大船・段原 (H20.2.28 アーカイブ版)   R7.1.4(土)再アップ




 蒼天に屹立する孤高の大船山

吉部からの
登路を歩き終え、坊ガツルに入ると、この景色が見たくて足が速くなる。
明るくて眩しい大船山が目に入ると、胸がときめく・・
そして、神々しく圧倒的なこの迫力に身震いが起きる・・
「また来たよ、今日もよろしく・・」とひとりでに口から出てしまう・・
孤高の大船山は何を語っているのだろうか・・それを考えるだけでも楽しい・・
白き頂を主張する北大船山も美しい・・

    
 山行記   

寒波襲来で再び九重は白くなった。

今年の冬の目標として、大船の坊ガツルに下る西斜面のピンクアーベントを考えていた。

チャンス到来という事で吉部Pからの大船の夕暮れ山行となった。

実は今回のポイントは段原であるが、それに先立ち山頂に行き、有氏コース側の

お地蔵さん付近までの登路の吹き溜まり状況の確認もあった。

私は大船山行は有氏コースしか使わない。

と言うのは、吉部コースも、長者原コースも、大曲スガモリ越コースもアプローチが長く、

体力的に無理だからである。

しかし、有氏コースには欠点がある。

あまり、メジャーなコースでないので人が少なく、

悪天候が続くと雪道のトレースがなくなっている事が多いのだ。

それと、山頂手前のお地蔵さん付近が吹き溜まりの名所になっている。

坊ガツル方面からの尾根を超えた吹雪が山頂手前のコースをすべて雪で埋めつくし、

登路が完全に埋没してしまうのである。




  
  神々の宿る大船山


なんと神々しい大船山であろうか・・
まるで神が宿っている様な神秘さを感じる・・。
ジーッと見ていると神々の語らいの声が聞こえてくる・・。
やっと見る事が出来た白銀の大船・・
今からあの山頂に立てると思うと胸がときめいてくる・・。
「くじゅうに大船あり・・」 まさにその説得力は充分である。

   
  山行記

   トップからの続き・・

私は2年前に一度それを経験している。

山頂手前のお地蔵さん付近から登路が吹き溜まりでなくなっていた。

ヤブコギで少し進んでみたが、それはそれは恐ろしく手強い灌木で10メートルも進む事ができない。

ブッシュ越しに大船の山頂が見えるのであるが一歩も進む事ができない。

涙を呑んで引き返したものだった。

今日は天気も快晴、風もなし・・、その確認も兼ねてゆっくりのんびり・・のつもりだったが・・。


久しぶりの吉部コース・・Pに着いてビックリ・・。

真っ白い銀世界だ。木という木には雪がノッコリと積って皆重たそうに垂れ下がっている。

林道は完全な圧雪路でその下はカチカチの氷だ。

橋を渡りすぐに右折し大船林道に出る右岸コースに入る。

入ったとたん、木々に乗っかったボンボリ雪の攻撃だ。

登路に覆いかぶさって、まともに歩く事ができない。

ステッキでたたき落としながら進む・・。

それでも頭から被ってしまい、かなり濡れてしまった。

やっと林道に出て一安心・・。林道も地面は見えず完全な圧雪道でカチカチだ。

一頑張りで鳴子橋着。


中央バイパスを通りキャンプ場で水を補給。

避難小屋前を通り、登山口へ行きかけると、ムムッ、トレースがない・・全くない。

「ちょっと待って〜、私はトレースのない所は歩けません〜」と言いたかったが

30メートルくらい登ってみた。積雪は20センチくらいで深い所は30センチくらいはある。

実は私はこのコースは調べたら26年前に職場のリクレーションで一回登ったきりで

その後は登った事がなかった。初めてと一緒だった。

登路の空間を経験と感で見つけながら登って行った。

とにかくほとんどテープがない。

これにはまいってしまった。

雪道はトレースがない場合、ちょっと空間があると間違ってそこにスーッと入り込んでしまう。

これが一番危険なのだ。

それと困ったのが、周りの木々に乗っかったボンボリ雪だ。

道に覆いかぶさってまともに歩く事ができない。

ちょっと触るとバサバサと頭に落ちてくる。

その量が並の量ではない。

段原への登りがこんなに大きな木に覆われたトンネルだとは知らなかった。

ここで私はピーンときた。

この木から落ちるボタ雪でたった一人の私の貴重なトレースが

帰路は消えてしまってるのではないか・・と。

明るいうちならまだ良いが、暗くなったらヘッドランプ頼りでは道を失うのではないか・・と思った。

私は急に怖くなり、段原でアーベントを見てから

暗いこの道を下るのを止める事に決心した。

時間はタップリあるし、一応山頂まで行き、有氏コース側コースの確認だけはしてすぐに

キャンプ場に下りようと決めた。

しかし、段原までの登りがキツかった。

時々膝までの吹き溜まりに嵌まりながら一歩一歩だ。

いつもは汗はあまりかかないのだが今日はビッショリになってしまった。

やっとの思いで段原に着いた。

着替えようと山小屋に行こうとしたら、登路は30センチくらいの雪で埋まっていた。

着替えてから山頂側に少し行ってみたら、登路は完全に埋まっていて所々で膝上までのズボズボ状態だ。

これでは私は無理だ・・と直感した。

これ以上無理をしたら危険だと思った。

今日は山頂は諦める事に決めた。

やはり冬の大船は厳しい、一夜にして恐ろしい山に豹変する。

こんな夜道を歩く・・などと考えただけでもゾーッとしてしまう。

晴天のもと、26年ぶりに段原に登って来たというのに、真っ白く本当に美しい山頂を

前にして残念だったが今日は諦める事にした。

山小屋に戻り値段の高いプレミアムビールで腹ごしらえだ。

今日は汗をビッショリかいたので格別に美味い!。

段原から見た事もない真っ白な山頂をジックリと眺める。

山頂付近の険しい岩峰が眩い・・。

その輝き様はなにか得体のしれない光を放ち、まさに山の神様の存在を感じさせる。

入り組んだ岩峰の光と影をピンク色でこの段原から見たかったが

今日はここでお別れをする事にした。

一時間近く段原で眺めていたが、誰一人登ってくる人はいなかった。

下りは私の予感が的中した。

木々に乗っかったボンボリ雪は全部落ちていた。

たった一つの私のトレースを埋めて消えている所が何カ所かあった。

これではやはり夜道は危険だ。

ヘッドランプ頼りでは脇道に入ってしまう危険性極めて大だ。

良い決断をして良かったと思った。


今日のキャンプ場は暖かくいい気持だ。

いろいろと緊張の連続でかなり疲れてしまった。

熱い紅茶と薄皮あずき饅頭で日暮れまでゆっくりと休憩をした。

小屋横のマンサクはまだまだ蕾が固かった。

お気に入りの鳴子川の淀み場に移動をしてここからピンクアーベントを眺める事にした。

今日の日没は18時08分、30分前からショーは始まる。

午前中に比べたらかなり溶けてしまったが、まだまだ大丈夫・・。

陽が傾きながら静かに白い峰は色を変えていく。

それは赤なのか、オレンジ色なのか、ピンクなのか・・、見れば見るほど分からなくなる。

大船の西斜面をゆっくりと中岳の影が昇って行く。

太陽はもう三俣の向うに沈み見えない。

大船のオレンジ色が時々ゆらゆらと揺れる様に変化する。

きっと太陽が雲に隠れたりまた顔を出したりしているのだろうか・・。

瞬間、ボンヤリと暗くなってしまい、ひょっとしたらこれまでか・・と思ったが、

再びパーッと明るくなり、今日最後の輝きを見せてくれた。

今日もくじゅうの女神は厳しい試練を与えたが、

その輝きは「今日は頑張ったね。ご苦労さまでした・・」と言って優しいアーベントで

微笑んでくれた様に見えた。

私も思わず「今日もありがとうございました」と口から出てしまった。

今日は山頂まで行けなかったショボン、段原でピンクアーベントを迎えられなかったショボンと

ダブルショボンに終わったが、その分冬山の良い経験をした。

冬の雪道、特に夜道は絶対に無理をしてはいけない・・という良い勉強をした。




 今日の山行の狙いは、このアングルのピンクアーベントだった。
 やっと見る事ができた白銀の大船山・・。
 ピンクアーベントは逃したが、この厳しく、威厳のある姿は何に例えたら良いのだろうか・・。
 「くじゅうに大船あり・・」 まさにその説得力は充分である。





 今、この時間で大船山に登っている人間は一人もいない。
 今日の大船は人間をまったく寄せ付けない本来の自然そのものだ・・。
 まるで神々の語らいの声が聞こえてくる様だ・・。



 ここは段原の広場。
 今日はここから山頂までは私の脚力では無理だった。
 登路が吹き溜まりで30センチから50センチで埋まっていた。
 山頂付近はもっと深いのではなかろうか。
 今日はあとにもさきにもここに来たのは私一人だった。
 いつもは、大賑わいの段原なのに・・。



 今日最後のショット。
 朝は真っ白だった山頂の雪はほとんど融けてしまった。
 一旦薄暗くなり、これでお終いか・・と思ったが、
 瞬間、山頂がパーッと明るくなり、最後のアーベントを演出してくれた。
 今日はいろいろと苦労があったが結構頑張ったので、
 くじゅうの女神がご褒美をくれたのかもしれない。
 帰路、北坊ガツルで何度も後をふり返り「今日はどうもありがとう。また来るね・・」と
 何度もお礼を言って帰途についた。


    ご訪問いただきありがとうございました・・