あたたかい雪
「えと」
「大丈夫よ、。誰も貴女を危険な目には合わせないわ」
「えと」
「、なんでおれ遠ざけられてるのかな? 私用で殺しなんて面倒くさいんだけど」
「えと」
「ゾルディック、お前うちのを殺しに来たのか!?」
「えと」
「誰がタダで殺しなんぞやるか。、お前さんの親しい友人とは蜘蛛のことじゃったんじゃな。なんとまぁ、イルミにとっては強敵じゃわい」
「……えと」
ジングルベルと歌が流れ曲が踊り、達の周りはクリスマスツリーやライトアップされた街並み、季節通りに振ってきた白い雪がそれらを更に彩るなど、ホワイトクリスマスの賑やかさを存分に発揮していた。
けれどの立ち位置からはその全てが遠く、まるで別世界の様に感じられた。
手袋をした右手にコートを羽織ったパクノダ、左手に踝まである上着を着込んだノブナガ、目の前に普通の青年スタイルでコートを着ているクロロの背中、ファーつきの上着を着たの背後から肩に触れてるシャルナーク。
そしてなぜか対峙するように前方にいるのは、イルミにゼノにシルバにキルア。彼らの表情は人間味溢れているのかいないのか、それぞれ独自のスタンスを崩さずにそこにいた。
「すまないが依頼はない。もし他の奴の依頼で来たのなら、応戦するが?」
クロロの落ち着いた言葉がの耳に入り込み、しばし脳内でその意味を模索する。一つ一つ単語を当てはめて、分からないことは後回しにして作業を進めていくと、の全身の毛が逆立った。
とっさに顔の見えるパクノダとノブナガに視線を向けるが、二人とも明らかな戦闘態勢に入っており、自分達の獲物をいつでも抜ける態勢になっていた。シャルナークが触れているの肩は、触れている彼の冷たい体温を感じて重くなる。
空気圧は変わらないはずなのに、誰一人として殺気を出しているわけでもないのに、の体は震えが走った。
クロロの言葉に、イルミが不思議そうに首を傾げる。そしてそのまま背後のシルバを見上げ、シルバが一歩前に出た。クロロとの距離は、彼らの歩幅でたったの二歩。状況をただ傍観していたシルバの顔に、愉快そうな色が入る。上げられた唇の端が、笑う。
「こっちは依頼の帰りで、たまたまを見かけたから声をかけただけだ。大掛かりな仕事でな、だからこの人数だ。警戒されるいわれはない」
ジングルベル、ジングルベルと街はお決まりの歌を流し続け、街中を輝かせているライトが、シルバの髪をゆったりと闇の中に浮かび上がらせる。クロロの背中越しに一瞬見とれたは、ノブナガとパクノダとシャルナークが一斉に握る手を強めたために、その痛みに顔をしかめてシルバのことを瞬時に忘れる。痛い、と小さく呟いて色づいた自分のオーラを橙色で点滅させる。
「ああ、悪かったな」
「ここで眠っちゃ駄目よ、まだケーキ食べてないじゃない」
「こいつら別に依頼じゃないみたいだし、早く帰ってプレゼント交換しようよ!」
一度に三人もの顔を覗き込み話し笑うが、はなぜ自分が今痛い目にあったのかが分からず、痛い手や肩をさすられるがまま三人を軽く睨みつける。三人はその目に、謝罪の言葉を口にして手や肩を握りなおした。は釈然としないながらも守ってくれているらしい三人と一人に、感謝の念を覚えながらため息をついて許した。
「……ほう」
「……」
その光景をつぶさに見ていたシルバが、小さな声で興味深そうに眉を上げる。ゼノも面白そうにその光景を見つめていて、イルミはクロロを観察していた。
背後で行われる仲のよい会話に、クロロは内心唇を噛み締める。けれど、背後から伝わるその存在感に喜びを感じないこともなかった。この距離にいても自分の背後から逃げようとせず、は大人しく立っている。四方を囲まれて逃げるに逃げられない状況と言えなくもないが、クロロの背後でも大人しいのはやはり嬉しい。クロロに対する警戒がないという事実に、嬉しさが湧く。
「依頼ではないのなら、オレたちのことは放っておいて貰おうか。折角のクリスマスに、無粋なことはしたくない」
「ならクロロ、置いていってよ。丁度いいから、このままとクリスマスを過ごしたいし」
「は?」
イルミの言葉に、シャルナークが素っ頓狂な声を上げる。妙にトーンの高いその抜けた声音は、苛立ちよりも呆れを多く含んでいた。
クロロが眉を寄せて怪訝な顔をするが、ゼノは手を打って明るい声を上げる。後ろにいるキルアを自分の傍に呼び、なにやら耳打ちまで始めてしまった。
「イルミ、良い考えじゃな。さっそく迎えに手配させようかの。シルバ、お前はどうだ」
「別に異論はないな。だがクリスマスの準備を、キキョウが用意してるか?」
「それは親父、ほら、お袋のことじゃん。ぜってぇやってるね。だから早く仕事終わらせろってうるさかったんだと思うぜ。なんか、計画がどうとかお客様がとかキーキー言ってたし」
最後の一言はを見ながら発言したキルアに、その場にいる蜘蛛四人が軽く身構えなおす。キルアの言葉と視線から導き出される答えなど、簡単に分かると言うもの。クロロ以外の三人が一斉に顔をしかめるが、キルアはどこ吹く風で笑うばかりだった。
一方、渦中のはハロウィンの時と雰囲気の違うキルアに驚いていた。
あの時は本当に余裕がなかったが、キルアからこんなに好意的に接してもらった覚えはない。挨拶をしたときですら、軽い会釈で喋ることもなかったのだ。キルアの中で何が起こったのだろうと、向けられる笑顔に戸惑いを覚えた。
キルアの言っている言葉は丁寧なものでない分難しく、としては話の半分も理解できなかったのだが、辛うじて自分の父親と母親と言う単語が出たということと、何かをしている、言っていた、お客様と計画などは聞き取れた。
頭の中でつなぎ合わせて見ると、シルバとキキョウがお客様の計画を何かして話していた、と言う文章になるが、他の聞き取れない部分が重要なようで、にはさっぱり意味が分からない。シルバの言っていた、クリスマスと言う単語に掛かっているかもしれないが、それも推測の域だ。
「じゃあ、早く帰らないとね。と言うわけでクロロ、ちょうだい?」
「誰がやると言った? はものじゃない」
「そっか、それならに聞くのが筋だったね」
剣呑なクロロに対して飄々としたイルミは、蜘蛛の突き刺し抉るような視線にも構わずに、軽い動作で距離をつめての顔を覗き込んだ。
「……ッ!」
「話は聞いてたよね? と言うわけで、ゾルディック家でクリスマス過ごすことになったから。時間も結構遅いし、早く行こう」
話の流れは一応見ていたし、会話の速さと崩された口語に内容を半分しか理解できていなかっただが、自分のほうに来ると分かっていたイルミの行動に驚く自分自身に驚いていた。
ぴやっと小動物が瞬間的に驚くように、何の深い意味もなく毛を逆立てて逃げ出すように、はパクノダとノブナガの手を強く握り、オーラの色を暖色系列で閃光の様に点滅させた。降ってきている雪すら染めるような、思わず目を閉じてしまいそうな光に、触れていた三人は瞼を閉じかけてしまう。普段は滅多にない驚かされるという行為に、三人は反射的にその場から駆け出してしまいそうになった。
に触れていないイルミは、チャンスとばかりに目を見開いて丸くしているへと、その手を伸ばす。
「やめろ、はオレたちとクリスマスを過ごすんだ」
けれどイルミの指がの皮膚に触れるより早く、同じく触れていないのでオーラが見えないクロロがイルミの手首を掴む。兄の動けなくなったその隙に、自分がやってやろうと動き出そうとしたキルアは、シルバとゼノに止められてしまう。
「あれは隙じゃない、誘いだ」
「もう少し落ち着いてみれば分かるじゃろ」
冷静な二人の言葉に、キルアはクロロとイルミへと視線を向け、そして驚いた表情のまま固まっているを見た。
イルミに抱えられて家に来て、シルバとゼノの会話に登っていた人間。
イルミが面白いものを見つけたと言って、今度キルにも見せてやるよと言われていて、会わせられた人間。
明らかに自分達とは違う匂いしかしない、喋るのも満足に出来なくてぶっ倒れた人間。
「はじめまして、きるあ。わたし、、と、もうします」
拙い喋り方、死人の様に悪い顔色、今にも崩れ落ちそうな足、貧弱な体。
キルアは自分より年上だと分かっていながら、への感想をそう評した。どれもこれも事実であって見たままであって、イルミも否定しなかった感想。いつもの様に無表情のまま、イルミはキルアの言葉に頷いていた。
「でもね、キル」
が倒れた後、イルミがなにやら執事達に持ってこさせている間、何気なく囁かれた言葉。
「おれはを手に入れるよ。この家に、あいつを住まわすよ」
何の冗談だとキルアが目を見開けば、イルミはなんでもないように執事からの荷物を受け取っていた。そしてキルアが食べかけの料理に視線を移し、ちゃんと食べてしまいなよ、なんて小言を残して部屋へと戻って行ったのだ。
今までイルミにそんなことを言わせた人間はいなかった。キルアは改めてに興味を覚えた。
きっと父親も祖父も、兄の発言を聞いたから興味を覚えているのだろうと思うと、キルアも知りたいと思うようになったのだ。自分だけ知らないなんて、損でしかない。楽しいことならば、自分も知らなければ損なのだ。
「ねぇ、あんたさ」
シルバとゼノに制されたまま、キルアはその口を開く。その声にイルミが視線を向け、クロロが向け、そして目を瞑りかけていた三人もキルアを見た。
肝心のが自分を見ないことに、振ってきた雪を手で払いながらキルアは笑った。
「ねぇ、さん」
ミステリアスで、何を考えているか分からない子供。
それが外を歩いているときにつけられた、キルアへの印象。それを逆手に取らない手はないと、キルアはようやく向けられたの視線に、にこりと子供らしい笑みを浮かべた。
の顔が、どこか安堵の色に染まる。肩から力が抜けたような表情に、キルアは内心笑っていた。なんてちょろいんだよ、おいと突込みまでしていた。
「アニキもそう言ってるしさ。おれも含めて、ここにいるメンバーであんたがこっちくるの、反対する人間はいねぇよ? 早くこっちこいよ」
最後はうっかりいつもの調子に戻っていたが、イルミはどこか珍しそうにキルアを見ているだけで、キルアを叱ったりはしなかった。そうそう、キルアもああ言ってるしなどと便乗をする始末。
シルバもゼノも、キルアの言葉に笑みを浮かべる。体を軽くほぐして、向かってくる蜘蛛の視線を受け流した。
「はおれたちとクリスマスだから、絶対に譲らないよ!」
「後から来て割り込もうなんざ、ずいぶんみみっちぃなぁ、おい」
「……もしもし、フィンクス?」
シャルナークが声を荒げての首を抱きしめ掻き抱くと、ノブナガがと繋いでいる手を見せ付けるように片手を上げる。パクノダはパクノダで、なにやら仮宿にいるだろうメンバーに連絡を取っていた。
クロロは、イルミの腕を放り出して勝者の笑みを浮かべる。
「はもう何週間も前から楽しみにしてたんだ。邪魔をしてくれるなよ」
「あ、うん」
自分の名前と楽しみにしていた、以前という三つの単語を聞き取ると、反射的には頷いていた。ますますクロロは笑みを深め、対照的にイルミの声が冷えていく。
「へぇ、そう。じゃあそれは旧暦でやればいいじゃん、ほら、」
「わたし、こんや、みんな、けーき、たべる」
「うん、それはおれの家ででも出来るし」
はイルミの言葉に首を振るが、イルミは人の話を聞かずに再度手を伸ばしてくる。そしてまたクロロがその手首を掴む。見詰め合う男二人に、電話をしていたパクノダが通話を切りながら落ち着き払って肩をすくめた。
「団長。フィンクスたちが迎えに来てくれるそうよ」
「それはありがたいな。早く戻りたいから、ありがたい」
今度はイルミがクロロの手を振り払い、痛いなぁもうと言いながら自分の手首をさする。予想より赤黒くなっているそこに、イルミはクロロの本気を見た。では、こちらも本気を出さないと失礼かなと呟いて、キルアの顔を引きつらせる。
「アニキ、本気出すのかよ!」
「だってほら、幻影旅団の団長と他三人だからね」
「ふぅ、金ももらわんと殺るなんて性に合わんわい」
「蜘蛛には手を出すなと言ったはずなんだがな。……まぁ、しょうがねぇか」
キルアの絶叫をよそに、ゾルディック家の男達は次々と首を回し手首を回し、戦う準備を始めてしまう。
「へぇ、やんのかよ」
「やだ、肉弾戦?」
「ウボォー来るって言ってた? あ、ならちょっと待てばあとは楽だね」
蜘蛛の方も次々と自らの準備にかかり、は蜘蛛達の背後のさらに奥へと押しやられていく。
『え、え、ちょ、みなさん!? ちょっと、なに戦闘態勢みたいなことしてるんですか!』
『みたいなじゃなくて、そのものだよ、ばーか』
『余計悪いじゃないですか!』
混乱して母国語を喋っている自覚もないのか、ノブナガに突っ込まれては噛み付くように高い声を上げた。ノブナガは返ってきた言葉に笑い、頭を撫でて背後へと押しやった。
『あぶねぇからな。どっか隠れてろ、殺気に当てられて前みたいに気絶するぞ』
『なら止めてくださいよ! ああもう、私は向こうに行きませんから!』
「なんて言ってるんだ?」
とノブナガだけの会話に、他の誰も割り込めない。クロロは今更見せ付けられてもどうと言うこともなく、ただ淡々とその内容を問いただす。
ゾルディック家の面々は、ああそう言えばそんなことも聴いていたなと言う程度で、ノブナガの次の言葉を待つ。返答いかんによっては、この後の動きが変わる。
「ああ、にこのままじゃ気絶するって言ったんだけどよ」
「前みたいにかしら」
「ああ、あったね」
「それで?」
三人がそれぞれの反応を返すと、ノブナガはゾルディック家を窺いながら楽しそうにからからと笑い声を上げた。
「なら止めろとよ。向こうには行かねぇから、止めてくれと言われた」
どうだ、まいったかとで言いたそうに弓形になったその唇は、未熟なイルミとキルアの癇に障った。カチンと硬質な音が聞こえた気がして、二人とも一歩前に出る。
「キルア」
「イルミ」
シルバとゼノがその名を呼ぶが、二人ともそれぞれ身構えて今すぐにでも飛び掛っていきそうな殺気を放ちだす。手を離され支えのないは、自分に向けられているわけではないと分かっていながら、その肌をあわ立てた。電流でも流れたようなその衝撃に、の足が崩れ落ちる。
「わ、馬鹿!」
思わずシャルナークが叫ぶがすでに遅く、は足に力が入らずに冷たい雪の積もったアスファルトに座り込んでいた。目は空ろで生気が薄く、冷たい空気の中では洒落にならないほど顔色が悪くなっていた。慌てて叫んだシャルナークが手袋を外して手を握るが、先ほどまでの熱さをまったく感じられなかった。降ってきている雪と同化してしまいそうなほど、手袋をしていたはずなのに冷たいその手。
「団長!」
「ああ、すぐに戻ろう。悪いなゾルディック、急患だ」
「は、なにそれ」
反射的にキルアが声を上げたが、その時にはシャルナークに抱き上げられたが空を舞い、他の三人も警戒しながらその場を立ち去るところだった。
「ちょっと待てよ!」
「キル」
「あーもう! なんだよ、アニキ!」
追いかけようと走り出すのを制したのは、先ほどまでキルアと同じくらい激昂していたはずのイルミ。苛立ちのまま睨みつけると、怒るなよと気にしているとは思えないほど軽い声で、イルミは肩をすくめていた。
ゼノがやれやれとため息をつくと、シルバが帰るかと踵を返す。
「なんじゃなんじゃ、結局向こうの勝ちか。つまらんのう」
「今回はイルミとキルアが敗因だな。が一般人なら、お前達二人の殺気に耐えられるわけがない」
二人の台詞に、キルアの眉が寄る。イルミの選んだ女が、本当にただの一般人?
疑問のまま自分の兄を見上げるキルアに、当のイルミが自分の手を打って声を上げた。
「そっか、は一般人だったよ。普通にナイフ向けただけで、ひょっとしたらショック死するほど弱い奴」
「はぁ!? アニキ、そんなの選んだわけ? アニキの仕事しらねぇの!?」
「いや、知ってるみたいだけど?」
「はぁ!?」
キルアの叫び声に呼応するかのように、雪は激しさを増して地上へと落ちてくる。うっすらとのしゃがみ込んだ後を見つけ、シルバはゼノと視線を合わせてほくそえむ。
「キルア、その位にしておいてやれ」
「イルミの初恋じゃからな。多めに見てやるがいい」
「……しかも、これで初恋かよ!」
「なにか悪かった? キルに迷惑はかけてないよ」
「十分かかってるっつーの!」
叫び続けるキルアに、イルミはシルバとゼノへと歩み寄った。
「最近のキル、もしかして反抗期?」
「ちげーよッ! 馬鹿アニキ!」
キルアの叫び声も聞こえない町外れで、はようやく呼吸を取り戻す。冷たい空気が一気に入り込んでむせたが、それも数十秒後には穏やかな呼吸へと戻っていった。
「災難だったわね、」
頬を撫でながらパクノダが慰めるが、涙目のは泣き笑い顔で首を振るばかり。
「帰ったらすぐに食べようよ。他の皆もなにか盗ってきてるはずだし」
シャルナークの脇にノブナガの鉄肘が入り、シャルナークの顔がの視界から消える。が自分を後ろから抱きしめているシャルナークの顔を探そうとするが、ノブナガはの顔を両手でやんわり自分の顔へと向け、笑みを浮かべた。
「他の奴らも、なんか持ってきてるはずだからな。安心してろよ」
「……う、うん」
「よし」
ノブナガが力強く頷くのを聞いて、辺りを見回していたクロロが戻ってくる。
「回復したのならすぐに戻ろう。ゾルディックに嗅ぎつけられても面倒だ」
「団長ー! なにがあったんだー!!」
「あ、ふぃんくす、ふぇいたん。……えと、あと」
「あらやだ、ヒソカじゃないの。……ああ、マチがいるからね」
パクノダの電話で飛び出してきたメンバーが、運良くクロロたちの姿を見つけ合流を果たす。
皆それぞれ温かい格好をしているのを見て、は苦しかったのも忘れて新鮮な気持ちで笑みを浮かべる。触れていたパクノダには、はしゃぐように揺らめくのオーラが見えた。
機嫌が良くなったのが分かると、パクノダも笑みが柔らかくなる。
「団長、パク、なにがあったんだい? フィンクスに言われてきたんだけど」
「やぁ、今日も相変わらず弱そうだね」
クロロの元よりも、先にの元に走ってきたマチとヒソカは、相変わらずの落ち着きっぷりで挨拶をする。ヒソカの言葉を理解したは笑い、シャルナークの腕の中で軽くスカートを摘んで腰を下げた。
「おかげさま、わたし、きょう、よわい。ひそか、きょう、いつも、つよいね」
「こちらこそ、おかげさまで。マチは相変わらずつれないけどね」
「それ以上くだらない事言ったら、その口を縫うよ」
「はいはい」
よくよく見れば二人とも普段のような髪型ではなく、どこにでもいるような似合いの美男美女。髪を下ろしただけでこうも違うというのは、何度見てもにとっては驚きだ。
「ゆき」
「ん?」
マチとヒソカの向こう側、クロロの元に駆け寄っていったフィンクスとフェイタンを指差したに、みんなの視線が指の先を見る。今日ばかりは着込んでいるフィンクスの頭の上に、走ってきたはずなのに積もっている雪。マチの目元が緩み、ああ本当だねぇと幾分か柔らかい声で応じた。
「もうクリスマスなんだねぇ、今年は面白いことばかりで結構早かったなぁ」
ヒソカの呟きに意味深な響きが聞こえなくもないが、はシャルナークの腕の中から立ち上がって頷いた。
ノブナガの差し出した手を見て、顔を見合わせて笑うとその手を取り、慣らすように軽くその場で足踏みをする。ん、ん、と確かめるように声を上げ足踏みをするに、皆の視線が集まる。
「ん、だいじょぶ」
「そりゃよかった。あんたが弱ってると、今夜のパーティーが台無しだからね。好物揃えてやったんだから、たんと食べなよ?」
「ありがとう、まち! わたし、まち、わたす、ある!」
「楽しみだね」
「だね!」
笑い合うマチとを優しく見つめていた環の中に、話の終わったクロロとフィンクス、フェイタンが混じってくる。
「他の奴らはすでに戻ってるそうだ。急ぐぞ」
「はい」
ゾルディック家の皆が気にならないわけではないのだけどと、は背後を気にしながら言われるがままにフィンクスの背中に負ぶさる。最初は抵抗していたのだが、足が遅い亀の癖にと散々言われれば、恥も外聞も忘れなければならないのかと覚悟を決めた。
「おじゃま、します」
「おう」
しっかりと背中に負ぶさり両足の膝裏をつかまれれば、はフィンクスの肩に顔を預けて力を抜く。動き出した景色に降り続く雪を見て、本当にホワイトクリスマスだなぁなんて感心をしていた。
「お前があぶねぇとか言われてよ、急いだんだぞ」
ぽつりと呟かれた言葉に、は顔を上げてフィンクスの横顔を見た。寒いためか、照れのためにか染まった頬と耳。
「お前は弱いんだから、おれ達と付き合うなら心配かけんなよ」
「……ありがとう」
「おう」
周囲を見渡せば、ちらちらとこちらを気にしつつ空を駆けている人ばかりで、はフィンクスにしがみつく力を強くした。雪が降り続けているのに、あったかいなぁと微笑んだ。
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