでたから聞こえなかったんだよ!】
 シャルナークがその拳をウボォーに向かって振り下ろすが、鋼鉄の肉体を持つウボォーにとっては撫でられたようなものらしく、豪快にがははと笑うだけ。カメラに向かって笑うに、ウボォーもその笑顔を見て優しい顔になった。
【よう、メリークリスマス! 入れてくれ】
「めりーくりすます、うぼー。ふたり、なに? わたし、ようじ?」
 受話器を肩に挟みながら、は自分の手帳を手に取りめくりだす。今日の日付には特に予定は書き込まれておらず、欄外に同居人であるサテラの外出予定が書き込まれているだけだ。
 そんなに、ウボォーに向かって文句を言っていたシャルナークも笑い出す。マフラーの端をかき集め、コートの襟を正しながら持っていた可愛らしいラッピング袋をカメラに向ける。緑と赤のシンプルな色合いは、まさしくクリスマスを象徴するものだった。
【正確にはメリークリスマスのイヴだけど、ハッピーホリデイ、。とりあえず、中に入れてくれない? 結構寒いんだ】
 言われたは手帳をテーブルに放り出すと、返事もそこそこに慌てて玄関へと駆け出した。雪も降っているのだ、気温も低いのだ。
『いくら鍛えた人たちでも、この寒さには堪えるよね! 盲点だった!』
 超人だと思っていたのに、意外に普通だよ二人とも。
 思わぬ発見にぶつぶつと呟きながら、それでも足は二人が尋ねてきてくれた喜びにスキップを刻む。元々いた世界ではクリスマスなど恋人たちの行事だし、こうして訊ねてきてくれる男友達の当てもなかった。特に必要としていたわけでもないけれど、知り合いが皆無といっていい状況のこの世界で、こうやって以前よりも恵まれた交友関係などが存在していると、嬉しくてたまらなくなる。
 ひとえに、シャルナークやウボォーが優しい性格をしているというのもあるのだろう。
 は二人の性格を思い起こしながら、一人小さく何度も頷く。
 恋人もいるだろうに、こんな浮かれた日には盗みに行けばがっぽりと手に入るだろうに、二人はそれよりもなにやら宛てかもしれないラッピング物を持って、わざわざ訊ねてきてくれたのだ。
「いま、あける!」
「お、きたな」
「うん、まってるよ」
 サンタクロースを家に招くような、そんなわくわくとした心境では家の鍵を外した。
 サテラが出かけ、知らない人間は家に入れるなと幼子のような注意をされていたにもかかわらず、はあっさりとその扉を開く。
「しゃる! うぼー!」
 二人とも正装とまでは言わないが、どこにでも行けそうな一般人のような年相応の服を着ていて、はカメラで見ていたにもかかわらずに口を開けて見つめてしまう。背景は輝く街のイルミネーションと降り続く雪、しんしんと冷えていく空気が二人の吐く息を白くして、ほんの少し鼻の頭を赤く染めていた。
「よう、やっと顔出したな」
 ウボォーの大きな手がの頭を撫でる。撫でられるままに任せているは、ウボォーのほっとしたような目尻の垂れた表情に、同じような顔をしてウボォーの肩に手を伸ばした。頭の代わりに、親密な友人にするようにその肩を軽く叩いた。
「うぼー、かこいい! おとこまえ、きょう、とくべつ!」
 いつもの野性味溢れる野獣のような男性はそこにはおらず、の目の前に今いるのはただ体格の素晴らしくよろしい、センス溢れる紳士的な友人に他ならない。の言葉に体格にあったコートのポケットに片手を突っ込み、ウボォー「そうか?」と嬉しそうに自分の顎を撫でて満足げな笑みを浮かべた。
 それを少々睨みつけるような苛立つような視線で見ていたシャルナークは、の視線が自分に向いたのに気づくと、笑顔を浮かべなおしてなんでもない振りをする。
?」
「しゃる、あなた、おなじ、おとこまえ! とくべつ、ひ、とくべつ、ようふく、すてき!」
 シャルナークの開いている片手を掴み、は上機嫌で満面の笑みを浮かべる。冷たかったシャルナークの手を、部屋にいてあたたかくなっていたの熱が即座に温め始めた。
 ほんの少し目を見開き、動揺を悟られぬように動きを止めたシャルナークへ、ウボォーが堪えきれない笑い声を漏らす。くくくと喉奥で噛み潰そうとしていたが、シャルナークには聞こえてしまう。再びウボォーはにらまれるがどこ吹く風で、笑った本人はへと視線を向けていた。
「ふたり、わたし、とてもいいひ!」
 で、いい男二人に囲まれてご満悦。
 ウボォーもシャルナークもスキンシップには肝要なほうだと分かっていたので、自分から触れることに躊躇はなかった。言葉が上手くない分、こうやって体全体で感情や思いを表現する術を、相手が許可する場合のみは多用することにしていた。
 今にも飛び跳ねそうにあちらこちらに視線を向け、頬を高潮させていくにシャルナークの表情も和らぐ。
「はいる、して! して! いらしゃいませ!」
 小さな子供の様にシャルナークの手を引っ張り、ウボォーのコートの端を引く。はいはいと、二人とも困ったようなまんざらでもないような返事をしながら、急かされるままに家へと入っていった。

「きょう、さてら、がいしゅつ。ちょとしずか、しー」
 は口元に指を当てて二人を今のソファーへと案内する。どうぞ、とコートを受け取りながら二人を促し、受け取った巨大なのコートと標準サイズのコートを、どうにか雪をふき取りながらハンガーに引っ掛けた。
「そうなんだ、じゃあ勝手に入って悪かったかな?」
「何言ってんだよ。だからおれ達が来たって……ッ!」
「……うぼー?」
 シャルナークの肘鉄が横に座るウボォーの腹部に決まり、一瞬だけウボォーの動きが鈍くなる。その硬い腹筋に動きの見えない肘がぶつかった衝撃音で、ウボォーのコートと格闘していたは、怪訝な表情で振り返った。
「あ、なんでもないよ。それよりもほら、コートはいいからこっちに来てよ!」
 シャルナークが笑顔で促してくるが、は静かに微笑んでいるウボォーを見て、どこか核心めいたひらめきを覚えた。
 ああ、シャルナークさんが何かをやったなと内心で呟き、どこであんなフライパンで除夜の鐘を砕くような音を響かせたのかと、部屋の調度品やウボォーとシャルナークの身体を流し見た。二人はもちろんの視線に気づいていたが、何食わぬ顔で流していった。
 ようやくコートとの戦いが終わり、部屋の奥にあったマネキン数体に被せるという荒業を終えると、は慌てて温かい飲み物を取りに台所へと駆けていく。気にしなくていいよと言うシャルナークに、熱燗を所望したウボォーは睨まれ、ほんの少しだけその肩をすくめた。
「さき、たまごすぷ、いい?」
 いつでも飲めるようにと常備されていた卵スープは、熱燗を作るよりは早く出来上がる。居間を覗き込んできたに、ウボォーとシャルナークは笑顔で応じた。

「……本当に普通の家だな。店舗居住型の」
「まぁ、世間一般的には裏のない住人及び家族ってことになってるしね」
「居候がいてもか」
「普通は言い広めないし、は半年近く自由に家を出入りも出来ていなかった。従業員の口も堅いみたいだし、まぁ、軟禁状態なのが噂にならなかったのは珍しいかな」
「ふーん。……そう言えばシャル、勝負の結果だけどよ」
 ウボォーは欠伸をしながら切り出すと、自分の持っていたラッピング済みの袋を取り出す。中身はいつも通り盗って来たものだし、ラッピングしたのもパクノダだ。しかし、ぱっと見はどこにでもあるクリスマスプレゼント。銀色に輝く包装紙に、常人の手のひらよりも小さなオーナメントが揺れている。
「ああ、大丈夫。まだ誰も破ってないと思うよ」
 シャルナークはウボォーの意図していることに気づき、辺りを一度見回してから笑みを浮かべた。そのシャルナークの膝の上には、ずっと持っている同じくクリスマスプレゼントが鎮座していた。

 ハロウィンも祝ったし、流れでクリスマスを祝うのも悪くない。
 ノブナガがなにやらパクノダと話しているのを聞いて、シャルナークも混ざりたいと首を突っ込んだのが11月初旬の話。ならば今度もパーティーかしらとパクノダが首を捻ると、それでは芸がないと笑い飛ばしたのがシャルナーク。
「あの時は結局、を疲れさせちゃって全部の服を着てもらえなかったじゃんか」
「そう言えばお前、どんな服を持ってきてたんだよ」
 ノブナガが思い出したように問いかければ、シャルナークは嫌にあっさりと口を割る。
「あ、あの時? ウエディングドレスの白」
 あまりにあっけらかんと口にした単語に、ノブナガの目が言語の違う人間に遭遇してしまったような微妙なしかめ具合になる。同時に、パクノダが着なくて良かったわとため息を吐いた。
「……うえでぃんぐ、ってぇと」
「もしかして結婚でもする予定だったのかい」
 ノブナガが指を震わせながら真意を問おうとするが、背後から顔を出してきたヒソカに遮られてしまう。ヒソカは特に感情の色も出さずにシャルナークを見つめるが、対したシャルナークも至極真面目に頷いていた。
「楽しそうでいいじゃん。なんだか退屈しないし、いらなくなったら捨てれば良いし」
「シャル、冗談でもやめてちょうだい。ノブナガが暴走するわ」
「そうそう、お父さんの前でそれは危ないよ。……くっくっく」
 シャルナークの目が口調と違ってキラキラと輝き、間違っても捨てる方向など考えていないことは明らかだった。それで冗談だと認識したパクノダは、呆れた声で俯き不穏な雰囲気を出し始めるノブナガを眺めた。
 ヒソカはヒソカで、このままノブナガがひと暴れすれば面白いなと言う程度に煽り、シャルナークの言葉を否定はしなかった。シャルナークはヒソカの言葉に、考え込む振りをする。
「それもそうだね。民族限定ロリコンなお父様におかれましては、僕と娘さんの結婚を認めていただきたく」
 わざとらしく背筋を正して生真面目な顔を作り、シャルナークはノブナガに向かって四十五度のお辞儀をする。ヒソカはシャルナークのノリの良さに笑い続け、パクノダもやってられないと笑いながら距離をとる。
「シャル、お前それは本気なのか?」
 明らかに冗談だとしかいえない流れだというのに、顔を上げたノブナガは真剣そのものだった。なので、シャルナークも冗談を帯びた雰囲気を一掃し、礼儀正しくその頭を下げた。
「お父さん、お嬢さんをくださいっ!」
「っぷ! くっくっく、もうやめてくれよ」
 ヒソカはたまらず吹き出してしまい、気持ち悪いものを見たと部屋に入ってくるなり顔をしかめたフィンクスに睨まれてしまう。ノブナガとシャルナークはお互い見詰め合うが、次の瞬間その姿が見えなくなり、部屋に硬質な音を立て始めた。
 部屋に入ってきたフィンクスがパクノダに話を聞くと、呆れたように二人のぶつかり合う音を聞く。
「あれだな。シャルも物好きだよな」
「冗句ならほどほどにするといいね」
 昨日忘れ物をしたと取りに着たフェイタンも、そう呟いて早々にその場を後にする。やってられないとばかりに姿を消すフェイタンは、指に挟んでいた紙をしっかりと懐にしまっていた。
「パクノダ、あいつの持ってた紙、何が書いてあったんだ?」
「さぁ、どこかのお宝の住所じゃないかしら」
「ふぅん」
 フィンクスはそこで流したが、いつの間にか部屋に行ったのか家にでも帰ったのか、ヒソカは消えており部屋に四人きりになる。ノブナガとシャルナークのぶつかる音は続き、それを眺めていたフィンクスはパクノダが団長に電話をするのを聞いていた。
「団長? ああ、クリスマスをどうしようかと思って、電話したんですけど」
「ええ、そう。ハロウィンに大変なことになったから、クリスマスはと思って」
「パーティーをしないのなら各自でいいかしら? まぁ、皆が良くあそこまでまとまってくれたとは思うけど」
「それはいいわね。に負担をかけないだろうし。……団長、団長も下手なことをしないでくださいね」
「それじゃあ、ノブナガに聞いてみるわ」
 携帯電話から口を離したと思えば、パクノダは空中でぶつかり合うノブナガに声をかける。返事は聞こえてくるが、動きを止める様子はないらしい。
「んだよ!」
「団長と話して、の家にプレゼントを届けに行こうかってことになったんだけど、どうかしら」
「はぁ!?」
「渡すだけで、パーティーはなし! 集団だと目立つから、家主のいないときが一人きりのとき、代表が!」
 パクノダの言葉に硬質な音は止み、ノブナガとシャルナークが残像ではなく実体を持ってパクノダの前に下りてくる。
「はぁ? 何の話だよ、そりゃぁ」
 改めて胡散臭そうに口を開くノブナガは、手や足をさするシャルナークの頭を小突きながらパクノダへとにじり寄る。パクノダは慣れたもので、前回のハロウィンの話を繰り返した。ノブナガの表情が、忌々しそうに歪んでいく。
「だから、まぁ、一般人と違う自分達を忘れていたわけじゃないんだけどね」
「……おれがいくぞ」
「えー! ノブナガずるいよ!」
「やかましい」
 フィンクスはそのやり取りを何とはなしに見つめていたが、シャルナークの視線で渦中へと引きずり込まれてしまう。
「フィンクスはどうする? に会いに行きたい? それともプレゼントだけでいい?」
「いや、なんで渡す話になってんだよ。おれはやらねぇぞ」
 良く考えれば、前回のハロウィンのときも別に参加しなくて良かったのだ。しかも結局自分が用意した衣装は着られずに贈るだけになり、着たのか着ていないのかも分からないまま。
「あ、フィンクス抜け駆けしようとしてるな」
「誰がだよ」
 シャルナークの笑いながらの指摘に、違うと反論して顔をしかめる。けれどしかめた自分の心境がおかしいとおもったフィンクスは、立ち上がってその場を後にした。
「おれは参加しないからな。勝手にやってろよ」
 手を振り部屋から出て行くフィンクスに、振り返したのはシャルナークだけだった。
「どうする?」
「一応、声はかけておこうかしら」

 パクノダの声かけに寄り集まったのは、マチとシズクとフランクリンとウボォーとボノレノとクロロ。他のメンバーは捕まらなかったりパスしたりで、結局パクノダとノブナガとシャルナークを含めての九人からプレゼントが贈られることになった。
「誰が持って行くんだ?」
 ボノレノフの当然の問いかけに、シャルナークが笑顔でくじ引きを提案する。それに乗ったのはシズクのみで、シャルナークの作ったそれは即座に回収されてクロロの監督の下、公平なるくじが作り直された。
 当たり前の様にシャルナークの名前が出るようにされていたくじは、彼本人の前で焚き火となった。
「んじゃ、おれとシャルだな」
 けれど何の因果か、代表者二名と言う枠の中にシャルナークの姿があり、小細工をしていないか小一時間のチェックが要されたがそのような痕跡はなく、パクノダとノブナガの疑惑の視線を受けながらも、それぞれの荷物を預かって二人はの元へと向かうことになった。

 それで、とウボォーが口を開く。は二人に卵スープを差し出した後、摘めるものでも探してくると台所へと戻っていった。
「勝負のほうはどうだ?」
「んー……フェイタン辺りが、仕掛けてきそうだよね。なんか紙、落としたって言ってたし」
 シャルナークは先日、が一ヶ月ほど前に街で落としたという迷子札の話を聞いていた。そして保険の為にいっぱい予備を作ってもらったことも、その時の迷子札のサイズが、手のひらで隠れるような大きさだったことも。
 フェイタンがなにやら忘れ物をしたと、そう言って仮宿で紙を回収して行った時期と合致する。街で拾って自分のものにしたのか、無関係の代物なのか。
「おれはフェイタンが来ないに賭けて、お前は来るに賭けたんだよな? 今日中ってことでよ」
「そうだね、その今日ももう4時間で終わりかぁ」
 ウボォーとシャルナークは時計を見上げ、おまちどおさまです、と笑顔で熱燗と小さなケーキやら酒のつまみやらを持ってくるを振り返った。
「本当に作ってくれたんだ。悪いなぁ」
「さんきゅ、。お前も座って食えよ、飲めるんだろ?」
 お猪口をそれぞれの前に置き、自分もテーブルを挟んだ向かい側のソファーに腰を下ろしたは、二人の言葉に嬉しそうに表情を綻ばす。
「くりすます、こいびとまつり、ふたり、ひま?」
 そうとは思っていないだろう嬉しそうな表情に、男二人は瞬時に「ひでぇぞ、!」「暴言だよ!」と笑って声を上げた。
「さめる、はやい。いぱいどうぞ」
「悪ぃな」
 熱燗を勧めてくるにウボォーは軽く頭を下げて口にする。シャルナークもプレゼントを渡そうとしたが、気を取り直して酒を口にした。温かい液体が流れ込むと、また違った心地良さを感じる。
「ふふ、へん、くりすます」
 そんな二人を見てが笑うと、それを遮るように家のベルが鳴り響く。
 チリリン、チリリンと響くその音に、は首を傾げながら立ち上がった。
「ぱくのだ、のぶなが?」
「いいや、今夜はおれたちが代表だけど」
 の疑問を即座に否定してはみるものの、なんだか嫌な予感が頭をよぎる。ウボォーは続くベルの音に顔をしかめ、こりゃ負けたかなと呟いた。
「はーい!」
 一声上げて玄関へと駆けていくの後姿を見ながら、シャルナークとウボォーはもう一度勝負に出ることにした。
「フェイタン? ヒソカ? フィンクス? コルトピ?」
「大穴で団長ってのはどうだ?」
 二人の賭け事をバックに、は確認もせずに扉を開けた。
「はーい!」
 外は一面雪景色で、立っている人物の吐く息も白く染め上げられていた。



back