その5 これはついてる、入盗(湯)の記
 この日はついていたんだ。我々の温泉行脚も日を重ね、回を重ね県下の温泉とおぼしきところはほとんど網羅して来た。そしてその日によってついてる日がある。要するに1日に2回も無料で無断で、初めての湯につかることができた。入湯ではなく入盗である。かねてより小松地獄へ行ってみたかった。それは温泉の先輩の美坂哲男氏も入盗している温泉があるからだ。(「山のいで湯行脚」による)

 九大山の家なるものが筋湯の奥にあることは昔から知っていた。そして地図でみるとその小屋の横に温泉のマークがある。これだ、美坂氏もだまって入ったのは。我々もこれに入るべく4月のある日、あのすごもりの湯に入って大満足をした帰りに小松地獄へと3人が現われたのである.その湯とおぼしき建物はすぐに感覚でわかった。

 最近では匂いで温泉小屋だなという感覚がわかって来た。そこはまさにあせぴの花が満開の山の家であった。浴場のドアを静かに廻すと鍵はかかってない。のぞくと浴槽にこんこんとお湯があふれている。ああもったいない、こんないい湯が誰も入らずに流し放しとは。入口のドアに張り紙「この湯は共同湯ではありません。」

 気になるので一応断わるために玄関にまわって大声で呼んでみるが誰もでてこない。入口脇にはこの設備の寄付者である人の名前、広瀬正雄など2人の名前が重々しく書かれた看板がさがっている。誰もいないから仕方ない。共同湯ではありませんと書いてあるが入ってはいけませんとは書いてない、と勝手な解釈をすることによってふろにとぴこむ。

 やや熱めの硫黄泉だろうがその量が豊富なことで浴槽はきれいだ。ガラス張りの窓で明るさが一層あり快適な入浴となる。あがってさっぱりとして小松地獄を散策する。丁度地獄の整備をするための工事をしており今後は地獄として人を呼びそうなことを期待しているのだろう。ふりかえると今入った浴場にうまくマッチした小さな小屋があせぴにかこまれた雰囲気であり、そのすぐ後方に九電の八丁原発電所があり、白い煙をもうもうとたてていた。

 さて次は筋湯も何回も来ており、すどおり、ひぜん湯も前回に入っているので写真だけを撮り、大岳温泉へと向かう。ここも九電の発電所のため相当昔とかわっている。昔の大岳温泉をさがして思い出をたどりながら行ってみたが、今では九電関係の下請会社の寮になっている。大岳温泉としては入口の旅館だけだと聞いてその旅館・泉水荘へともどる。

 「ごめん下さい」と入ってみるが誰も出てない。いくら呼んでも人がいないのか、そのうちお湯がどこにあるかさがしてみると、あった。洞窟温泉だ.旅館のすぐ裏のガケに掘られた温泉があり、お湯いっぱいだ。旅館の人が帰ってくるとまずいと思い、ひとりだけ受付に待たせて早速洞窟温泉にとぴこむ。となりの浴槽にまわってみるとそちらの方がやや大きい。どうやら女風呂の方に入ったのだろう。それにしても入口に何の表示もない。どっぷりとつかりあがってみるがまだ旅館の人は帰って来ない。残ったTは入らないというのでしかたない、帰るとする。日曜日とはいえ昼さがり、旅館の人が小1時間余りも家をあけて帰ってこない、まったくのんぴりした話しだ。従って我々もだまってはいらせてもらったので、そのかわり宣伝しておこう。

 大岳温泉(筋湯の手前)の泉水荘でぜひ洞窟風呂を楽しんで下さい。この日はその帰りに湯布院の無名共同湯に入らせてもらったし、別府の堀田の滝湯はダメだったが丸尾温泉に100円で入った。

                          back