舞い込んできた手紙。



 はサテラがお菓子を買い込んだのを見て、小首をかしげた。
 普段なら着色料やら添加物やらが多いから、なんて言って彼女は食べも買いもしない市販のお菓子の山。それを抱えて帰ってきたことに、は半分紙袋を受け取りながら問いかける。
「ああ、もうすぐハロウィンだからよ」
 サテラは言ってなかったかしらと笑顔で答えるが、にはその単語の意味が分からずに聞き返した。するとサテラが紙袋の中からかぼちゃの絵の入った紙を取り出て、に渡してきた。は素直にその文章を読み、ようやくハロウィンだということに気がついた。
「はろうい、かぼちゃ?」
「そうそう、かぼちゃをくり抜くの」
 お客様と店に飛び込んでくる子供に配るのだという、その彩り鮮やかな菓子たちを見て、も手伝うと手を伸ばす。
 サテラは菓子をラッピングし直したり、袋に詰めたりしていたので、至って単純な作業だと思ったのだ。が、伸ばしたはずのの指が透けて菓子が見えていた。え? と驚いての手が止まり、次にサテラの目が見開かれていく。
?」
 二人とも動けずにいたが、しばらくすると目の錯覚だったのか光の加減だったのか、の手はきちんと色を取り戻した。
「な、なんだた?」
「……空気が悪いのかしら」
 自分の手をひっくり返したり触ったりすると、首をかしげながら換気を始めるサテラ。
 そして顔を見合わせ、もう一度の手を見てから改めてラッピング作業を開始した。

「そうそう、に手紙が着てたわよ」
「てがみ?」
「はい、これ」
 サテラが思い出したように紙袋の中から取り出すと、その黒い封筒を見たの顔色が曇る。どう見ても真っ黒な封筒は怪しく、ついついは気持ち悪いものでも見るかのような視線を向けてしまっていた。
 それを見て、封筒を差し出したサテラが微笑む。
「大丈夫、きちんと宛名も差出人も書かれてるわよ。ほら」
 言われてもの中の胡散臭さは消えなかったが、とりあえず受け取りはした。裏をまず見ると、オレンジ色で書かれた名前に目を疑う。慌てて表を見るが、何度読んでもこの世界の文字で書かれた「」と言う自分のフルネーム。何の冗談だと何度も差出人の名前を読むが、何度読んで見事実は変わらなかった。
「なに、どうしたの」
 そんなの様子に、サテラは面白そうに口の端を上げて笑う。どこか悪戯をした子供のようなその表情に、困惑していたはさらに混乱する。
「さ、さしだし、ひと」
「うん?」
 戸惑い封も切れずにいるに対して、サテラはどうも楽しくてしょうがないらしい。そんなサテラに文句の一つでも言いたいが、それよりもなによりもさきに、この封筒のわけを聞きたい。手紙のわけを聞きたい。
 はつばを飲み込んで、いつの間にか乾いている口内を潤しきれないまま、口を開いた。
「なぜ、てがみ、きた?」
「ハロウィンだからじゃない?」
「でも、まだ、さきよ」
「じゃあ、きっとなにか用事があるんじゃないかしら。ハロウィン前に」
 どこか知っている口ぶりのサテラに、もなんとなく事態を理解し始めていた。
 困惑して中身を見られないなのに、それを宥めたり疑問に思ったりすることもなく、サテラはお菓子のラッピングを続けている。
 これにはも不自然さを嗅ぎ取って、封筒を自分の胸へと掻き抱く。
「さてら、なに、してるの」
 恐る恐る問いかけると、返ってきたのは満面の笑み。
 は不穏なものをそこから嗅ぎ取って、一目散に自室へと跳んで逃げた。
「あら、問い詰められなかった」
 後には間抜けな感想ひとつと、サテラのからかい過ぎたかとあっけらかんと反省する姿がひとつ。お菓子の山から覗いていた。

『悪い知らせじゃないといいんだけど』
 滅多なことでの知り合いは手紙など送ってこない。直接来るか、電話か、誰かからの伝言が主だ。数は落ちるがメールを送ってくる人間も居る。
 けれど、手紙なんて初めてだ。
『どうしよう……』
 床に置いた手紙を前に、正座しては悩んだ。

差出人:クロロ・ルシルフル