衣装:システム変更編
「で、次は誰?」
「んじゃ、おれのいくか?」
「あ、私も」
パクノダが話を振ると、そばにいたウボォーが手を上げる。が、次いでシズクも片手を上げ、シャルナークがじゃあ自分はその次でと頷くが、シズクは首を横に振る。
が首をかしげてシズクを見るが、その視線に表情を変えずにシズクは周りに質問した。
「この人数をこのペースでやってたら明日になっちゃうと思うんだけど」
「しょうがねぇだろ。全員集まっちまったんだから」
ノブナガの嫌そうな一言に、ヒソカが喉奥で笑う。
「いやだね、父親はこれだから。皆を構いたいだけじゃないか」
「お前が言うと、余計下心を疑っちまうんだよ」
「いやだなぁ、純粋な気持ちなのに」
ノブナガの険の含まれた視線をものともせず、ヒソカはにっこり微笑むと腕だけ動かしてを抱き込んだ。フィンクスと手を繋いでオーラを見せていたは、とっさの事でフィンクスの手を繋いだままヒソカの腕の中に落ちる。
「ってめ! やめろ!」
「いやだなぁ、抱きしめてるだけじゃないか。怒るなよ」
「……おい、大丈夫か」
「び、びくりした」
ノブナガとヒソカが頭上で遣り合っていることに怯えつつも、はフィンクスの手をしっかりと握り締めたまま、何度か瞬きをして驚きを示した。
フィンクスに見えていたホラーハウスのようなオーラは消え、弾けたそれらの後に現れたオーラの形は、小さなが自身の頭の上でひっくり返って気絶をするというもの。目がちかちかしているのか、頭上には羽根の生えた輪っかを浮かべている天使が飛び交い、その周りの色も橙色と黒が瞬きを繰り返していた。一気にメルヘンなオーラになったことに、フィンクスは溜まらず吹き出す。
そんなフィンクスに気づいたヒソカも、それに気づいて思わずノブナガへの威圧も忘れて吹き出した。対峙していたノブナガは不機嫌な声を上げるが、フィンクスが膝をつき肩を震わすのを見て、二人の視線の先のに原因があるのだろうと思い当たる。
「なんだよ、なにがおかしいんだ」
それでもヒソカに声を投げれば、触れば分かるよとの明確な答えにノブナガも無言になる。
『、いい加減ヒソカから離れろ』
八つ当たりの様に叱ると、瞬きをしていたは慌ててヒソカを仰ぎ見てフィンクスから手を離し、ヒソカの腕の中からノブナガの背後へと走っていった。
ヒソカがわざと腕の力を抜いたことも分かってはいたが、はノブナガの背中に張り付きながら顔をしかめて見せる。
「ひそか、いきなり、びくりするよ」
「ごめんごめん」
軽くて飛べそうな謝罪には顔を本格的にしかめるが、ノブナガの視線に気づいて顔を上げた。呆然としたように口を半開きにしているノブナガの目には、気絶をしていた小さなが起き上がり頭を振り、本体の頭の上からノブナガを見上げる光景が見えていた。
『お前、本当にわけわかんねぇ』
その規格外のオーラの形に、ノブナガはリタイヤだとかなんとか呟いて首を振る。
『なんですかそれ。侮辱ですか』
そりゃぁ、皆さんみたいに反射神経良くないから、すぐに対応できなくて呆れるかもしれませんけど。ヒソカさんの行動を読めるほうがどうかしてますって。
ノブナガの反応に服を掴んでぶつぶつ愚痴るは、またすぐにノブナガから離れていく。周りがその動きを目で追いかけると、クロロが手招きでを呼んでいた。少し距離を置いては立ち止まるが、マチが笑う。
「盗って食われやしないよ」
その言葉に情けなく眉を垂れたは、クロロではなくマチの方へと足を進めて近寄っていく。シャルナークとフェイタンが笑うが、クロロは苦虫を噛み潰したような顔でため息を吐いた。
「くろろ、なに?」
マチの体に隠れながら問いかけてくるに、クロロは表情を引き締めて顔を見た。目が合った瞬間に目を見開いて固まるに、クロロのほうが戸惑ってしまう。マチがすぐに気づいてその場に座らせ、マチとクロロよりも一段低い椅子へとは腰掛ける。それでも向けられるパクノダとノブナガの鋭い視線に、クロロはますます戸惑った。
「……、お前の仮装のことなんだが」
声もなくがマチの膝に手を置き目を覗かせて頷くのを見ると、クロロは先へと進める。シャルナークの視線も痛く刺々しいものになってきた。
「その場その場で順番を決めると効率が悪いし、なによりお前は体力がない。おれたちに付き合っていたら一泊どころじゃすまないからな」
クロロの気遣いが含まれているのだろう言葉に、は怪訝そうに眉をしかめながら頷く。その反応に、クロロは苦笑しながら先を続ける。
「だからこれからボノレノフ以外のメンバーで順番を決めて、お前にはさっさと服を着まわしてもらう。先に決めていればよかったんだがな、誰か異議はあるか」
クロロの言葉に部屋の誰もが首を横に振り、ないと答えた。
マチがよかったねとの頭を撫で笑いかけるが、はマチの膝に手を置いたまま、声も出さずにクロロを見上げる。
いかにもあちこち尖った衣装に身を包んだ、目の周りも青く化粧している魔王のクロロが気遣うと言う光景に、は逆に天使の衣装だったら良かったのではないかと思った。クロロは未だに怖いが、を気遣ってくれる。初対面以来殺されそうになった覚えもないし、怖がらなくてもいいのかもしれないと考えた。
マチはが考えている間、小さな天使と悪魔がオーラから顔を覗かせているのを見たが、それらの顔がクロロに似ていることに唇をしっかりと噛み締めた。笑い出したら負けだと自分のドレスを握り締め、視線を上げたと目が合う。
「まち?」
「なに?」
お互いしばし見詰め合うが、マチはクロロに名前を呼ばれ、はパクノダに肩を叩かれて正気づく。
「はちょっと待っててね、すぐに順番決めるから」
「じゃあ、ぼくが見てようか」
「お前はおれ達と順番決めだ!」
近づいてこようとしたヒソカはあっさりノブナガに首根っこを捕まれ、楽しそうに引きずられていく。返事をしようとパクノダを見上げていたは、あっけにとられて口を開けっ放しになっていた。
パクノダは無言でその口を閉じさせ、もう一度待っているよう念を押す。クロロとマチの二人は立ち上がり他のメンバーの元へ行き、シズクとコルトピの提案であみだくじで決めることになった。
『あみだくじ……』
集まった全員いい大人なはずなのだが、だれもかれも楽しそうに線を書き名前を加えていく。横線を引いているのだろう、小競り合いの口喧嘩さえも楽しそうに弾んでいて、は渡されたキャンディーを舐め始めた。
「あー! てめ、フェイお前その線はなしだろ!」
「うるさいよ。お前の言うこと聞くきないね」
「もう横線終わりだって言ってるだろうが!」
「おいおい、それじゃ変則的過ぎるぞ」
「あ、この線の番号分かっちゃった。書き加えるね」
「そっちの線はおれだからね。ヒソカはこれにしなよ」
「君の指図は受けないね。シャルナークこそ、こっちはどうだい?」
楽しそうに盛り上がっている光景を見て、ちょっと仲間はずれのような寂しさをは感じた。
キャンディーが口の中で、ぱきりと砕ける。
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